最終点検を終え、最後の最後、堂上がシャワーを使える。
シャワー室はオープンだ。五人一気に浴びられるように、コックが横並びについている。
堂上はシャワーの右から二番目のところを使っていた。
鍛え上げた裸体。ふ、と気配を感じ振り返ると、郁がタオルを腕にもち入り口で待っている。
「どうした? 早く着替えないと、身体を冷やすぞ」
「大丈夫。さっきたっぷり浴びたので」
「行ってていいんだぞ。小牧たちと一緒に。腹も減ったろ」
それに郁はううん、と首を振った。
「待ちます。気にしないで」
郁の足許に、堂上が浴びたお湯がじわりと広がってくる。
「……もう一回浴びないか?」
一緒に、と顎をしゃくる。
「え、でも誰か来たら」
郁がためらう。
「誰も来ないよ。昼飯どきに。どいつもこいつも腹減ったって餓えた野獣みたいにがっついでるよ今頃」
みっちり泳がせたからなと、と口の端に笑み。
こういうところ、昔から全然変わらないよねと内心嬉しく思う一方で、郁は人気がないからといって気は抜けないと甘くなりがちな夫婦だけの空間を引き締める。
同じタイミングで、きゅ、とシャワーのコックを絞って、堂上が髪を掻きあげた。水しぶきが散る。
前髪を全部後ろに流すとどきっとするほど印象が変わる。
見たこともないほどアダルトになる。
堂上は犬のように首を振ってしたたる水滴を払った。
一歩一歩、大またで郁に近づく。
素足が濡れたタイルを踏みしめる音が自分に近づくのを聞く。驚くほど、足の親指が大きい。
プールで裸を見せ付けられるよりも、その親指に男を感じ、郁はたじろぎ身を引いた。
堂上は郁の前に立ち、わずか顎を上げて見上げた。
「俺は誰が来たっていい。かまやしない」
そう言い、いきなり下から唇を奪う。
「……う、ん」
とっさに抵抗しかかるのを身体で押さえて、堂上は郁を壁際に追い詰めた。
「あ、篤さんっ」
だめだよ。逃げ道を探して唇を離し、堂上の肩越しにドアを窺う。今のところ人影はない。
でも、いつ誰が入ってくるとも限らない。手塚であれ小牧であれ、ここのプールの職員であれ。
シャワー室でラブシーンを演じるのは、あまりにも無防備だ。
「ここはだめだよ。お昼だし、……。夜まで待って」
う、うちでしよ? と提案するも、堂上に即、却下される。
「待てない。ここでもらう」
「も、もらうって」
堂上は郁に小刻みにキスを刻んでから、口を一度きゅっと横に引き結んだ。
「お前、今日必要以上にやらしいんだよ。仕事中に夫をそそるな」
郁は魂消た。
「えええ、や、やらしい?」
「ばか。でかい声を出すな」
人が来る。堂上は郁の口を手でふさいだ。
ふが、と息が堂上の手のひらに篭る。
やらしいと言われ郁は混乱した。
だって普通の競泳用の水着だよ? なんの飾り気もないよ。
そ、そそるって、いったい……。
至近距離で口を塞がれ動転したせいもあり、郁の目が泳ぐ。
堂上は息が苦しくないように加減しながら、あのな、と言った。
「競泳用の水着って、なんだか、ビーチで見る華やかなビキニよりある意味色っぽいんだよ。身体のラインがもろ出るしな。またがみ、切れ上がってるし。二割り増し、セクシーだ」
う、うそだあ。
そう言いたいが、言えない。ふがふがと声にならない声が漏れるだけ。
堂上は、少し拗ねたような横顔を郁に向けた。
「お前、脚きれいだしな。その水着と余計長く見えるし。野郎連中がプールに漬かりながらお前ばっかり見てるってのに、お前は全然頓着しないでずかずかプールサイド歩き回るし。っとに、業腹だったわ」
スキを突いて堂上の手から逃れ、郁は叫んだ。
「あいつらってば、あたしをそんな目で見てやがったの?」
