ふふ。
自室に戻っても、ジョウは含み笑いが止まらなかった。
アルフィンの熱もだいぶ下がったみたいだし、取りあえずは心配ない。よかった。
服を脱いで、インナーだけの格好になる。スウェットに履き替え、ベッドに乗り上がった。
それにしても、可愛かったな、アルフィン。
動物園に行きたいっておねだりも可愛かったし、昼間の白いワンピースも似合ってた。
仕事で立ち寄ったこの星の港湾地区に動物園があるって知ってたってことは、前々からチェックしてたな。
この俺が、動物園ねえ……。
苦い笑みが浮かぶ。頭の後ろを掻いた。
アラミスに居る仲間や同業者が聞いたら、耳を疑うかもな。
彼女に誘われなかったら、出向くことも無い場所だ。
キリン、かば、サイと巡って、象の柵の前で長いこと立ち止まった。でかい象を飽きることなく見守る。
「象、好きなのか」
意外に思って訊くと、
「好き。昔から」
アルフィンは答えた。
「なんで、象?」
「いつも優しそう。怒ったことがないみたい。素敵な人生」
即答した。
そんなもんかねえ。喜怒哀楽あるから人生面白いんじゃないのか。そう言いたかったけれど、呑み込んだ。
アルフィンがあんまし無心に見つめているから。
「……行くか」
そっと柵に凭れて眺めているアルフィンを促すと、手が異様に熱かった。
驚いて、ぎゅっと強く手を握った。
<ミネルバ>に慌てて取って返して、それからのことは割愛。
夜になってアルフィンの私室に様子を見に行くと、だいぶ顔色も良くなっていた。
薬が効いたらしい。ひとまず俺はほっとした。
大丈夫かと尋ねた俺に、
「だいぶいい。薬のおかげ。それと、あなたと、ドンゴと、みんなのおかげ」
なんて殊勝なことを言うから、愛おしくてたまらなくなった。
アルフィンのこういうところに惹かれる。
体調が悪くても、周りに感謝の気持ちを忘れないところ。魂が清らかな感じがする。
早めに退室したほうがいいと分かっていたのだけれど、もっと側にいたくて俺は持参したスイーツを差し出した。
「素敵」
「何だったら食べられる?」
「アイス」
……食べさせてやるつもりはなかったんだ。
置いておくから、自分のタイミングで食べな。そう言って出て行くつもりだった。
でも、本当に嬉しそうな顔をするから。
安心しきって笑ってるのも、熱と薬のせいか、ちょっと目の縁がぽうっと赤くなっているのも可愛らしくて。
自分に言い訳するように、時間を稼ぐつもりでスプーンを手に取った。
「病気の時は遠慮するな。食べさせてやる」
今にして思うと、赤面ものの台詞を言って、アイスをスプーンで掬ってやったんだ。
アルフィンはびっくりしていた。まさか俺がそんなことをするとは思っていなかったんだろう。
俺も自分の予想外の行動に驚くところはあったが、ままよとばかり、
「ほら、口開けて」
と促した。
アルフィンは恥ずかしがったけど、言われたとおりにしてたっけ。
熱で、涙目になっていた。素直にひとさじずつ口に含んで舌の上で溶かした。
あの口元が、なんだかとても色っぽくて、俺は目が離せなかった。
赤い舌先と、バニラアイスの乳白の色が、やけにミスマッチで。扇情的で。
触れたいなと思った。
俺も彼女に取り込まれたい。彼女の、中に。とろりと。
不埒な想いが浮かんで、それを押し隠すみたいに、アルフィンにキスした。
病人なのに。
冷たいのに甘い、艶っぽい唇にめまいがしそうだった。一度だけじゃなくて、二度も奪った。
「……」
うっとりと目を閉じて、アルフィンは俺のキスを受け止めた。
「……熱があるときするのは、反則だよなあ」
俺はもう一度頭を掻いた。その手を首の後ろに添える。
ふうと息をついた。
風邪を感染してほしいなんて理由は後付だ。
ただ、したかったから。
この、本能のままに動くくせ、なんとかしないといかんな。
いくら可愛いからって、さっきのはいかん。
俺は反省した。少しばかり。
彼女の熱が下がったら、体調がよくなったら、ちゃんと仕切り直しをしよう。
まずは動物園から。順路に従って象の後を見て回るところから。
そして、……
ま、全部回り切った後に考えるさ。そん時のことは。
そう言って、ジョウはベッドにごろんと横たわった。
END
この二人が動物園とかあまり似合わなさそうだけど、(水族館のほうが……)
回ってると想像すると可愛いですよねv
⇒pixiv安達 薫
自室に戻っても、ジョウは含み笑いが止まらなかった。
アルフィンの熱もだいぶ下がったみたいだし、取りあえずは心配ない。よかった。
