入浴後、共有スペースでゆるりと時間をつぶしている間。
雑誌のラックに無造作に突っ込まれた先月号の女性誌を何気なく手に取った柴崎は、知らず、ある特集記事に引き込まれた。
なんの記事かというと、「どこがボーダー? これが【デート】だと思う境界線ランキング」である。
それによると、二十代の女子たちの“デートと思う境界線”についての調査だという。二十代女子が「ここからは、好きな人とじゃなきゃ行けない」と考えるラインについてのアンケート結果が載っている。
「なになに……」
紙面にかぶりつきで読みふける。湯上りの自分に向けられる、男子寮生の目など眼中にない様子で。
ランキングは以下の通りだった。
【第10位/車に2人っきりなんて、友達とではありえない。「ドライブする」】
【第9位/一人暮らしの相手の家に行くのはさすがにデートかも。「相手の家に遊びに行く」】
【第8位/男の人と2人で会っただけでデートです! 「お茶する」】
【第7位/一緒にご飯を食べるのはデートだと思う。「食事する」】
【第6位/結構待ち時間があるから、好きな人とじゃないとムリ!? 「遊園地に行く」】
【第5位/いいなと思う人でないと、お酒は飲まない! 「2人で飲む」】
「そうなの?」
思わず声に出してしまう。なぜって、すでに下位の段階で、境界を越えている男が身近に居るからだ。
「嘘でしょ。フツーに二人で飲んだり食べたりお茶したりするわよ……。さすがに遊園地はないけど」
柴崎は内心ツッコミを入れながら記事を追う。
続きは、
【第2位/ムーディなところには、デート以外で行きません。「夜景を観にいく」】
「夜景かあ。……少し、観たいかも」
同率2位で、【2人で映画館に行くのは、デートに決まってます! 「映画に行く」】
「行くって。こないだも観たばかりだし」
同じく、【男友達とは一緒にショッピングなんてしません。「買い物をする」】
「してる。しょっちゅう付き合ってもらってる」
荷物もちとして頼んではいるけれども。
「うーん……」
柴崎はそこで読むのをやめ、しかつめらしい顔でひとつ唸った。
先を読むのが、こわいような、早く知りたいような。
複雑な思いで、第一位の項目に移る。と、結果は……。
柴崎は目を瞠った。
「無理! それは無理でしょ、ぜったい」
周囲の視線など気にもしないで声を上げたところで、「おい」と出し抜けに呼ばれた。
顔を上げると、当の本人が! 目の前に居るではないか。
「な、なによ、いきなり」
柴崎は思わずソファから腰を浮かしかけた。顔が瞬時に真っ赤になる。慌てて読んでいた雑誌を背後に隠した。
予想に反するリアクションに、手塚も面食らう。
「な、なにって、なんだよ。ただ声をかけただけだろ」
柴崎が立ち上がったので、相対する格好になってしまった。なんだ? どうした?と好奇の視線がたちどころに二人に浴びせられる。
「そ、そっか。ごめん」
「おっかない顔で何をそんなに真剣に読んでるんだよって言おうとしただけだよ」
「悪かったわね、おっかなくて」
噛み付く柴崎を、「違うって。そういう意味じゃなく。まあ、座れ」と手塚がなだめる。
言われるままにソファに尻を戻しながら、柴崎は「ああ驚いた」と心の中息をつく。
まったく、なんでドンピシャのタイミングで現れるかしらね、この男は。
レーダーか何かでも、ついてるんじゃないの?
ぼやく。そして今読んだ記事を反芻した。
男友達じゃなく、恋人。ここからは「デート」とみなされる境界。手塚はその10項目のうちの、二分の一、5つはとっくにクリアしている。
これってどういう関係なのかしらね。
ふと思いついて柴崎は、輝かしい第一位の項目を彼に振ってみることにした。
「ねえ、あんたさ。あたしと二人でどっかに旅行に行きたいとか思う?」
不意に投げられた爆弾に、手塚はどかんと沸騰した。
「りょ、旅行?」
――第1位
【ここまで親密になれたら、デートだと思う。「旅行に行く」】。
(fin.)
※私のカウントでは、じれじれ期間に10分の5をクリアしていると思われます。
詳しいランキングは下をご覧ください。↓
http://www.excite.co.jp/News/column/20091117/Escala_20091117_02833.html
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