バカンスで逗留しているハイタワーホテル付きのプール。そのプールサイド。
パラソルが並び、デッキチェアーが一定の間隔で並べられている。
ジョウとアルフィンは、昼近くからプールに降りて来て、泳いだり南国の果実を絞ったドリンクを飲んだりして命の洗濯をたっぷり楽しんでいた。
久しぶりに泳いで楽しくなったのか、ちょっと長めに泳ぎたいとジョウが言った。苦笑しながら、あたしは上がって見てるわとアルフィンはプールから一旦引いた。
「他のお客さんの迷惑にならないようにねー」
デッキチェアーに寝そべりながら、彼女が言う。
「わかってるよ」
ジョウはゴーグルを掛け直し、太陽に照らされてすっかり温くなった水に手を伸ばして、ひと掻き前に進んだ。
クロールでゆっくり泳ぐ。
身体にまとわりつく、水の感触が心地よかった。
気がつくと、30分も経っていた。
泳ぐのは昔から好きだ。水の中も、宇宙空間も、えんえんと浮遊していられる。
アストロノーツとして先天的に向いていたんだろう。ジョウはそう思った。
まだ泳げそうだったが、ひとまず上がるか、とプールから出て頭をブルブルっと犬のように振りながらアルフィンの所に行く。濡れた身体にタオルが欲しかった。
ぼたぼたと水滴を滴らせて向かうと、アルフィンはパラソルの下デッキチェアーをフラットにして、その上で横向きで眠っていた。どうやら自分がいっこうに上がってこないため、待ちくたびれたらしい。
おいおい……。
近づきながらジョウは顔を顰める。
何てぇ無防備な格好で寝てるんだ。一体、いつから。
現に今も、眠るアルフィンの様子を通り掛かりがてらジロジロ不躾に見ていく輩がいっぱいだ。それほどアルフィンの寝姿は、男性諸氏にとってサービスショットだった。
ベビーピンクのビキニは、今年流行のデザインなのか、細かいフリルや花柄の刺繍があしらわれている。ぱっと見には、下着のように見える。それが彼女の身体を申し訳程度に覆い、グラビアのモデルのように扇情的に見せていた。横向きのため、胸が寄って胸当てから零れ落ちそうになっていたし、下腿のビキニも脚を合わせているため何も履いていないようにも見えて尚更ドキッとする。
ジョウはそんな連中に睨みを利かせ、隣のデッキチェアーにどかっと腰を下ろす。それで、コバエのようにアルフィンにまとわりついていた輩はすごすご退散したので、威嚇は成功したようだ。
そうしながら、自分の大判のタオルを肩から膝のあたりまで覆うようにすっぽり被せてやった。これでだいたい、野郎どもの視線を遮ることができた。
しかし、一向に起きる気配はない。スウスウと健やかな寝息を立てるだけ。
やれやれ……呑気なもんだな。
ジョウはため息を漏らした。
仕方がないか、昨夜も遅かった。あまり眠ってないのは、寝かせないことをし尽くしたからで、自分のせいでもあることを彼も自覚していた。
彼女を眺めながら、ジョウは彼女の前髪に指を伸ばす。
そおっと額に触れた。
暑さのせいでうっすら汗ばんでいる。水着になるから、キスマークは付けないようにしてねと懇願したので、それは守るようにしたジョウだったが、その代わり水着の布地に隠れる部分は執拗に愛した。アルフィンがたまらず悲鳴をあげるほど。
不思議なもんだな……。アルフィンの寝顔を見守りながらジョウは思う。
昨日、あれだけ愛して可愛がったのに、今もう欲しくなってる。終わりのない宇宙を遊泳するように、自分の欲望に果てがないように思えてなんだかうすら寒い思いさえする。
自分の中にある愛情の容量がわからない。
だからこそ、際限なく求めてしまうのかもしれない。アルフィンに縋って。
ふと、そこでアルフィンが目を開いた。
何度かまばたきをすると、美しい碧い瞳が現れる。すぐに焦点を結び、ジョウを捉えた。
