「あ、兄貴、こっち来てくれよ」
シャワー上がり、リビングに顔を出したジョウにリッキーが泣きついた。
「どうした」
「アルフィンが寝落ちした」
またか。ジョウは頭を拭いていたタオルを首に掛け、空を仰いだ。
リッキーの示すソファを見ると、アルフィンが横たわってすやすやと寝息を立てている。
「俺らがいくら起こしてもだめなんだよ。なんとかしてくれよ~」
さんざん揺り起こして撃沈したのか、半泣きになっている。
「なんとかってな。飲ませたのか」
「まさかまさか。とんでもない」
酒乱のアルフィンにアルコールは泥棒に追い銭だ。そんなことを、一番被害に遭っている自分がするはず無いでしょーとばかり、リッキーは勢いよく首を横に振る。
「風呂上がり髪を乾かしてアイスを食べてたら機嫌良く寝落ちした」
「ああ。そういうことか」
ジョウはアルフィンが横になるソファまで歩み寄って顔を覗き込む。仰向けでお腹に手を添えるようにしてすうすう寝息を立てている。無邪気な寝顔。
知らず、頬が緩んだ。
「今夜はいいコースなんだな」
「一応ね」
リッキーが頷いてみせる。
アルフィンの寝落ちにはいろいろコースがあって、自棄酒オチとか、映画途中オチとか、さまざまだ。
今夜は中でも一番厄介じゃないコースのようだ。
ジョウはゆっくりとしゃがんで、アルフィンに声を掛ける。そっと肩に手を置き、
「アルフィン、起きろ。ここで寝るな。自分の部屋に行け」
「……ん~」
むずかるように寝返りを打つ。でも起きる気配は無し。
やれやれ。ジョウは肩をすくめた。こういう展開はいつものことだ。
「しようがないな。こうなったら梃子でも動かない」
揺さぶっていた手を離し、ほつれて、頬に落ちかかった髪を指先で直してやる。
「……」
ふと視線を感じてジョウが顔を上げると、リッキーと目が合った。
にやにやと意味深な笑いを浮かべている。
「なんだよ?」
「いやー、全然しようがないなって顔じゃないなあと思って。兄貴も素直じゃないねえ」
「……」
言い当てられてばつが悪い。ジョウはリッキーの視線を外すように立ち上がった。
「なんか、思い出すんだよ。ここで眠ってるアルフィンを見ると」
「思い出す? 何を」
「俺が、漂流してたアルフィンを助けた時のこと」
リッキーが、あ、と声を漏らすのが分かった。
ジョウはアルフィンの寝顔を見つめたままでいる。
「そっか、あのとき、脱出艇からアルフィンを連れ帰ったのって兄貴だったもんね」
冷凍睡眠にかけられてたんだっけ?と訊ねる。
「冷凍じゃなかったけど。強制睡眠っていうのか? 仰向けでこんなふうに寝かされていたな」
「眠れる森の美女って感じだった?」
ジョウの横顔に訊く。なんだか知らず物思いにふけっているリーダーをちょっとからかいたくなった。
でも、いたって真面目な口調でジョウは答えた。
「うん、……世の中にこんなきれいな子がいるんだって驚いた」
アルフィンを初めて見たとき。
モノクロだった世界に色がついたみたいだった。まるで。
金糸のように柔らかそうな長い髪。まっしろな頬。細く、とおった鼻筋。ふっくらと今にも花を咲かせそうな蕾を思わせる唇。伏せたまぶたを縁取るまつげがびっくりするほど長かった。彼女の全部が、姿かたちが信じられないくらい美しいのを息を吞んで見つめた。
あの時のことを昨日のことのように鮮明に覚えている。
「――」
リッキーが思わず硬直した。まさか、どストレートに答えが返ってくるとは思っていなかった。
ジョウはそこでふと我に返った様子でリッキーを見た。わずかに照れた様子で、
「まあ、中身は外見とはけっこう落差があったけど」
アルフィンの身体の下に手を差し込んで、よっと抱きあげながら言う。
いつものように軽々とお姫様抱きをして、態勢を整える。
「とか言って、そのギャップがまた可愛いんだろ? 兄貴は」
ジョウは聞こえないふりをした。リッキーは思わず口から言葉が突いて出た。
「……今でもアルフィンは、飛び切りきれいだよ。兄貴と一緒にいるときは、特に」
ジョウはアルフィンの私室に運ぼうと行きかけた足を止めた。肩越しにリッキーを見やる。
「そうかな」
「たぶんね」
リッキーがばちんとウインクをする。かっこよく決めたかったが、両目をつぶってしまって決めきれない。
ジョウは微笑した。
「おやすみ」
「おやすみ、兄貴。アルフィンも」
ああと背中で言って、ジョウはリビングを出ていった。気持ち、足音を立てないようにそっと。
眠るアルフィンをそれはそれは丁重に抱きかかえたまま。
――スリーピング・ビューティ。彼女の眠りは今宵も守られるーー
シャワー上がり、リビングに顔を出したジョウにリッキーが泣きついた。
「どうした」
「アルフィンが寝落ちした」
