映画『最高の人生の見つけかた』
ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマンという名優コンビで「死と向き合う」という普遍のテーマに取り組むわけですから、当然期待値は高くなるのですが…そういう前提で見れば、随分「期待はずれ」な映画です。
しかしですね…この映画に関しては、敢えて「良かった」ところだけを書こうと思います。
(ネタばれしております)
ガンで助かる見込みはないと分かった同じ病室の患者二人…しかし、一人はこの病院のオーナーで、一代で巨万の富を築いた男、エドワード(ジャック・ニコルソン)。もう一人は、大学を中退したあと機械工として地道に働きながら家庭を守ってきた男、カーター(モーガン・フリーマン)でした。
病院のオーナーとしてのエドワードの方針は「病院はホテルではないのだから、相部屋が基本!!」よって、お金には不自由していない彼も、ワーキングクラスのカーターと同室で治療することになったのでした。ま、こんな感じで話は始まります。
若いころのカーターの夢は歴史学者になることでした。しかし、ガールフレンドが妊娠したことで大学を中退し、その後は自動車の修理工として働いてきました。黒人であり、大学も出ていない人間には職業選択の自由なんてなかったのだと彼は言っています。しかし、元々学ぶことが好きだった彼は「知の渇き」をいやすように様々な雑学を身に着け、いつの間にかクイズ番組で解けない問題は無いほどになっていました。
この映画の重要なポイントの一つは、カーターに見る「知の渇き」であると思います。彼にとって、それ迄書かれたものの中でしか知らなかった世界を実際に体験する為には、まるでアラビアンナイトの世界ように「魔法のランプ」や「魔法のじゅうたん」で夢をかなえてくれるエドワードが必要だったのです。
カーターの葬儀では、遺影として、彼の若い頃の写真が使われていました。(40年以上勤めてきた修理工の写真ではなく)あれは卒業式の写真?大学を中退しているのであれば、ハイスクールの卒業式のものか?(軍服のようにも見えた…「従軍していた」なんて話はしていなかったように思うけど)
いずれにしても、あの遺影は、将来は「知」に生きるのだと願った若き日の夢が、死を目前にして叶ったということを示していたのではないでしょうか。長年修理工として立派に役目は果たしてきたけれども、修理工は彼の「天職」ではなかった…だからこそ、命に限りがあると知りながらも、敢えて家族と離れ、世界を旅するという選択をしたのではないでしょうか。
切ないですね。日本の人は「仕事に貴賤はない」なんて耳触りのいい「建前」を「とりあえず口にする」人はいるけれども、このあたりを突き詰めて語る人は少ないような気がします。(コレ、独り言~)
いずれにしても、夢を叶えるには、荒唐無稽なおとぎ話の世界の助けを借りるしかないのでしょう。これも現実なのですね。
一方、巨万の富を得て、アラビアンナイトさながらの生活を享受できる立場のエドワードには4回の結婚歴がありました。実は血を分けた娘も一人いました。彼女とは喧嘩別れをしたままになっていることを聞き出したカーターは、娘との仲の修復に一肌脱ごうとするのですが…、
しかし、終盤の展開では、私はこの娘とのエピソードよりも、無神論者のエドワードに、カーターが手紙の中で「君も天国へ迎え入れられる(だから、心配しなくていい)」と、(宗教を超えて)説くシーンに感動しました。自らの意思で「神を信じない」という立場を取っていたエドワードでしたが、死期を意識せざるを得なくなると、帰依するものがないが故の精神の混乱を見せます。会議の席で「ダンテの『神曲』を読んだのか!?」などと突然怒鳴るシーンなどはそれを表しているのではないでしょうか?一方のカーターは敬虔なキリスト教徒でした。
カーターは説きます。「川の水が自然に滝壺に落ちるように、自然に身をまかせていれば、天国に招き入れられる」と…
これは、死を目前にしたキリスト教徒としては、かなり思い切った考えであるとも言えます。しかし、これは、ヒマラヤや北極の空から宇宙を仰ぎ、アフリカ、中国、インド、ヒマラヤなどの(非キリスト教圏で)偉大な人類の遺産を直に体験してきた彼が「最後に行き着いた世界観」だったのではないでしょうか。
死を目前にした二人の友情によって、カーターは長年の「知の渇き」を潤すことができた。エドワードは…カーターの力添えで「娘との再会と和解」できたこともあるけれども…それよりも「神を信じない立場の人間として(あるがままに)救済された」ことが最大の収穫だったような気がします。あくまでも、私の解釈ですが…
この『最高の人生の見つけかた』は、いろいろと細かい「はぁ?」はある作品なんですが、それでもレイトショーの館内には中高年のご夫婦も何組かいらっしゃいましたし、名優の渋いセリフ回しをじっくり味わう、こういう作品が拡大公開されるのは有り難いです。
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