じっと見つめられている気がして、顔を上げるとジョウと目が合った。
テーブルの向こう。冷蔵庫の扉に寄りかかってこちらを見ている。
「なあに?」
あたしはスプーンを咥えて彼を見る。ちょっぴり行儀悪いかしら。バニラアイスを食べてるところだった。お風呂上がりに。
彼はこれからシャワーを浴びようというところ。喉が渇いたということで、炭酸水を取り出して飲んでいる。
行儀の悪さだったら、あたしよりジョウのほうが上だわ。立ち飲みしちゃって。
「いや……」
ジョウは目を逸らした。瓶をぐっと傾けながら。
「? そう」
あたしはアイスをまた掬って口に運ぶ。
甘い、美味しい。このメーカーのアイスが一番好き。はー、天国ってこのことね。
と、そこで、
「……なあに? もしかして一口欲しいの、これ」
あたしは訊いた。
手にしているアイスカップを目で示す。
ジョウは虚を突かれたように「俺が? いや、」とかぶりを横に振る。
「じゃあなんであたしを見るの。さっきからじろじろって」
「じろじろって、そんな。人聞きの悪い」
ジョウはばつが悪そうに言った。
「変質者みたいな言い方しなくても」
「ごめん」
でも、視線を感じていたのは変わらない。どうしたんだろう。ジョウも、否定はしないところを見ると、あたしを見てたのは間違いないんだろう。
じっと、目で促すと、ジョウは根負けしたように「……いや。その、気に障ったらごめん。ただ、――可愛いなあって」そう切り出した。
え。
あたしは硬直する。
びっくりしすぎて、アイスを掬うスプーンを扱う手が止まる。
ジョウはぐび、と炭酸水を煽った。顔はおろか耳たぶまで赤くなっている。
「風呂上がりに嬉しそうにアイスを食べてご機嫌な君が、めっちゃ可愛いなって思って……」
じろじろとか不快だったらすまん。小声でそう結んだ。
「……」
あたしはじわじわと体温が上昇するのがわかった。お風呂上がりのせいじゃない。一旦引きかけた汗がじわっとこめかみに浮かぶ。
「そ、そう」
あたしはスプーンを口に運ぶ。甘い。熱を吸って、喉を通って滑り落ちていく。
ジョウを直視できない。
おかしな感じになった空気に耐えかねたのか、ジョウがわざとらしく言った。
「じゃあ俺も風呂入ってくるかな」
「あ、待って」
咄嗟に呼び止めた。ジョウが「?」と足を止める。
「一口食べる?これ」
ひとすくい、バニラアイスをジョウに勧めてみる。ジョウは躊躇い、
「そういう意味で見てたんじゃない」
と首を横に振った。
「分かってる」
そんなの分かってるわよ。あたしは笑った。
アイス1つで幸せになれる自分は至極簡単で単純だと思う。そしてジョウの視線だけで更にご機嫌になれることも。
でも、――今最高に幸せ。
あたしはジョウに差し出したスプーンを自分に向け、ぱくっとアイスを含んだ。
「ジョウ」
「うん?」
「お風呂上がり、アイスより甘いもの食べない?」
二人で。
ジョウは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。けれど、あたしの顔を見て相好を崩す。
幾分照れくさげに、あたしの一番好きな角度で、大好きな笑顔を見せる。
そして言った。
「いいね。賛成」
END
テーブルの向こう。冷蔵庫の扉に寄りかかってこちらを見ている。
「なあに?」
あたしはスプーンを咥えて彼を見る。ちょっぴり行儀悪いかしら。バニラアイスを食べてるところだった。お風呂上がりに。
彼はこれからシャワーを浴びようというところ。喉が渇いたということで、炭酸水を取り出して飲んでいる。
行儀の悪さだったら、あたしよりジョウのほうが上だわ。立ち飲みしちゃって。
「いや……」
ジョウは目を逸らした。瓶をぐっと傾けながら。
「? そう」
あたしはアイスをまた掬って口に運ぶ。
甘い、美味しい。このメーカーのアイスが一番好き。はー、天国ってこのことね。
と、そこで、
「……なあに? もしかして一口欲しいの、これ」
あたしは訊いた。
手にしているアイスカップを目で示す。
ジョウは虚を突かれたように「俺が? いや、」とかぶりを横に振る。
「じゃあなんであたしを見るの。さっきからじろじろって」
「じろじろって、そんな。人聞きの悪い」
ジョウはばつが悪そうに言った。
「変質者みたいな言い方しなくても」
「ごめん」
でも、視線を感じていたのは変わらない。どうしたんだろう。ジョウも、否定はしないところを見ると、あたしを見てたのは間違いないんだろう。
じっと、目で促すと、ジョウは根負けしたように「……いや。その、気に障ったらごめん。ただ、――可愛いなあって」そう切り出した。
え。
あたしは硬直する。
びっくりしすぎて、アイスを掬うスプーンを扱う手が止まる。
ジョウはぐび、と炭酸水を煽った。顔はおろか耳たぶまで赤くなっている。
「風呂上がりに嬉しそうにアイスを食べてご機嫌な君が、めっちゃ可愛いなって思って……」
じろじろとか不快だったらすまん。小声でそう結んだ。
「……」
あたしはじわじわと体温が上昇するのがわかった。お風呂上がりのせいじゃない。一旦引きかけた汗がじわっとこめかみに浮かぶ。
「そ、そう」
あたしはスプーンを口に運ぶ。甘い。熱を吸って、喉を通って滑り落ちていく。
ジョウを直視できない。
おかしな感じになった空気に耐えかねたのか、ジョウがわざとらしく言った。
「じゃあ俺も風呂入ってくるかな」
「あ、待って」
咄嗟に呼び止めた。ジョウが「?」と足を止める。
「一口食べる?これ」
ひとすくい、バニラアイスをジョウに勧めてみる。ジョウは躊躇い、
「そういう意味で見てたんじゃない」
と首を横に振った。
「分かってる」
そんなの分かってるわよ。あたしは笑った。
アイス1つで幸せになれる自分は至極簡単で単純だと思う。そしてジョウの視線だけで更にご機嫌になれることも。
でも、――今最高に幸せ。
あたしはジョウに差し出したスプーンを自分に向け、ぱくっとアイスを含んだ。
「ジョウ」
「うん?」
「お風呂上がり、アイスより甘いもの食べない?」
二人で。
ジョウは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。けれど、あたしの顔を見て相好を崩す。
幾分照れくさげに、あたしの一番好きな角度で、大好きな笑顔を見せる。
そして言った。
「いいね。賛成」
END
久しぶりにお祝いのムードが漂う日本の春が、なんとも素敵だったので。甘めに仕上げました。笑
あらためましてご結婚おめでとうございますv
これは、結婚前か、結婚してからか。
アラミスか、ミネルバかきになりますねぇ。
今日の雨は、砂糖水だ(笑)