「ジョウ、どっかに寄って晩飯でも食っていかねえか?」
アラミスでリーダー会議を終えたあと、懇意にしているクラッシャー仲間が声をかけてきた。
「本部の側に、美味い店ができたんだ。紹介するぜ」
人のいい好青年だ。同期だが、ジョウの方が幼い頃からこの業界に入ったため、向こうの方が年上という間柄。
そういや、腹減ったなと思いだし、ちらと腕時計に目をやる。
もう18:00を回っている。ったく、長っ尻の会議はたまったものじゃねえなとため息をつく。タブレットと首っ引きで資料を読んだせいで目が疲れた。
んーと少し考えてからジョウは「いや、今夜は遠慮するよ」と断った。
「なんでだよ。久しぶりじゃねえか、積もる話とかしようぜ」
「そうしたいのはやまやまだが、ちょっとこの後用事があるんでな」
ジョウはすまんな、と目で詫びて席を立つ。
同期の青年は残念そうに彼を見やる。そんな彼を見ていたら、なんだか申し訳ない気がしてきて、ジョウは、
「今夜はうちで食うって、約束してきてしまったんだ。悪い」
と言葉を重ねた。
「へえ……。律儀だねえ」
家族になら、ちょっと予定が変わったと言い添えれば済む話じゃないかと言いたげに、同期は呟く。
皮肉に聞こえないのは彼の人徳だなと思いつつ、
「今夜は二日がかりで煮込んだカレーに揚げたてのから揚げがごろんと付くんだと。ちょっと、急いで帰らないといかん」
おどけたように笑顔でジョウは言った。
「カレーにから揚げ……」
ジョウの言葉を反芻して、同期の彼も「いいな」とごくりと喉を鳴らした。
「だろう? だからすまん。今度の誘いは必ず行くよ」
じゃあな。そう言いおいてそそくさとジョウは会議場を出て行った。
「あー……、うん、またな」
ドアから出ていく背中に、その言葉は追いつかない。
もうそこにジョウの姿はなかった。
「どうした?」
別のクラッシャーが、取り残された感のある彼に声をかける。年の近い、仲の良い連中の一人だ。
いや、と気を取り直してデスクの上の資料を集め始めながら、
「ジョウに晩飯断られた。一杯引っかけて美味い肉料理でも食おうかと思っていたんだが」
カレーにから揚げだとよと呟く。最後の言葉をそのクラッシャーが聞き留める。
「何だって?」
「ん? 今晩、ミネルバの晩飯、カレーにから揚げが付くんだと、しっぽ振って速攻帰ったぜ。あのジョウが」
そう言うと、
「へえ、あのジョウが!」
クラッシャーが目を見開いた。
「意外だよなー。あいつ、変わったな」
「まあ、無理ないかもしれん。知ってるだろ?あいつんとこのナビゲータ」
「あ、あの美人と評判の元王女さまか」
「そう。あの娘がお手製のカレーをぐつぐつ煮込んで、あまつ、から揚げまで付けるわなんて言ってくれちゃったりしたらもう、ジョウでなくたって俺だって秒で帰るね。こんなむさくるしい連中しかいない会議場からは」
言われて同期も納得した。
「なーる……」
「いいなあ、ジョウは」
「ほんとだな」
二人は口々にジョウを羨んだ。で、結局二人つるんで同期お勧めの肉料理の店に向かうことになる。
ジョウの何が羨ましかったのか。……カレーかから揚げか、それともどっちもか。
はたまたそれを作って「早く帰ってきてね」と言ってくれる相手がいること自体が妬ましいのか。
会議場を後にした当人たちに聞くすべはない。
END
がっつり胃袋を掴まれていると思いますよ>ジョウくん 笑
「姐さん(←ユリア:ジョウの母)、
すっかり胃袋掴まれているわい。
年貢を納めるのも、早いかもしれん。」
ということで。
ところで、何系のカレー何でしょう。
インド?タイ?日本?
結局、実家には行かない!