服を脱いで、インナーだけの格好になる。スウェットに履き替え、ベッドに乗り上がった。
それにしても、可愛かったな、アルフィン。
動物園に行きたいっておねだりも可愛かったし、昼間の白いワンピースも似合ってた。
仕事で立ち寄ったこの星の港湾地区に動物園があるって知ってたってことは、前々からチェックしてたな。
この俺が、動物園ねえ……。
苦い笑みが浮かぶ。頭の後ろを掻いた。
アラミスに居る仲間や同業者が聞いたら、耳を疑うかもな。
彼女に誘われなかったら、出向くことも無い場所だ。
キリン、かば、サイと巡って、象の柵の前で長いこと立ち止まった。でかい象を飽きることなく見守る。
「象、好きなのか」
意外に思って訊くと、
「好き。昔から」
アルフィンは答えた。
「なんで、象?」
「いつも優しそう。怒ったことがないみたい。素敵な人生」
即答した。
そんなもんかねえ。喜怒哀楽あるから人生面白いんじゃないのか。そう言いたかったけれど、呑み込んだ。
アルフィンがあんまし無心に見つめているから。
「……行くか」
そっと柵に凭れて眺めているアルフィンを促すと、手が異様に熱かった。
驚いて、ぎゅっと強く手を握った。
<ミネルバ>に慌てて取って返して、それからのことは割愛。
夜になってアルフィンの私室に様子を見に行くと、だいぶ顔色も良くなっていた。
薬が効いたらしい。ひとまず俺はほっとした。
大丈夫かと尋ねた俺に、
「だいぶいい。薬のおかげ。それと、あなたと、ドンゴと、みんなのおかげ」
なんて殊勝なことを言うから、愛おしくてたまらなくなった。
アルフィンのこういうところに惹かれる。
体調が悪くても、周りに感謝の気持ちを忘れないところ。魂が清らかな感じがする。
早めに退室したほうがいいと分かっていたのだけれど、もっと側にいたくて俺は持参したスイーツを差し出した。
「素敵」
「何だったら食べられる?」
「アイス」
……食べさせてやるつもりはなかったんだ。
置いておくから、自分のタイミングで食べな。そう言って出て行くつもりだった。
でも、本当に嬉しそうな顔をするから。
安心しきって笑ってるのも、熱と薬のせいか、ちょっと目の縁がぽうっと赤くなっているのも可愛らしくて。
自分に言い訳するように、時間を稼ぐつもりでスプーンを手に取った。
「病気の時は遠慮するな。食べさせてやる」
今にして思うと、赤面ものの台詞を言って、アイスをスプーンで掬ってやったんだ。
アルフィンはびっくりしていた。まさか俺がそんなことをするとは思っていなかったんだろう。
俺も自分の予想外の行動に驚くところはあったが、ままよとばかり、
「ほら、口開けて」
と促した。
アルフィンは恥ずかしがったけど、言われたとおりにしてたっけ。
熱で、涙目になっていた。素直にひとさじずつ口に含んで舌の上で溶かした。
あの口元が、なんだかとても色っぽくて、俺は目が離せなかった。
赤い舌先と、バニラアイスの乳白の色が、やけにミスマッチで。扇情的で。
触れたいなと思った。
俺も彼女に取り込まれたい。彼女の、中に。とろりと。
不埒な想いが浮かんで、それを押し隠すみたいに、アルフィンにキスした。
病人なのに。
冷たいのに甘い、艶っぽい唇にめまいがしそうだった。一度だけじゃなくて、二度も奪った。
「……」
うっとりと目を閉じて、アルフィンは俺のキスを受け止めた。
「……熱があるときするのは、反則だよなあ」
俺はもう一度頭を掻いた。その手を首の後ろに添える。
ふうと息をついた。
風邪を感染してほしいなんて理由は後付だ。
ただ、したかったから。
この、本能のままに動くくせ、なんとかしないといかんな。
いくら可愛いからって、さっきのはいかん。
俺は反省した。少しばかり。
彼女の熱が下がったら、体調がよくなったら、ちゃんと仕切り直しをしよう。
まずは動物園から。順路に従って象の後を見て回るところから。
そして、……
ま、全部回り切った後に考えるさ。そん時のことは。
そう言って、ジョウはベッドにごろんと横たわった。
END
この二人が動物園とかあまり似合わなさそうだけど、(水族館のほうが……)
回ってると想像すると可愛いですよねv
⇒pixiv安達 薫
pixivおやっさん祭りと比べて、こちらは何とかわいらしいジョウでしょうか😁
時代が変わるごと、クラッシャーの稼業も、それに就く人たちの意識も洗練されていったのでしょうね。おやっさんがそう仕向けたのですがね。笑