リビングに通じるドアの脇に、所在なさげにリッキーが立っている。
キッチンからビールとつまみを持ちだして、テレビでも見て寝る前に飲ろうとやってきたタロスは、リッキーに気づき、「どうしたんだよ、お前。何やってんだ」と何気なく訊いた。
リッキーは壁に寄りかかったまま、だるそうに無言でドア向こうの部屋を指し示す。左手の親指をぐいと立てて。
「……?」
タロスはその巨体をかがめて、自動ドアの上部についている横長の窓をのぞいた。
リビングの光景が目に入る。
「……」
空を仰いで、リッキーに倣う。入り口に背中を預けた。
「な? 入るに入れないだろ」
リッキーは首の後ろに腕を回して、枕のようにさせて後頭部を寄せた。
タロスは無言。両手に持ったおつまみセットを眺めるでもなく眺める。
深夜にちかい時間帯。いま、リビングのソファではジョウとアルフィンがいちゃいちゃしている。
先刻、ジョウがアラミスへの出張から戻ったことは私室に引き取ってもわかっていた。でもアルフィンが出迎えるであろうことは知れていたから、二人は遠慮したのだ。彼らの時間を、二人きりの時間を持たせてやりたかった。
1週間も離れていたのだから。
ドアのわきに突っ立ってると、中の声が漏れてくる。
「こんなふうに膝枕してるなんて、リッキーたちに見られたらたいへん。向こう一ヶ月はからかわれちゃうわよ」
「さすがにもう眠ったろ。こんな時間だぞ」
「そうだけど。たまに深夜テレビとか二人で見たりしてるのよ。お笑いとか」
「ふうん。まあ別に構わないさ。悪いことをしてるわけじゃない」
それに、とジョウの声がくぐもって聞こえる。
「あいつら、けっこうああ見えて大人だぜ。からかったりするかな」
「見て見ぬ振りされるもいやね。……まあ、いいわ。あなたが気持ちよさそうだから」
ふふふとアルフィンのかすかな笑い声。
ジョウが寝返りを打ったのか、その後のやりとりは聞き取りづらくなる。
たあいもない雑談を交わしているのは伝わる。「なんだか最近、奥歯が痛む」とか、「虫歯? まさか」「ちょっとあーんしてみて」とか、「うそ。気のせいだった」とか、「なんでうそつくのよ、ほんとにもうジョウったら」とか、いちゃこらしているのは、ドア越しでも明らか。
「……」
「……」
リッキーとタロスはあくまでも無言。無無無無・・・・・
空気になりきるのがこの場合、得策。経験値がそう教えてくれている。
深く、ひとつ息をついてジョウが言った。
「疲れが取れる。このまま眠ってしまいそうだ」
甘く眠りに絡め取られそうになっている。瞼を閉じて、アルフィンの膝に身体を委ねている姿が二人の脳裏に浮かぶ。
「ダメよ、ちゃんとベッドに行かないと」
「ん……。操縦席に座りっぱなしで尻と腰が痛え……」
長時間の運転は、乗り慣れているジョウでさえこたえる。きっと身体はガチガチだろう。
そんな彼を優しく受け止めて、アルフィンが、
「マッサージしてあげるから、行こう?部屋に」
きっと彼の髪を指先でくしけずりながら、声のトーンを落とした。
「ん……」
半分、眠りの世界に引き込まれたジョウが、最後ひと足掻きのように言う。
「いや、俺がする。マッサージだけを楽しみに帰ってきたんだぞ」とそこで上体を起こした気配。
「~~もう、ジョウったら」
いちゃいちゃ……。いちゃこら……。
「だめだこりゃ。もう行こうぜ。独り身には目の毒だ」
タロスは今宵のお笑いテレビは諦めたとばかりリッキーに目配せ。
リッキーは、大人ぶった口調で返す。
「しようがないなあ。撤収しますか」
「当てられる。明日の仕事に差し障らあ」
「明日はオフだろ。だから夜更かししたかったのにな~」
壁から背をはがし、めいめい、部屋に引き取る。
もしかしたら、ジョウは気づいていたのかもしれない。ドアの外に自分たちがいること。
牽制の意味もこめて言ったのかも。「あいつら、けっこうああ見えて大人だぜ。からかったりするかな」と。
激務に身をさらし、ハードスケジュールをこなすジョウがようやく羽を休めているところを、からかったりするものか。
そんなことできるはずもない。
二人は、肩を叩き合いながら「またな」「ああ。アーカイブ浚おうぜ、今度」「飲みすぎんなよ、タロス」「ぬかせ」とそれぞれ私室に入った。
――メンバー二人の好きなところ。ジョウとアルフィンが心から信頼しているところ。
そういうところだ。
END
キッチンからビールとつまみを持ちだして、テレビでも見て寝る前に飲ろうとやってきたタロスは、リッキーに気づき、「どうしたんだよ、お前。何やってんだ」と何気なく訊いた。