訓練中なのに! 柴崎が昨日言ってたのは、こ、こういうことだったの? たちどころに恥ずかしさと憤激が襲ってきて、郁はじたばたともがいた。
プ、プールに入りながらのアングルだと、け、けっこうエグくないか? この水着で下からだと、と想像するだに赤っ恥だ。
そういやヤケに篤さんが不機嫌だと思った。連中をなぜか何往復も泳がせてたし。
堂上は大きくため息をついた。
「見てやがったんだよ。そしてそれを隣で見なきゃならん夫の心情を思い知れ」
苦々しく言い捨てた。
郁はしゅんとなる。
「ごめんなさい。でもあたしはただ一生懸命仕事を、」
「分かってる」
堂上がみなまで言わせない。
「不埒な目で見る野郎のほうが悪い。脚がきれいでスタイルがいいのもお前のせいじゃない」
ストレートに言われて、郁は首筋まで赤くなった。
「そ、それってほめ殺しですか」
「事実を言ったまでだ。ただ、明日からは気をつけろよ。立ち位置とかな」
堂上は優しく言って、郁の身体を懐に掻き抱く。
そして、
「昼飯は諦めろ。ここで抱かせろ」
収まらないんだよ、どうしても。
言ってそのまま郁の唇を浚った。
(この続きは、2010年夏・発刊予定 オフセット冊子「fetish」で。
興味のある方はどうぞ一押しお願いします↓)
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シャワー室はオープンだ。五人一気に浴びられるように、コックが横並びについている。
堂上はシャワーの右から二番目のところを使っていた。
鍛え上げた裸体。ふ、と気配を感じ振り返ると、郁がタオルを腕にもち入り口で待っている。
「どうした? 早く着替えないと、身体を冷やすぞ」
「大丈夫。さっきたっぷり浴びたので」
「行ってていいんだぞ。小牧たちと一緒に。腹も減ったろ」
それに郁はううん、と首を振った。
「待ちます。気にしないで」
郁の足許に、堂上が浴びたお湯がじわりと広がってくる。
「……もう一回浴びないか?」
一緒に、と顎をしゃくる。
「え、でも誰か来たら」
郁がためらう。
「誰も来ないよ。昼飯どきに。どいつもこいつも腹減ったって餓えた野獣みたいにがっついでるよ今頃」
みっちり泳がせたからなと、と口の端に笑み。
こういうところ、昔から全然変わらないよねと内心嬉しく思う一方で、郁は人気がないからといって気は抜けないと甘くなりがちな夫婦だけの空間を引き締める。
同じタイミングで、きゅ、とシャワーのコックを絞って、堂上が髪を掻きあげた。水しぶきが散る。
前髪を全部後ろに流すとどきっとするほど印象が変わる。
見たこともないほどアダルトになる。
堂上は犬のように首を振ってしたたる水滴を払った。
一歩一歩、大またで郁に近づく。
素足が濡れたタイルを踏みしめる音が自分に近づくのを聞く。驚くほど、足の親指が大きい。
プールで裸を見せ付けられるよりも、その親指に男を感じ、郁はたじろぎ身を引いた。
堂上は郁の前に立ち、わずか顎を上げて見上げた。
「俺は誰が来たっていい。かまやしない」
そう言い、いきなり下から唇を奪う。
「……う、ん」
とっさに抵抗しかかるのを身体で押さえて、堂上は郁を壁際に追い詰めた。
「あ、篤さんっ」
だめだよ。逃げ道を探して唇を離し、堂上の肩越しにドアを窺う。今のところ人影はない。
でも、いつ誰が入ってくるとも限らない。手塚であれ小牧であれ、ここのプールの職員であれ。
シャワー室でラブシーンを演じるのは、あまりにも無防備だ。
「ここはだめだよ。お昼だし、……。夜まで待って」
