背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

プロポーズ

2023年08月15日 09時44分00秒 | CJ二次創作
アルフィンがテーブルについたところで、目の前にジョウがマグカップをことりと置く。愛用のピンク色の。
「どうぞ」
「ありがとう」 
アルフィンが嬉しそうに言って、両手でカップを包むように持ち上げ、口に運ぶ。
美味しいと、笑顔を見せた。
ミネルバでの朝のひととき。
4人で朝食を取って、アルフィンが食べ終わった食器を食洗機にかけて席につく。コーヒーを淹れるのはだいたい他のメンバーの交代制で。今朝は、モカがいいと言うタロスのリクエストにお応えして、ジョウがメーカーで丁寧に拵えた。
食後の一杯をゆっくり頂いてから、仕事着に着替えてめいめい働き始める。これが、ジョウのチームの朝のルーティンだった。
アルフィン向かいの席に座ったジョウが、そこでおもむろに切り出した。静かに、穏やかな声で、
「なあアルフィン。俺と、結婚、してほしい」
と。
「ーー」
「え!」
「ぶ!?」
三者三様の反応が出る。上からアルフィン、リッキー、タロスの順だ。アルフィンはあまりに唐突なプロポーズに呆然とし、リッキーは目を剥いて飛び上がり、タロスは含んだばかりのコーヒーを派手に吹き出した。
「え、え、え、」
リッキーが、中腰になってジョウとアルフィンを交互に指差す。
「な、何これ、ジョウ、アルフィン。何かのドッキリかい」
「ば、馬鹿野郎! 人様を指差すもんじゃねえよお前は。ま、まず落ち着け。座れ、いったん」
「お、俺らは落ち着いてるよ、おたついてるのはタロスの方じゃないか。ほ、ほらコーヒー、こぼしてる」
「あ、悪い」
ゴシゴシ。動揺しているのか、腕でじかにテーブルを拭う。あちち、と顔を顰める。
ジョウはじっとアルフィンを見つめている。切り出したときの声音と同様、至極穏やかな目つきだった。ゆったりと椅子に腰を下ろして、背もたれに軽く身体を預けて気負った様子はない。リラックスしている。
テーブルに並べたマグカップからは芳しいコーヒーの香りが立ち上っていた。
アルフィンはカップを手にしたまま、微動だにできない。あまりにも突然過ぎて、対応もできずにいた。
ジョウからの、夢にまで見たプロポーズ。
だけど。
「あのー、恐れ入りますが、リーダー? ひよっとしてもしなくても、今朝、このタイミングでアルフィンにプロポーズするってことは本人に告げてなかったんだね?」
そおっと、リッキーが口を挟む。視線を2人に交互に行き来させながら。
アルフィンのこの様子じゃ、と内心付け加え。
「プロポーズって、前もって、するよって言うもんか?」 
「いや、そうじゃないけどさあ」
ジョウのいらえに、リッキーが焦れる。頭を掻いた。
「俺らも経験はないけど、そのう、け、結婚してとかを切り出すのって、こんな朝ごはんの後のテーブルで、とかじゃなくて、二人きりで、とっておきの場所をキープして、とかムードを作るものじゃないの? 少なくとも俺らが今までに見た映画とかではそうだったよ?」
何で俺らが、こんなにあたふたしてんだ?と首を捻りつつ言い切った。
ジョウは、それもそうかと何度か頷いた。そして、
「いや、俺はアルフィンだけじゃなく、お前やタロスにもプロポーズするのを聞いてほしいと思ってたから。ーー俺たちは家族だろう? これからも一緒にこうやってみんなで暮らしていきたいから、俺がアルフィンに結婚を申し込むのを2人にも見届けてほしかったんだ」
そう言った。
今度は、3人ともが同じ反応を示した。
ジョウにひたと目を据えて、離さない。アルフィンは瞬きさえ惜しんで、彼を見つめた。
ジョウは彼女の手からそっとカップを取り上げた。折角淹れたコーヒーだったが、口をつけずに冷め始めている。
ことりとテーブルに置いた。
「アルフィン? 大丈夫か」
気遣わしげに顔を覗きながら、ジョウは尋ねた。
「あ、うん……、はい」
はっと夢から醒めたように、アルフィンが背筋を伸ばした。
「驚かせて悪かった。やっぱり2人きりでの方が、よかった?」
