背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

秘密2

2021年11月04日 18時45分03秒 | CJ二次創作
「アルフィンと何を話してたんだ」
口元を手の甲で押さえて、体勢を整えてジョウが画面に向き直る。まだ、顔が赤かった。
エギルはにやにやと人の悪い笑みを浮かべ、アルフィンと席を替わったジョウを迎えながら、
「さあてな、俺と嬢ちゃんの秘密だ」
と答えた。
はぐらかされている。ジョウは面白くない気分で、「用件はなんだ」とむすりと尋ねる。
「ああ、そうだったそうだった。折り入ってお前に頼みがあってな。来月のクラッシャー競技会のことなんだが」
エギルが少し真面目な口調を取り戻す。
「クラッシャー競技会? ああ、まだやってんのか、あれ。年に一度のアラミスの祭りだろ」
「やってるも何も、俺ア、今年の実行委員長よ。お前の親父の直々の指名でな」
「あらら」
「それでだな、お前も来月、いったんこっちに戻って、競技会に出てくれるとありがてえなあと思ってんだよ。どうだい?」
5年ぶりにだな、とエギルが言いかけたところに、
「無理だな」
ジョウは言葉をびたりとかぶせた。
「来月もうちのチームのスケジュールはみっちり埋まってる。そっちの管理ソフトでそれは把握済みだろう?」
エギルはちっと舌を鳴らした。
「んなこたあわかってて言ってんだよ。競技会の前後のお前さんとこの仕事を他のチームに振り分けるとかもありだろう。ちょっとは帳尻合わせるとか、考える振りとかだけでもしてくれよ」
「どうせ、俺の名前だけ表にドカンと出して、客寄せに使うつもりだろ」
お見通しだよと言いたげに、ジョウはエギルを見つめ返した。
エギルは額に手を当てて、天を仰いだ。
「おっまえ、可愛くなくなったなあ。昔は俺の後をひっついて、どこまでもついてこようとして、離れやしなかったのに。くー、にくったらしいったらねえな」
ジョウは微かに赤くなって、「いつの話をしてるんだ」と画面から視線を逸らした。
その顔を見ていたら、エギルの胸の内にふと、ある思いが浮かんだ。
なあジョウよ、と身を乗り出す。
「さっきのあのめちゃくちゃ可愛い嬢ちゃん、別嬪さん。あの娘とどこまでいってんだよ。やっぱ、もうきっちり手は出したんだろうなあ」
「え」
唐突な話題転換に、ジョウが硬直する。
「顔もいいけど、気の強いところが堪んねえなあ。あー、俺があと40若かったらなあ、お前のライバルに立候補するんだけどな」
「馬鹿言うな。それとさっきから気が強いって繰り返すけど、俺が来るまでいったいアルフィンと何の話をしてたんだ」
「ふふ。気になるかー。だろうなあ。でも心配するな、ありゃ他の男がコナかけても一ミリもなびきゃしないよ。お前にぞっこんだ」
ぞっこん。
真正面から言われて、しかも、父親代わりというか、赤ん坊のころから自分のことを知られている相手に突き付けられて、ジョウは動揺した。
「な、なんでそんなこと分かるんだよ」
そんなジョウを愛しそうに眺めながらエギルは続けた。
「それア、俺と嬢ちゃんとの秘密だよ。お前には内緒だ。
あの子は、いい子だなあ。気持ちがこう、まっすぐでな」
慈しみ深い光がエギルの目に宿るのを見ても、ジョウはなんだかおもしろくない。自分の知らないところで二人が意思疎通を図った気配がする。
何を今更と、前置きしてから「めちゃくちゃ気、強いけどな」とわざとらしく言った。
「そこがまたいいんだろ。分かってるよ。そういう女が、自分の前でだけほろっと脆いところ見せるの、たまんねえもんだよな」
うんうん、分かる、と相槌を打つエギル。
「……」
「俺アな、ジョウ。誰にも言わなかったけれどもよ、実はお前が俺のところの3人の娘のうちの誰かと結婚して、義理の息子になってくれたらなあってずっと昔から思ってたんだ。ダーナか、ルーか、べスか……。まあ、年の具合からして、ルーが一番似合いっちゃ似合いだけど、別にそれにはこだわらなくてだな。
