背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

風呂上がりの彼女

2023年08月07日 00時01分00秒 | CJ二次創作

夜。風呂上がりのアルフィンが、リビングにやって来た。俺の隣に座ってくっつく。

ぴとっと。

「ジョウ、何してんの?」

タブレットを操作する手元を覗き込む。

「んー、仕事。今日、昼間全然はかどらなくて」

「ふうん。大変ね」

「まあ、仕事だから。……」

「……」

「君こそ何でくっついたままなんだ? どうかした?」

集中がそがれる。俺は訊いた。

アルフィンは俺の右サイド――肩、上腕、肘、脇腹、腰、太もものあたりに自分の身体を密着させたまま、すり、と肩先に頬ずりをする。

「うふふ、ジョウにこうやってくっつくの、好きなの」

するりと腕に腕を絡ませてくる。より、密着度が上がった。

「もしかして、酒、飲んでるか」

ふと訊ねると、アルフィンは不服そうにふくれて見せた。碧い目がすうっと剣呑に引き絞られる。

「失礼ね、一滴も飲んでません。素面よ」

「あ、そ。失礼しました」

「よろしい。……こうしてジョウにくっついてると安心するの。落ち着く」

「ふうん」

俺はキーパッドを打ち込む手を止めずに鼻を鳴らす。

「筋肉質で、姫君のクッションにはあまりふさわしいとは思いませんがね」

思ったままに口にすると、アルフィンは笑った。俺に寄り添ったままで

「そうね。肩もいかついし、上腕はがっしりしてるし。筋張ったひじから手首の血管が浮き出た感じも、大きくてごつい手も、クッションって感じはしないわね」

何かの歌詞をそらんじるような口調で小気味よくそう言った。俺の、腕からひじから、俺の右側のパーツをしなやかな白い手ですすす、となぞっていく。

だから、集中力が削られるって。

「でも、こうやって触れてるととってもうっとりするの。……ジョウの身体は素敵よ。あったかくておっきくて、好き」

「それは、どうも」

また腕に腕を絡ませて、アルフィンがかすかに吐息を漏らす。

とろりとした眠気が襲ってきているのかもしれない。俺はリビングの時計に目を走らせながら思った。今は23:15を示している。

アルフィンの無防備さに半ば呆れつつ、俺は言った。

「夜中に、風呂上がりのいい匂いをさせて、男の隣にやってきてくっつくと、どういう化学反応が起きるか、アルフィンは分かってないな」

俺の声音が変わったのを気取り、アルフィンが頭を預けていた肩から身を起こした。

「え?」

「そもそも、俺が今日いちにち仕事がはかどらなかった理由を教えようか」

俺はようやくタブレットを操作する手を止めて、彼女を見やった。

間近で視線がぶつかる。

「ジョウ?」

「前の晩、君を抱くだろ。ーーたくさん、いけないところを弄って、蜜を掬って、この手でたっぷりと可愛がるとな」

俺は利き手の右手を持ち上げ、彼女の目の前にかざす。

中指と人差し指を立てて、ほかの指は軽く折って見せた。義手を装着した人みたいに、指の関節を何度か曲げたり伸ばしたりして、角度を変えて眺めてみる。

つられてアルフィンも俺の手をまじまじと見た。きっと、脳裏で思い出している。昨晩、どれだけいやらしい指使いで絶頂に押し上げられたか。はしたなく何度も達したか、頭の中でリプレイされているのがわかる。

その、羞恥がわずかに差し込む目元の赤みで。

「指先に、君のにおいが残るんだ。……それはどんなに洗っても洗っても、消えないんだよ。不思議なくらい。俺の指にまとわりついて鼻先で香る」

アルフィンが、言葉を失って俺の話に聞き入る。

瞳の奥にかすかなおびえと、同じくらいほのかに興奮の発芽が見て取れる。

俺はつづけた。

「濃厚な女のにおいだ。俺は気もそぞろで、全く仕事にならない。使い物にならなくなる、その日は一日中。だから今ようやく仕事に向かう気になっていたんだよ」

こんな真夜中になってやっとな。と、結んだ。

「あ……」

「なのに、君はまた俺んとこに来て妨害するんだな……。しようがないな」

俺はタブレットの電源をオフにする。

テーブルに放った。

「ジョウ」

「こんな時間にいい香りの彼女が、ふらっと隣にやってきてゴキゲンな感じでぴったりくっついて、俺の身体が好きだとか無邪気に言うとどうなるか。――アルフィンには教えとかなくちゃいけないな」

「あ? え……」

そおっとアルフィンが俺の腕から手を離す。ソファの上、じりじりと距離を取ろうとするが、もう遅い。

俺はアルフィンをソファに押し倒した。軽い。あっさり俺に組み伏せられる。

「あ、ジョウ。あたし、今夜は別にそういうつもりじゃ」

「なかった? そっか。でも、俺はそういうつもりと受け取った。――責任取れよ」

俺はアルフィンの顔の脇に両手をついて、薄く笑ってみせた。

部屋の明かりを俺が遮断しているため、彼女の顔に影が落ちかかる。

アルフィンはのしかかる俺の肩を両手で押し返しながら言った。

「ジョウ、ここでは、ダメってば。せめて部屋に行かせて」

「ん、まあ、気にしなくていいだろう。深夜だし、二人はもう寝たし」

「そんなぁ」

「無防備すぎるのが悪い。まあ、あきらめて堪能してくれ」

君の大好きな男の身体を、と言って、俺はアルフィンにキスをした。

残念ながら、彼女の抵抗は数十秒と保たなかった。

 

END

 

 

 

 


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