背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

夜空とヒマワリ

2021年08月17日 12時48分24秒 | CJ二次創作
ジョウは、少しためらってから、ドアチャイムを押した。
「アルフィン、俺だ」
しばし待つ。しかし、応えはない。
部屋に居ないのか、それとも居るのに出られない状況なのか、判断がつかない。
参ったな……。そう一人ごちてジョウはジーンズの尻ポケットに次っ込んでおいたカードキイを取り出す。
ホテルのフロントで渡された、マスターキイだ。これを使えば4人の部屋には自由に出入りできる。リーダーであるジョウが滞在中管理することになった。
しかし、時間になってもレストランへ降りてこないからといって、女性の部屋を勝手に開けるのは、どうも。
ジョウは目の前にかざしたカードを、悩んだ末挿入口へと差し込んだ。
「アルフィン、いるのか」
シャワーの音とか聞こえたら、急いで回れ右して出直そう。そう思いつつ、ジョウは部屋に足を踏み入れる。
間接照明は点いているが、部屋の電気は消えている。昼間の陽光の名残をすみずみに散りばめて、部屋の中はほんのりと熱い。
アルフィンはあまり冷房が得意じゃないから、すぐに切ってしまうんだよな。
茜色に染まった空が、まるで環境番組のオープニング映像のようにくっきりと窓にはめ込まれているのが見える。完璧なサンセットビーチだ。
ジョウはふかふかと高級なじゅうたんの毛触りを確認しながら、歩を進める。
ベッドにも、姿はない。もちろんシャワーの音も聞こえない。
「アルフィン?」
急に心配になって、ジョウは声のトーンを上げた。急に部屋の暗さが濃さを増した気がする。
夜の気配が漂う。
いない? どこへ行った?
日中さんざん海辺ではしゃいで、遊びまくった。ディナーまで間があるので、一旦それぞれの部屋に引き上げて休もうということになり、じゃあ何時にレストランで待ち合わせしようね、と約束して別れた。
ーー行き違いか。いや、なら俺の携帯に連絡が入るはずだ。
気を揉むジョウの目に、冷房を止めてあるのに、窓辺の薄絹のカーテンがふわりと揺れるのが映った。
まさか、と思いベランダに通じる戸を開ける。さほど広くないそこには白いデッキチェアが据えられてあり、その上に身体を横たえて眠るアルフィンがいた。
カーテンに遮られ、死角になっていたのだ。
「ここかよ....…」
ほっとして、気が抜けそうになる。ジョウは、アルフィンに歩み寄った。
「アルフィン、おい、アルフィン」
そっと声をかける。
風通りがいいせいか、ベランダはひんやりしている。
部屋で寝るよりもこっちで寝そべってしまった気持ちがなんだか分かる気がした。
ジョウは一向に起きないアルフィンにかがみ込んだ。
「アルフィン、メシだぞ、みんな待ってるぞ」
なんだかロマンチックな起こし方じゃないな、と自覚しつつも、そう呼びかけるしかない。
う、……ん、とようやく反応らしきものがあって、チェアの上、アルフィンがごろんと寝返りを打った。
まだ起きたくないという抗議のように、ジョウに背中を向け丸くなる。
金髪が乱れて、サマードレスを身につけた白い背中が見えた。
ジョウはうろたえる。
パープルのドレスの細いストラップが、身を縮めたせいで肩から外れそうだ。
もちろん、ドレスの他には下着なんて着ているはずもなく、むき出しの細い肩と背中が露わになりかかっている。
ーーう。
思わず、口元を手で押さえた。
目を逸らそうと思っても、視線が言う事をきかない。
吸い込まれるように、アルフィンの肌の上を追う。
日焼け対策はしっかりしなくちゃと、嫌がる俺やリッキーを捕まえては、乳液みたいなものを背中にこまめに塗らせるくせに、南国の日差しは想像以上に強烈なのか、アルフィンの肌にはうっすらとビキニの痕が白く刻まれている。
それがなんだがとてもセクシーで、目が離せない。
起こしたいのに、このままずっと眠る姿を見つめていたい。
ジョウの中で相反する思いがせめぎあう。


