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And This Is Not Elf Land

AVENUE Q


「あんたら、みんなアメリカ病だよ!」と呆れながらも大笑い♪

SESAME STREETをイメージしたマペットたちが繰り広げるAvenue Qの住人or住モンスターの人間orモンスター模様。音楽も親しみやすくて躍動感があって、一度耳にしたら忘れられないキャッチィなメロディーが多い。


Avenue Qとは、Avenue AとかBとかCとか…早い文字の通りは家賃などが高すぎて住めない人orモンスター(…しつこくてスイマセン。でもpolitically correctじゃないといけませんので)が最後に辿りつく街。

なんか、RENTの舞台となったAlphabet Cityみたいですね。実際のAlphabet CityはDぐらいまでだと思うのですが…さすがにQとなると、凄まじく「訳あり」の住人or住モンスターも多いのではと思うわけですよ。

元ネタとなっているSESAME STREETはアメリカの公共放送PBS関連のグループであるCTWが製作しているもので、保守派から睨まれるくらいに「文化的多元主義」を標榜し、非常にリベラルな立場を貫いている番組です。右派メディア、FOXのキャスターがよくSESAME STREETに噛み付いていましたよね。

このAVENUE Qは2004年、あのメガミュージカルWICKEDを破って、トニー賞最優秀ミュージカル作品に選ばれているのです。


なんかねぇ、分かる気がしますよ…。これ、掛け値なしで「ぜったいアメリカ人が好きだよ!」って路線ですよね。「ハイハイ…毎度ご苦労さん~」なんて笑いながら観ていられるような内容。でももちろん、技術は卓越しているし、風刺がピリッと効いた極上の味付けになっている。(やり方も凡庸だったらお話になりませんからね。)

だいたい、「ひょっこりひょうたん島」から人形劇に馴染んでいる身としては(…)、人形を動かしている人、または声だけの出演の人というのは…ハッキリ申し上げて「地味」なイメージで、スターとは程遠いという先入観がありました。このAVENUE Qは人形を動かす人もあたりまえに舞台に出て歌い、時には踊るのですが…みんな、美男美女でスターのオーラがありまくる人ばかりですよ…どうして?(…って訊かれてもって~感じですが)

特にNickyなどをやっていたChristian Anderson…カッコよすぎ。マペット抜きで出てください(!)Kate MonsterやLucyをやっていたMary Faber、正統派の美人女優じゃないですか~。それで、人形を扱う技術も声優としても歌手としても完璧にこなしているんですから。


私も毎度同じことばかり言ってますが、やはりこれがブロードウェーなんですよ。だから、太平洋を越えて何度も何度も足を運びたくなる…

さて、元ネタのSESAME STREETと同じく、Avenue Qにも、日本人や黒人も住んでいて、住民たちは非常にカラフルなのです。コメディアン志望でケータリング会社を解雇されたBrianのガールフレンドは日本人のChristmas Eve。彼女はsocial workの学位を二つも持って、夢を持ってアメリカに来たのだけど思うように仕事がない。デリで働こうとしても、デリで働いているのは韓国人ばかりで雇ってもらえない。(笑いました、ここ)もう一人のGary Colemanは(実在の人ですよね)黒人子役スターだったのだけど、スキャンダルで身を持ち崩して今はAvenue Qの世話役をやってる。

マペットのPrincetonは大学を出たけれど、これからの目的(purpose)が見つからない…。What Do You Do With a BA in Englishと歌う。英語のBAはBachelor of Art(学位)という意味とbadass(ろくでなし)の二つの意味がありますが、これらを掛けてあるのかな?

Kate monsterは幼稚園で非常勤として働きながらモンスターだけのための特別な幼稚園を作ることを夢見ているのですが、恋愛の機会に恵まれないのが悩み。

そんなみんなが、初っ端から歌います~
「私が私であることにムカつくの~♪」


はいはい…(笑)

さて、Princetonの求めるpurposeって何?…てなわけで、本当のSESAME STREETみたいにテロップが流れます。purposeって目的、強い決心等の意味もありますが、on purposeで「わざと」という意味にもなるように、「(何気ない)意図」という意味もあります。テロップに映し出されるのは後者で(笑)Princetonがporposeで悩んでいる脇で、わざと車をぶつけるような映像が流れたり…これだってpurpose。

まぁ、こういう感じで「自分がいや」「目的が見つからない」なんて喘ぎながらも…その反面、ちっとも謙虚じゃない(!)
しまいには「人の不幸は蜜の味なの~」とくる。

そんな人orモンスターたち…。
みんな、自分はsomeoneだと信じたい、no oneでもなければeveryoneでもない!

