「今晩のメニューは何かな?」
あゆみがキッチンで腕を振るっていると、背後から野宮が手元を覗き込んだ。
野宮のマンション。ここを訪れたときは、まったくといっていいほど揃っていなかった調理道具も、あらかた調えられた。あゆみの好みの暖色系で統一されている。
ええとね、今日はね、と肩越しに答えようとしたあゆみは、野宮の口元を見て眉根を寄せた。
「野宮さん、また煙草」
とがめるように言う。
あ、と野宮は手にしていたライターを背後に隠した。しかし咥えたものはもはや隠しおおせるものではなく。
「ごめんごめん、無意識なんだよね」
仕事してると欲しくなっちゃうんだ。言い訳にならないよなと自覚しつつ言い訳してみる。
「ん、もう。本数減らしてくれるって言ったのに」
あゆみはエプロンでざっと手を拭いて、野宮から煙草を奪った。
ぽい、とシンクの三角コーナーに投げ入れる。なんの躊躇もなく。
「あ」
まだ火もつけてないのに。
「もったいない」
「もったいなくないです。普段からハイペースで吸い過ぎなんだから、分かってます?」
「はいはい」
野宮は肩をすくめた。
あゆみのお小言は不思議なほど耳に心地いい。心から自分のことを心配してくれているのが伝わるからだろうか。
山崎なんかに知られたら惚気だとからかわれそうだが。
「じゃあ吸うの我慢する代わりに、ご褒美もらおうかな」
野宮は手近にあったダイニングテーブルのいすを引いて腰を下ろし、あゆみの手首を掴んだ。
強引に自分のひざの上に座らせる。
「きゃ」
「俺がタバコいっぽん我慢するたびキスひとつくれる、そーいうルールだったよね?」
に、と口の端を吊り上げて眼鏡の奥で笑ってみせる。
膝抱っこの要領で抱えられたあゆみは、いきなり至近距離に来た野宮のアップにどぎまぎさせられ、
「そ、そそそそうでしたっけ」
微妙に目をそらす。
「あ、とぼけるんだ、へええ」
とたんに野宮の声のトーンが平坦になる。あゆみは焦った。
「あ、そんなことない。ないです。――分かった。分かりました。するから、」
あゆみは真っ赤になりつつも野宮の眼鏡のフレームに手をかける。
「お願いだから黙っててね」
それを外して、あゆみからそっと口づけた。
この続きは管理人別サイト【真昼の月】にて
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野宮のマンション。ここを訪れたときは、まったくといっていいほど揃っていなかった調理道具も、あらかた調えられた。あゆみの好みの暖色系で統一されている。
ええとね、今日はね、と肩越しに答えようとしたあゆみは、野宮の口元を見て眉根を寄せた。
「野宮さん、また煙草」
とがめるように言う。
あ、と野宮は手にしていたライターを背後に隠した。しかし咥えたものはもはや隠しおおせるものではなく。
「ごめんごめん、無意識なんだよね」
仕事してると欲しくなっちゃうんだ。言い訳にならないよなと自覚しつつ言い訳してみる。
「ん、もう。本数減らしてくれるって言ったのに」
あゆみはエプロンでざっと手を拭いて、野宮から煙草を奪った。
ぽい、とシンクの三角コーナーに投げ入れる。なんの躊躇もなく。
「あ」
まだ火もつけてないのに。
「もったいない」
「もったいなくないです。普段からハイペースで吸い過ぎなんだから、分かってます?」
「はいはい」
野宮は肩をすくめた。
あゆみのお小言は不思議なほど耳に心地いい。心から自分のことを心配してくれているのが伝わるからだろうか。
山崎なんかに知られたら惚気だとからかわれそうだが。
「じゃあ吸うの我慢する代わりに、ご褒美もらおうかな」
野宮は手近にあったダイニングテーブルのいすを引いて腰を下ろし、あゆみの手首を掴んだ。
強引に自分のひざの上に座らせる。
「きゃ」
「俺がタバコいっぽん我慢するたびキスひとつくれる、そーいうルールだったよね?」
に、と口の端を吊り上げて眼鏡の奥で笑ってみせる。
膝抱っこの要領で抱えられたあゆみは、いきなり至近距離に来た野宮のアップにどぎまぎさせられ、
「そ、そそそそうでしたっけ」
微妙に目をそらす。
「あ、とぼけるんだ、へええ」
とたんに野宮の声のトーンが平坦になる。あゆみは焦った。
「あ、そんなことない。ないです。――分かった。分かりました。するから、」
あゆみは真っ赤になりつつも野宮の眼鏡のフレームに手をかける。
「お願いだから黙っててね」
それを外して、あゆみからそっと口づけた。
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