リッキーに言われて、彼なりに気にしてるんだとアルフィンが気づき、うううんと慌てて頭を横に振る。
「全然、平気、大丈夫。……ちょっとビックリ、したけど」
そう答えると、ジョウが満面の笑顔になった。
「よかった」
あ。
どうしよう、ーーどうしようあたし、今ようやく実感が湧いてきた。じわじわと体温が上がる。
頬が熱い。し、心臓が急にーー
あたし、ジョウに求婚を、プロポーズをされたんだわ。さっき。
結婚してほしいって。家族だから、家族になるから、タロスとリッキーにもしっかり聞いてほしいって。
ジョウがあたしにプロポーズを、した。
ジョウは少し照れたように目を逸らした。
「俺、いつ、君に切り出そうかずっと考えてて。ーー今朝、目覚めがよくてすんなりここに起きてきて、君の作った朝食を食べた。相変わらず料理は美味くて、タロスに頼まれたコーヒーも上手に淹れられて、4人でここで他愛無い話をしてーーみんな笑ってて。全部揃ってると思った。健康と仲間と家族と、幾らかの蓄えと。
今がいいと思ったんだ。こんな穏やかな朝にプロポーズして、君に受けてもらえたらいいなって。幸せだなって思ったんだ」
だから、結婚してくれないか、俺と。と改めて熱の籠った声でそう言った。
アルフィンは身じろぎも出来なかった。
まるで何かの魔法にかけられたみたいに。
「ア、アルフィン。ジョウはそう言って、ます、けど、」
沈黙に耐えかね、口を開いたのはリッキーだった。
「ばか、急かすもんじゃねえよ。こーいう時はよ」 
当人同士の話だろうがよと、タロスが嗜める。
「だって、兄貴、家族の前で結婚を受けてほしいって言ったぜ?てことは俺らにも無関係じゃないって事じゃないか!」
「う。そ、そりゃあそうだけどよ」
2人は返答しないアルフィンを横目におろおろした。
アルフィンはそこで目の前のマグカップに手を伸ばした。さっきと同じように両手で持ち、口に運ぶ。
そしてごくごくと音を立ててコーヒーを飲み干した。
「あ」
「アルフィン……」
「はあ、美味しかった〜。喉、からからだったのー」
飲み干してようやく笑顔を見せた。
笑顔の先にはジョウがいる。返事らしい返事を貰えず、少し不安そうに自分を見ているジョウが。
アルフィンはマグカップをテーブルに置いた。居住まいを正して話し出す。
「あたしも、今朝はなんか素敵なことが起こりそうな予感がするなあって起きた時から思ってたの。朝ごはんの支度はスムーズにいったし、みんないつもより美味しそうに沢山食べてくれたし。ドンゴもお皿洗いの準備を手伝ってくれて、面倒くさい手順もしないで済んで、助っちゃったって思ってたし。ジョウがコーヒーを淹れてくれて、リッキーとタロスはいつもみたいに賑やかにして笑わせて、ああ、今日はいい日になりそうって。今日みたいな日がずっと続くといいなって、あたし、そんなふうに思ってたの」 
そこで、ふふ、と何かを思い出したみたいに笑う。
「アルフィン」
「だから、嬉しい。ジョウが今日、ここでみんな揃ってるところでプロポーズしてくれて。この上なく素敵なタイミングね。なんだかあたしの気持ちが黙ってても通じたみたいだった……。すごく嬉しい」
アルフィンは感極まった。それ以上言葉にできずにうるっと涙で詰まる。
ジョウが身を乗り出した。
「じゃあ、受けてくれるのか、プロポーズ」
訊くと、うん、うん、とアルフィンは大きく頷く。子供のように素直に。
その拍子に瞳から大きな涙が二粒、ほろっとこぼれ落ちる。
なめらかな頬に跡を残してそれらはテーブルに落ちて弾けた。
「ーーアルフィン」
たまらずジョウが椅子から立ち上がり、アルフィンの元へ寄った。
座ったままの彼女の肩と頭を自分の懐に仕舞うように抱きしめる。
「よかった。受けてくれてーーよかった」
ジョウの声が弾んでいる。
堪えきれない歓びと安堵がそこに滲んでいた。
「ジョウ」
アルフィンも彼の腕にギュッとしがみついた。涙声で言う。
「あたしがあなたのプロポーズ、断るわけないじゃない。わかってたくせに」
「いや、でも、リッキーの言う通り何で2人きりの時じゃないんだって、デリカシーがないって保留にされたかもしれないだろ」
ヒヤヒヤだった、内心。と、ジョウがため息と共に打ち明けた。