またか。ジョウは頭を拭いていたタオルを首に掛け、空を仰いだ。
リッキーの示すソファを見ると、アルフィンが横たわってすやすやと寝息を立てている。
「俺らがいくら起こしてもだめなんだよ。なんとかしてくれよ~」
さんざん揺り起こして撃沈したのか、半泣きになっている。
「なんとかってな。飲ませたのか」
「まさかまさか。とんでもない」
酒乱のアルフィンにアルコールは泥棒に追い銭だ。そんなことを、一番被害に遭っている自分がするはず無いでしょーとばかり、リッキーは勢いよく首を横に振る。
「風呂上がり髪を乾かしてアイスを食べてたら機嫌良く寝落ちした」
「ああ。そういうことか」
ジョウはアルフィンが横になるソファまで歩み寄って顔を覗き込む。仰向けでお腹に手を添えるようにしてすうすう寝息を立てている。無邪気な寝顔。
知らず、頬が緩んだ。
「今夜はいいコースなんだな」
「一応ね」
リッキーが頷いてみせる。
アルフィンの寝落ちにはいろいろコースがあって、自棄酒オチとか、映画途中オチとか、さまざまだ。
今夜は中でも一番厄介じゃないコースのようだ。
ジョウはゆっくりとしゃがんで、アルフィンに声を掛ける。そっと肩に手を置き、
「アルフィン、起きろ。ここで寝るな。自分の部屋に行け」
「……ん~」
むずかるように寝返りを打つ。でも起きる気配は無し。
やれやれ。ジョウは肩をすくめた。こういう展開はいつものことだ。
「しようがないな。こうなったら梃子でも動かない」
揺さぶっていた手を離し、ほつれて、頬に落ちかかった髪を指先で直してやる。
「……」
ふと視線を感じてジョウが顔を上げると、リッキーと目が合った。
にやにやと意味深な笑いを浮かべている。
「なんだよ?」
「いやー、全然しようがないなって顔じゃないなあと思って。兄貴も素直じゃないねえ」
「……」
言い当てられてばつが悪い。ジョウはリッキーの視線を外すように立ち上がった。
「なんか、思い出すんだよ。ここで眠ってるアルフィンを見ると」
「思い出す? 何を」
「俺が、漂流してたアルフィンを助けた時のこと」
リッキーが、あ、と声を漏らすのが分かった。
ジョウはアルフィンの寝顔を見つめたままでいる。
「そっか、あのとき、脱出艇からアルフィンを連れ帰ったのって兄貴だったもんね」
冷凍睡眠にかけられてたんだっけ?と訊ねる。
「冷凍じゃなかったけど。強制睡眠っていうのか? 仰向けでこんなふうに寝かされていたな」
「眠れる森の美女って感じだった?」
ジョウの横顔に訊く。なんだか知らず物思いにふけっているリーダーをちょっとからかいたくなった。
でも、いたって真面目な口調でジョウは答えた。
「うん、……世の中にこんなきれいな子がいるんだって驚いた」
アルフィンを初めて見たとき。
モノクロだった世界に色がついたみたいだった。まるで。
金糸のように柔らかそうな長い髪。まっしろな頬。細く、とおった鼻筋。ふっくらと今にも花を咲かせそうな蕾を思わせる唇。伏せたまぶたを縁取るまつげがびっくりするほど長かった。彼女の全部が、姿かたちが信じられないくらい美しいのを息を吞んで見つめた。
あの時のことを昨日のことのように鮮明に覚えている。
「――」
リッキーが思わず硬直した。まさか、どストレートに答えが返ってくるとは思っていなかった。
ジョウはそこでふと我に返った様子でリッキーを見た。わずかに照れた様子で、
「まあ、中身は外見とはけっこう落差があったけど」
アルフィンの身体の下に手を差し込んで、よっと抱きあげながら言う。
いつものように軽々とお姫様抱きをして、態勢を整える。
「とか言って、そのギャップがまた可愛いんだろ? 兄貴は」
ジョウは聞こえないふりをした。リッキーは思わず口から言葉が突いて出た。
「……今でもアルフィンは、飛び切りきれいだよ。兄貴と一緒にいるときは、特に」
ジョウはアルフィンの私室に運ぼうと行きかけた足を止めた。肩越しにリッキーを見やる。
「そうかな」
「たぶんね」
リッキーがばちんとウインクをする。かっこよく決めたかったが、両目をつぶってしまって決めきれない。
ジョウは微笑した。
「おやすみ」
「おやすみ、兄貴。アルフィンも」
ああと背中で言って、ジョウはリビングを出ていった。気持ち、足音を立てないようにそっと。
眠るアルフィンをそれはそれは丁重に抱きかかえたまま。
――スリーピング・ビューティ。彼女の眠りは今宵も守られるーー
⇒pixiv安達 薫
寝落ちに、いろんなコースがるって、笑える。
ホントの「お姫様だっこ」。
ジョウなら、絵になるよね。
まぁ、ミネルバ以外で寝落ちはしないでね。
コメントにお礼できませんですみませんでした><
いつも寝落ちした姫を運ぶのはジョウということで、ミネルバ内の係は決定!笑