自分の中の「王」になる
映画『英国王のスピーチ』
これはいい!
とっても贅沢なドラマ…そして、近年のアカデミー賞作品賞受賞作品の中でも、とりわけ親しみやすく、人々にも受け入れられやすい作品。私が観た朝の時間帯でも、客入りはよくて、時おり笑い声が起きたりなど、始終和やかな雰囲気でした。私としては、ダーシーとエリザベスが出ているわ、バムフォードがチャーチルやっているわ…いやいや、盛り上がりました。
とにかく、これだけの映画を、まことにさりげなく作れるというのも、演劇の国ならでは。。ローグ役のジェフリー・ラッシュなんて、どこにでもいそうなオジサンなのに、スクリーンにその表情が大写しになるたびに、惹きつけられてしまう。なんという素晴らしい俳優なのでしょう!脇を固める俳優たちも、それぞれに抑制をきかせた素晴らしい演技…作品全体が「お芝居とはこういうものです」と言っているよう。
こういうのを見せられると、もう「白旗」ですな(?)…いや、私は、やみくもに外国映画を称賛して、邦画はいまいち…と言おうとしているわけではありませんし、邦画にも優れた作品はたくさんあります。しかしですね~、本編映画が始まる前に写しだされる邦画の予告編の数々…あの中で、日本人の俳優たちの細い声が、ガラスをこすり合わせたような音を立てるのが、耳触りで仕方がないのですよ。「あんたたち、発声の基本をやってる?」
ま、話を戻しましょう~映画の中で、オーストラリア出身のローグは、大の演劇好きなのですが、うだつの上がらない「役者志望」といった役どころでしょうか。家でも「シェイクスピアごっこ」をして息子たちと楽しむこともありました。(このあたりも、いかにも「演劇の国」)本人は『リチャード3世』(だよね)のオーディションを受けるのですが、「王らしくない」「植民地のアクセントで話す王はいない」と退けられてしまいます
そんな日々の中で、王族のであるヨーク公がクライアントとして彼のもとを訪れるわけです。スピーチセラピストと名乗ってはいても、実際の専門教育は受けていなかったローグでしたが、彼は自分の中の「キング」像をヨーク公に投影させていくわけですね。そのあたりが、も~う、燻銀の名演なの!!
コリン・ファースの人間味あふれる王の役も素晴らしかった。おそらく、映画としての創作が多少加えられているのでしょうか?脚本もよくできていると思いました。王の弱点である「スピーチ」の場面を見せる手法も、その都度、非常に工夫されています。このひとつのテーマで2時間のストリーを「引っ張る」わけですから、下手な見せ方では、ドラマとしての体を崩してしまうところなのでしょうが、視覚効果も巧みに使った、素晴らしい演出でした。
そういえば、その昔…(私も、言語の問題について、多少勉強していたころは)左利きを矯正すると吃音になる、という「説」がありました、この映画の中でも、ローグはそう言っていましたが、これは現在でも言われることなのでしょうか?ちょっと気になりました…
また、話がそれましたが…映画の内容の話に戻りましょう。時代は次第にきな臭くなり、ニュース映画で、ドイツのヒトラーの演説のシーンが映し出されます。それを見た王は、ドイツ語は分からなかったけれども、とにかく、ヒトラーの演説の巧さは十分に分かりました。
しかし…それまでは、演説が下手なことが指導者としての最大の弱点だと考えていた彼ですが、おそらく、そこから「何か」を感じ取ったのでした。
そこからは、やや「お約束な展開」なのですが、俳優たちの素晴らしい演技と、巧みな演出で、味わい深い良質のドラマとして、クライマックスを迎えることになります。
みなさまにお勧めしたい映画です。
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