お前が本当に俺んとこの身内になって、娘の誰かと家業を継いでくれたら、この先何の心配もねえんだがなって。そんな益体もないこと、考えていたんだぜ」
しんみりした口調になる。
ジョウは、なんだかエギルを直視できずに黙った。
「実は、ダンにも一度その話を持ち掛けたことがある」
ジョウはそれを聞いてぎょっとした。
「うそだろ、いつ?」
「さあ、いつだったかな……。ワームウッドの件の後だな、たしか」
「……親父は、なんて?」
聞きたいような、聞くのが怖いような。
複雑な思いでジョウがエギルの面を目で掬い上げる。
エギルはひょいと両手の手のひらを見せて肩をすくめた。
「無理だろうって言われたよ。一考の余地もねえって感じにな。さすがは、ダン」
ジョウは驚きを隠せなかった。自分の知らないところでそのような会話が交わされていたことに驚いてもいたし、父親が即答したことも驚きだった。
エギルは続けた。
「ま、そっちは俺達、大人同士の話だ。気にしなくていい。
ところでお前、こないだ、アラミスに来てただろう。再会したとき、あのときってもしかして、本当に親父にアルフィンを紹介しにきたんじゃなかったのか。後から思い当って、からかったこと悪かったなあって反省してたんだ」
「あれは……」
そうだと言うのも気恥ずかしく、違うと否定するのも嘘になるので、ジョウは言葉を探した。
「タイミングが合えば、と思ってはいた。ただ、あの人は忙しいから、アポもなくふらっと行って会えるとは思っていなかったさ」
だから反省なんかいらない。しなくていい。目を合わせずにそう言った。
エギルは「やっぱりなー、そうじゃねえかって思ってたんだ。当りか」とおでこをぴしゃりとはたいて大仰に喚いた。
「そっかー、お前さんが嫁取りとはね。俺も年を取るわけだ」
「古い言い回しをするな。まだ、親父に会わせようかって思っただけだ。他の段取りは何も」
言葉を重ねるジョウをひらひらと手でいなし、エギルは、
「まあ、いいさ。とにかく来月の件、前向きに考えてくれよな。用件はそれだけだ。
――あと、アルフィンが何でお前さんとこに密航したか、ほんとの理由を後で訊いてみるといい。いつか、本人に」
どうせお前のことだ、面と向かって尋ねていないんだろうと笑う。
何もかもがお見通しなのが悔しくて、ジョウは「エギル」と噛みつこうとした。
でも、その時は既に「じゃあな」と両眼を瞑る下手糞なウインクと共に、通信は途切れ、画面はブラックアウトしていた。
一本だけでなく、それこそ百本も取られたようになすすべなくシートに沈むジョウだった。

END

エギルさんのマシンガントーク炸裂、ジョウなすすべなし、っていうところが書きたかったです。笑

⇒pixiv安達 薫

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 秘密 | トップ | 秘密3 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは。 (ゆうきママ)
2021-11-04 21:54:21
エギルの手のひらで転がされている感じ。
クラッシャー競技会は、確か不定期だったはず。
ジョウのチームが出れば、パイロット部門は、優勝。
射撃だって、トップクラスでしょ。
でもね、スケジュールがね。
3人娘との話は、エギルの本音ね。
エギルと同じ位、ダンとも話が出来ると関係性がよくなるのにね。
秘密に続きがあって、十分楽しめました。
ありがとうございます。
返信する
名バイプレーヤーエギル (あだち)
2021-11-06 18:24:23
話をかき回して、進めてくれる名わき役です。
もっと原作で見たいキャラですね。
そしてJ誕を祝って、秘密3まで書いてしまいました。よろしければどうぞ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

CJ二次創作」カテゴリの最新記事