「全然そんな風に見えなかった。寧ろ自信ありげだったわよ」
「そんなことはない。買い被りだ」
あ、そうだとそこでジョウが思い出す。
「実は指輪ももう用意してあるんだ。プロポーズの時に出せばいいのか、OKもらってから渡すものなのかさっぱり分からないから、今は俺の部屋にあるんだけど」
「ええ?指輪? いつの間に用意したの、あなた」
「それは秘密。サイズが合うといいんだが。持って来ようか」
もらってくれるか、と訊ねる。
アルフィンはうっとりと目を閉じて、ジョウの胸に、抱き留める腕に頬擦りした。
夢のようだった。
ふと、そこでジョウが気づく。タロスとリッキーがこそーっとダイニングルームを出て行こうとしていることに。
リッキーはともかく、タロスは巨体を可能な限り小さく小さくして、そろそろと足跡を忍ばせてドアのところへ向かっていた。
その動きはまるで泥棒が逃げ出すコントのようだ。
ジョウは彼らの背中に声をかけた。
「おい、どこへ行くんだ2人とも」
「え?」
「あらら、見つかっちゃったか〜」
あちゃーと大袈裟に肩を竦めたのはリッキーだ。
「いやー、なんか、俺らたちお邪魔虫かなー、なんて」
タロスも肩越しに振り返り、
「ベタですが、こっから先は若いお二人でドーゾ、ってことで。へへ」
末長くお幸せに……、となぜか赤くなって頭を掻いている。
じりじりとドア口まで後退って、2人は「じゃあ、そーいうことで!おめでとうございます、ご両人!」
祝いの言葉と笑顔を残してぴゆっとフェイドアウトした。
「……なんだよ、あいつら」
しばらく唖然としてドアを見ていたジョウだったが、喉の奥から気の抜けた風船みたいな声を出した。
アルフィンはジョウに抱かれたままくすくす笑いを漏らす。
「気を利かせたつもりなのよ、あれでも一応」
「あれで?」
タロスたちにしてみれば、ひどい言われようだ。
「ーーまあ、でも、気を使ってくれたんなら、厚意には甘えないとな」
ジョウは気を取りなして腕の中の姫君に屈み込んで軽くキスを贈る。
「……」
「ん。どうした?」
「うんーー、なんかね、今あたし、すごく幸せだなあーって」
うふふと恥じらうアルフィン。ジョウはまた彼女の唇を奪う。
「ジョ、ジョウ、ちょっと」
「うん?」
「その、用意してくれてたっていう指輪を見たいわ。婚約指輪? 結婚指輪?かしら」
ジョウは即答する。
「どっちも」
「ーーうそ」
「本当」
驚き顔のアルフィンに向かってニッと笑いかける。
「見たいだろう?」
「み、見たいわ。いつの間にジョウってば」
今日は本当にあなたに驚かされっぱなし。嘆息混じりにそう言うと、ジョウは「サプライズ成功かな」と悪戯っ子のようにヤンチャな笑みを片頬に浮かべた。
「惚れ直しちゃった」
アルフィンは笑って、完全に白旗ですというように両手を挙げた。

end

ジョウからアルフィンへのプロポーズは、長年のファンとしては、こういう日常のなかで、計画的なものではなくて、ふと愛おしい想いが溢れるみたいにさらりとあっても良いのではと思えるようになりました。
ファン歴も、既に35年とかですからね……。笑



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2 コメント

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Unknown (toriatama)
2023-08-29 02:14:47
安達さんの最後のコメントに激しく同意。間違ってもプロポーズは高級レストランとかモブとかは想像できないですよね。
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そうなんですよ (あだち)
2023-08-31 14:26:57
>toriatamaさん
さらっと、しぜーんにプロポーズする絵面しか浮かばなくなってきました。。。ぜくしいでも読まないと、新鮮なネタを供給できないみたいです。笑
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