リッキーは壁に寄りかかったまま、だるそうに無言でドア向こうの部屋を指し示す。左手の親指をぐいと立てて。
「……?」
タロスはその巨体をかがめて、自動ドアの上部についている横長の窓をのぞいた。
リビングの光景が目に入る。
「……」
空を仰いで、リッキーに倣う。入り口に背中を預けた。
「な? 入るに入れないだろ」
リッキーは首の後ろに腕を回して、枕のようにさせて後頭部を寄せた。
タロスは無言。両手に持ったおつまみセットを眺めるでもなく眺める。
深夜にちかい時間帯。いま、リビングのソファではジョウとアルフィンがいちゃいちゃしている。
先刻、ジョウがアラミスへの出張から戻ったことは私室に引き取ってもわかっていた。でもアルフィンが出迎えるであろうことは知れていたから、二人は遠慮したのだ。彼らの時間を、二人きりの時間を持たせてやりたかった。
1週間も離れていたのだから。
ドアのわきに突っ立ってると、中の声が漏れてくる。
「こんなふうに膝枕してるなんて、リッキーたちに見られたらたいへん。向こう一ヶ月はからかわれちゃうわよ」
「さすがにもう眠ったろ。こんな時間だぞ」
「そうだけど。たまに深夜テレビとか二人で見たりしてるのよ。お笑いとか」
「ふうん。まあ別に構わないさ。悪いことをしてるわけじゃない」
それに、とジョウの声がくぐもって聞こえる。
「あいつら、けっこうああ見えて大人だぜ。からかったりするかな」
「見て見ぬ振りされるもいやね。……まあ、いいわ。あなたが気持ちよさそうだから」
ふふふとアルフィンのかすかな笑い声。
ジョウが寝返りを打ったのか、その後のやりとりは聞き取りづらくなる。
たあいもない雑談を交わしているのは伝わる。「なんだか最近、奥歯が痛む」とか、「虫歯? まさか」「ちょっとあーんしてみて」とか、「うそ。気のせいだった」とか、「なんでうそつくのよ、ほんとにもうジョウったら」とか、いちゃこらしているのは、ドア越しでも明らか。
「……」
「……」
リッキーとタロスはあくまでも無言。無無無無・・・・・
空気になりきるのがこの場合、得策。経験値がそう教えてくれている。
深く、ひとつ息をついてジョウが言った。
「疲れが取れる。このまま眠ってしまいそうだ」
甘く眠りに絡め取られそうになっている。瞼を閉じて、アルフィンの膝に身体を委ねている姿が二人の脳裏に浮かぶ。
「ダメよ、ちゃんとベッドに行かないと」
「ん……。操縦席に座りっぱなしで尻と腰が痛え……」
長時間の運転は、乗り慣れているジョウでさえこたえる。きっと身体はガチガチだろう。
そんな彼を優しく受け止めて、アルフィンが、
「マッサージしてあげるから、行こう?部屋に」
きっと彼の髪を指先でくしけずりながら、声のトーンを落とした。
「ん……」
半分、眠りの世界に引き込まれたジョウが、最後ひと足掻きのように言う。
「いや、俺がする。マッサージだけを楽しみに帰ってきたんだぞ」とそこで上体を起こした気配。
「~~もう、ジョウったら」
いちゃいちゃ……。いちゃこら……。
「だめだこりゃ。もう行こうぜ。独り身には目の毒だ」
タロスは今宵のお笑いテレビは諦めたとばかりリッキーに目配せ。
リッキーは、大人ぶった口調で返す。
「しようがないなあ。撤収しますか」
「当てられる。明日の仕事に差し障らあ」
「明日はオフだろ。だから夜更かししたかったのにな~」
壁から背をはがし、めいめい、部屋に引き取る。
もしかしたら、ジョウは気づいていたのかもしれない。ドアの外に自分たちがいること。
牽制の意味もこめて言ったのかも。「あいつら、けっこうああ見えて大人だぜ。からかったりするかな」と。
激務に身をさらし、ハードスケジュールをこなすジョウがようやく羽を休めているところを、からかったりするものか。
そんなことできるはずもない。
二人は、肩を叩き合いながら「またな」「ああ。アーカイブ浚おうぜ、今度」「飲みすぎんなよ、タロス」「ぬかせ」とそれぞれ私室に入った。
――メンバー二人の好きなところ。ジョウとアルフィンが心から信頼しているところ。
そういうところだ。
END
⇒pixiv安達 薫
て、感じでしょうか。
ホント、独り者には目の毒・耳に毒(笑)
でも、お二人特にリッキーには、
必ずモテ期が来るから。それまでの辛抱、辛抱(笑)
まあ、うちの二次のスタンスはいつもこんな感じで永遠のマンネリなんです。めざせサザ〇さん、です笑