う、うちでしよ? と提案するも、堂上に即、却下される。
「待てない。ここでもらう」
「も、もらうって」
堂上は郁に小刻みにキスを刻んでから、口を一度きゅっと横に引き結んだ。
「お前、今日必要以上にやらしいんだよ。仕事中に夫をそそるな」
郁は魂消た。
「えええ、や、やらしい?」
「ばか。でかい声を出すな」
人が来る。堂上は郁の口を手でふさいだ。
ふが、と息が堂上の手のひらに篭る。
やらしいと言われ郁は混乱した。
だって普通の競泳用の水着だよ? なんの飾り気もないよ。
そ、そそるって、いったい……。
至近距離で口を塞がれ動転したせいもあり、郁の目が泳ぐ。
堂上は息が苦しくないように加減しながら、あのな、と言った。
「競泳用の水着って、なんだか、ビーチで見る華やかなビキニよりある意味色っぽいんだよ。身体のラインがもろ出るしな。またがみ、切れ上がってるし。二割り増し、セクシーだ」
う、うそだあ。
そう言いたいが、言えない。ふがふがと声にならない声が漏れるだけ。
堂上は、少し拗ねたような横顔を郁に向けた。
「お前、脚きれいだしな。その水着と余計長く見えるし。野郎連中がプールに漬かりながらお前ばっかり見てるってのに、お前は全然頓着しないでずかずかプールサイド歩き回るし。っとに、業腹だったわ」
スキを突いて堂上の手から逃れ、郁は叫んだ。
「あいつらってば、あたしをそんな目で見てやがったの?」
訓練中なのに! 柴崎が昨日言ってたのは、こ、こういうことだったの? たちどころに恥ずかしさと憤激が襲ってきて、郁はじたばたともがいた。
プ、プールに入りながらのアングルだと、け、けっこうエグくないか? この水着で下からだと、と想像するだに赤っ恥だ。
そういやヤケに篤さんが不機嫌だと思った。連中をなぜか何往復も泳がせてたし。
堂上は大きくため息をついた。
「見てやがったんだよ。そしてそれを隣で見なきゃならん夫の心情を思い知れ」
苦々しく言い捨てた。
郁はしゅんとなる。
「ごめんなさい。でもあたしはただ一生懸命仕事を、」
「分かってる」
堂上がみなまで言わせない。
「不埒な目で見る野郎のほうが悪い。脚がきれいでスタイルがいいのもお前のせいじゃない」
ストレートに言われて、郁は首筋まで赤くなった。
「そ、それってほめ殺しですか」
「事実を言ったまでだ。ただ、明日からは気をつけろよ。立ち位置とかな」
堂上は優しく言って、郁の身体を懐に掻き抱く。
そして、
「昼飯は諦めろ。ここで抱かせろ」
収まらないんだよ、どうしても。
言ってそのまま郁の唇を浚った。
(この続きは、2010年夏・発刊予定 オフセット冊子「fetish」で。
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いつもお世話になってます。
こちらは春まだきの 気温なので、夏はいったいいつくるの~?というのんきさも漂っていますが、こつこつ作っていきたいです。
そうなんですよ、スイッチを裏モードに入れるのがとても難しいですね。。。ステキ二次を書かれるみなさまが、どうやってあんなにすらすら書けてるのか、羨望のまなざしで見ております(><)
>たくねこさま
私の場合、話を作り上げるよりも冊子の体裁やデザインのほうを整えるほうが時間がかかりまして…(^^; なるべく早く仕上がるようがんばりますv
プールの話なので夏っぽくていいかな、と思っております。でも堂郁って私は書きなれないから文体がぎこちないですね。。。研鑽します。GW中に脱稿できるといいです。
夏が楽しみで仕方ないです♪♪
夏生まれなので…誕生日プレゼントになりそうですww