昼間、挑発してアルフィンを部屋に誘ってみた。
冗談半分、本気半分。
自分には逃げ道を残して。逆ナンパに便乗した誘い方だった。
負けず嫌いのアルフィンは売られたけんかは買うタイプ。思った通り、ジョウの誘いを受けた。
隣り合わせの部屋の前まで来て。廊下で、
「どっちの部屋にする?」
と訊くと、
「……どっちでも」
「俺の方でも」
「いいよ」
目を合わせない。
「……」
ジョウはカードキイを差し込んで、自分の部屋にアルフィンを通した。は、いいものの、そこからの展開をどうするか考えていないことに気づく。
ままよ。
アルフィンの肩に手を置いて、自分の方を向かせる。
顎の下を指先で掬って、顔を上に向けた。
「……」
じっと、ジョウを見つめる。碧い瞳。
キスしようとして、屈んで唇を近づけた。なのにアルフィンが微動だにしない。
「……目、つぶって」
「……」
目を逸らされる。まばたきで、拒絶を知る。
「ジョウは、こんな風に始めたいの」
アルフィンは低くつぶやいた。
「こんな風に始めたくない、あたしは」
かたくなな声が、ジョウを怯ませる。
好きとか、君がほしいとか、まだ何も言ってもらってない。
なのに、部屋はどっちにするとか、キスとか。
……ジョウはずるい。アルフィンはむすっとふくれっ面でそう言った。


「ん……」
そこでアルフィンが寝返りを打つ。弾みで、ドレスのストラップが完全に肩を滑り落ちる。
ジョウの腰が引けたところで、アルフィンが小さく「………くしゃっ」と身を震わせた。
ぷるっと自身を抱く。胸元は、腕で隠される格好となった。
ジョウは、はあ、と安堵の息をつく。
びっくりさせるぜ、と焦りを隠すように心の中で呟く。
アルフィンはまだ眠りの中にいる。でも、確実に夜は忍び寄り、あたりの熱気を奪っていく。
ジョウはデッキチェアから、彼女の身体を抱き上げた。
慎重に部屋の中に運び、ベッドに横たえる。
窓を閉め、アルフィンの身に肌掛けを羽織らせた。すうすうと規則的な寝息が聞こえる。
ーー確かになあ、ずるかったよな俺は。
あんな風に誘って勢いでことを始めようとした。アルフィンはちゃんと見抜いていた。
俺にダメ出しをしてくれた。
がっかりしたような、ほっとしたような。
ちゃんと仕切り直しをしないとな……。アルフィンに見切りをつけられちまう。
ジョウはアルフィンの寝顔を見ながら思った。
眠り姫が目覚めるには、まだ時間がかかりそうだ。
それまでは、傍でナイトの役でもいたしましょうかね。
ナイトなんて柄じゃないけどな。そう苦笑しながら、ジョウは携帯を取り出した。
タロスを呼び出し、可能な限り声を落して、「ああ、俺だ」と話し始める。
「うん、いた。そう、眠ってる。ご明察。でも、まだ起きそうにない。無理だ。
しようがないから、今夜の俺とアルフィンの分は、キャンセルな、お前たちだけで始めておいてくれ。
え? 無理矢理起こしてみろって? せっかくの予約だから? う~ん……」
ジョウはアルフィンに目をやる。あどけない寝顔がこちらに向けられている。
もったいないから、いいや。
とはとても言えず、ジョウは断りの言葉を探すのに難儀した。

Fin.

高校野球観戦に夢中!
⇒pixiv安達 薫

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2 コメント

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Unknown (おすぎーな)
2021-08-17 12:49:32
投稿ありがとうございます😆
こちらも、高校野球児のようにジョウさんたら、かわいい~🤭💕
返信する
順延順延で大変そうです。。。 (あだち)
2021-08-18 01:06:32
甲子園の運営の方々や選手団のみなさま、お疲れ様です。。。。
流れでそういう仲になってもいい二人ではありますが、そこは潔癖であってほしい姫君です。
返信する

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