自分がsomeone(ひとかどの人間)なんだと信じられるからこそ頑張ることもできるのだから。(まさに「信じる者は救われる」!)でも、最後に誰かが言っていた「特に才能もなく、最初から恵まれた立場にいるわけでもない者には限界があるんだよ~」だから「今を大切に生きよう!」

ホントにネェ…

こういう結論に辿りつくまでに大騒ぎするのがアメリカ人じゃありませんか~。ハイハイご苦労様!…ですよ、ったく~(笑)もっと地道な生き方にも目を向けなさいよね~


ま、これで終わるのもナンですので、ちょっとネタ話をすると…

「one night stand(一夜の火遊び)」の語源ってアレだったんですか?大笑いしてしまいました!

あと、Lucyが言ってた「モンスターって歯がないからキモい」もウケました(笑!!)

また、Kate Monsterはインターネットを使って幼稚園児の教育をしたいという夢を語るんですが、この作品が作られた2003年ごろからデジタル・デバイド(つまりネット環境に恵まれている子と、そうでない子の格差が幼い頃から生じる)が問題になっていたのに、Kateの発想そのものがナンセンス。そのうちにTrekkie Monsterに「ネットはポルノのためのもの」と突っ込まれるんですが。

SESAME STREET自体もequal start という大きな目的のもとで始まった番組でした。つまり、学校へ行くまでに、教育環境に恵まれている子どもと、そうでない子どもは学校入学の時点で既に差が見られる。だから、貧しい層の子どもたちでも、TVを見ながら自然に文字や数が覚えられるようにと始められたものです。しかしながら、結果、教育環境に恵まれない子どもたちは学習能力も育っていないので、TVから学ぶのも容易ではない。一方、恵まれた環境の子は普段から学習できるだけでなく、SESAME STREETからも学ぶことができて、より賢くなる…結局、格差が拡大しただけ…という皮肉な結果になると指摘されたことがあります。

Kate Monsterのこのインターネットのアイデアも、それを皮肉ってあるような気がしました。

結局、Kateの夢は叶うのですが、Monsterの学校がMONSTERSSORIとかいう名称だったのも笑いました。これはイタリアの有名な教育家Maria Montessoriから来ていますね。(詳しいことはこちら)世界中にMontessoriの教育理論を実践するMontessori学校があります。ま、簡単に言ってしまうと、リベラルな立場の人たちが好む教育法だと言えます。

話は前後しますが、恋愛の機会がないのが悩みだったKate MonsterはPrincetonとついに結ばれるんですが、そのシーン…噂には聞いてましたが…リアルです~!ちょっと凄すぎませんか!これ、絶対、家に帰ってから人形使ってやってみてる人いるよ(?)私はやってません!

あと、PrincetonがKateに(実はほかの皆にも)送ったお気に入りの曲のテープ。ラインナップが面白かったですね。友情の曲もあれば男女の愛の曲もある。Kateはこの選曲に込められたメッセージが分からなくなる~。(誰もわからないよ)挙句の果てはBilly JoelのGoodnight Saigonの、それもロシアでのライブ版ってのが笑った。Kate Monsterもこの選曲には"Great…"としか言いようがないのが可笑しかった。

あと、有名なEveryone’s A Little Racistが始まるのは、まずKate MonsterにPrincetonが「この二階に住んでるTrekkie Monsterとは親戚か何かなのか?」と尋ねることから始まります。マイノリティーの人たちは皆どこかでつながっていると思い込んでしまう、こういう発想がracist(人種差別主義者)ではないかという訳です。また、monsterだけの学校を作ると言うKateの発想も差別的ではないかとPrincetonは考えるんです。(これは、何となくaffirmative actionを連想してしまう)「人種差別」を考え、問題意識を持つということが、既にこのレベルまで来ているんだと実感しました。(単に差別発言がどうとかではなくて…)日本人は、この点に関しては、まだまだナイーブですね…

後は、共和党員がゲイだったらマズイなんてのは…Cheneyさんの娘さんを思い出して吹きました。

とにかく、ホントに面白いショーでした。今はラスベガスでもやっているんですね。社会風刺だけではなく、エンターテインメントとしてもきわめて優れたものです。

いや~、参りました!
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