「美味かった。ごちそうさん」
ジョウがはあと息をついて、手を合わせた。満腹だった。
アルフィンがにっこりとほほ笑む。
「どういたしまして。お仕事お疲れ様でした」
ジョウの使った食器を片づけ出す。彼はお腹のあたりをさすって
「久しぶりにアルフィンのカレーを食べた。お代わりしてたくさん食っちまった」
まずい、太るかなと気にして見せた。
「あなたは少しぐらい太った方がいいのよ。体脂肪低すぎだもん」
「アルフィンの二度揚げした唐揚げが、また凶悪なうまさなんだよなあ。食欲を抑えきれん」
「あは。ありがと」
おほめに預かり光栄です、とわざと恭しい礼をする。
「デザートにプリンもあるわよ。お昼に作っておいたの。ジョウ好きでしょう?」
う、と彼はその甘い誘いにぐらつく。
口がカレーで辛くなった後、甘いプリンで締めくくるのもいい。
でもこれ以上食ったら1キロ増は確実……。いやしかし。
しばし、葛藤をしたのち「~~もらう。食べたい」と誘惑に負けた。
「おっけー。冷蔵庫にあるから、自分で出してくれる?」
「ああ」
食洗器に食器を並べている彼女を後ろから見つつ、ジョウは椅子から立ち上がった。
「実は今日、会議の後仲間に晩飯誘われてたんだけど」
「へえ。あたしの知ってる人?」
「いや、まだ会わせてない奴。そいつがいい店あるから寄っていこうって言ったんだけど、断ったんだ。アルフィンのカレー、どうしても食いたくて」
「ま」
ジョウは嬉々として冷蔵庫の扉を開けた。
明日から、ワークアウト再開するから、今晩はいいよなと自分に言い聞かせて。
「悪いことしたなって。ーーミネルバに寄って、お前も一緒に食っていけばって誘ってやればよかったよ。気が利かなかった、失敗」
アルフィンは意外そうに彼を見上げた。
「あなたがそんな風に言うの、珍しいわね」
「まあな。久しぶりに会った仲間だから。でも、そういうやつにでもアルフィンの手料理、食わせたいような、俺だけで食いたいような、複雑なところなんだ。これでも」
「……専属のコックさんになってもいいのよ、あなたの」
アルフィンがさりげなく言うと、
「それは、光栄だな。こっちから申し込むよ、永久契約ってことで」
ジョウはプリンの入った器を取り出しながら応えた。
「永久? なら、高いものにつくわよ」
アルフィンはわざと彼がよく使う口調をまねてみた。
片目をつむって、彼の頬を視線で掬い上げる。でもジョウのように凄みは出せない。
「お、契約金はどの程度なんだ」
ジョウが訊くと、アルフィンは指一本立てて彼の眼の前に突き出した。そして、
「キス一つ」
と交渉した。
ジョウは虚を突かれた様子で、一瞬ぽかんとし、すぐに笑顔になった。
「安すぎるだろう、いくらなんでもそれは」
プリンを持っていない方の手でアルフィンの肩を抱き寄せ、口づけを贈る。
それはそれは優しく。
「……カレーの味がする」
ジョウの唇が離れてから、アルフィンが少しだけ頬を赤くして指先で自分の口を押えながら言った。
「すまん」
けろりと悪びれすに返し、ジョウはスプーンを取り上げて行儀悪く立ったままプリンを食べ始めた。
ひとさじ、口に含む。甘すぎず、ちょうどいい風味のまろやかなプディングのとろみが、彼の舌を包んだ。
「こっちも美味い。なんだか今夜のメニューが最後の晩餐でもいい気がしてきたぜ」
「おおげさよ、ジョウ」
「そうでもない。君も味見するか?」
顔を寄せて訊いてくるから、作るときにしっかり味見はしたけど、と思いつつ「うん」とアルフィンは目を閉じる。
気持ち顔を上向かせて、彼の唇を通して手製のプリンの味を知る瞬間を待った。
END
続きを書いてみました。さり気にプロポーズ、ですね、これ…
朴念仁だから、ないな。
それに、ジョウからプロポーズしたいでしょ。
きっと。
早々の作品、ありがとうございました。
この話はそういう流れだったみたいです。
まあ、今月はJ誕月でもありますし、
こまめにUPできたらと思います。コメントありがとうございました。