「ジョウ」
「起きたか」
微笑んで見下ろす彼に、髪に触れられているのに気付いたアルフィンがにっこり笑った。
「眠っちゃってた」
あは、と肩をすくめながら上体を起こそうとする。
「うん。待たせてすまん」
「これ掛けてくれたの、あなた?」
肩からずり落ちるバスタオルに気が付いて、そう訊いた。
「ああ。あんまり無防備になるなよ、外で」
羽織ってろ、とむき出しになった肩にまたそれを掛け直してやる。
アルフィンは素直にありがと、と従った。
あふ……と欠伸をするのを上品に手で覆って、「ごめん、寝不足で」と漏らす。
「それは、俺のせいだから、逆にごめん」
少しばつが悪そうに乾きかけたうなじのあたりを掻く。
「まあ、そうね」
デッキチェアの上で自分の脚を体育座りのようにアルフィンは抱き寄せた。もじもじしている。
きっと昨夜のあれやこれやを思い出しているに違いない。
日焼けのせいではなく赤くなって、ジョウが言った。
「アルフィン、いったん部屋に帰らないか。昼飯の前に、少しだけ」
「え? もう?」
驚いたように訊き返す。予定ではお昼は併設のカフェで取って、夕方辺りまでプールで遊んでまったり過ごすはずだったのに。
「うん」
視線を合わそうとしない、その歯切れの悪さ。
アルフィンはもしかして、と察する。
「……したいの? ひょっとして」
ジョウの耳に口を寄せ、周りに聞こえないように手を添える。声を可能な限り低くして囁いた。
「……」
返事がないのが、返事となった。
アルフィンも赤くなった。しっかり日焼け止めを塗っているので、もちろんこちらもそのせいではない。
ーーうそ、あんなに、したのに。
なんてタフなの……、ジョウこそ昨日ほとんど寝ていないはず。
そう思ったが口にはできない。
でもジョウには思考が筒抜けのようで、「悪かったな」と彼は不貞腐れたように向こうをぷいと向いてしまった。
「アルフィンが嫌ならいいよ。飯にしようぜ」
立ち上がりかけたジョウを、その腕をとっさにアルフィンが掴む。
「あ、待って」
誰も嫌だとは言ってないじゃない。ごにょごにょと聞き取れなかったが、なんとかそれだけ理解できた。
ジョウは笑った。
「ーーじゃあOKってことで」
そうしてアルフィンに手を差し伸べて、彼女の手を握る。
デッキチェアーから立ち上がるアルフィンを恭しくエスコートした。
目が合って、なんとも照れくさくなり、二人は足元に視線を逃がす。
するりとバスタオルを外してチェアーに置いていこうとしたアルフィンに、ジョウは「そのまま。部屋まで羽織っていって」と言う。
「えー。暑いわ。それにてるてる坊主みたいなんだもの、これ」
「いいから」
じろっと目で促され、アルフィンは肩をすくめる。
「はあい」
ジョウに完全に独り占めされた姫君は、ホテルの最上階まで丁重にエスコートされていく。
水着をまとっただけの、濡れ髪のナイトに。
これから甘い時間を紡ぎ出すのは、部屋に入る前から分かりきっていることだった。
END
水も滴るいい男(色男)のお話です。←この形容って男子にしか使いませんね。そういえば。
恋人?新婚?
まぁ、ほどほどにね(苦笑)
凸凹コンビが見当たらないってことは若夫婦のバカンスかしらん。若いっていいなあ。
別件ですが羽生君のショウ、アリーナ席とは!一度だけ浅田真央ちゃんが現役の時に見に行ったんですがアリーナの上にあまりいいお席じゃなかったのでこれならテレビで良かったとガックリしたのでした。皆さん間近で見ると氷を滑る音とかすごい迫力だっておっしゃいますね。いつかもう一度行ってみたいです。
返信、前回できなくてすみません><
いつもコメントありがとうございます。新婚でも恋人期間でもいかようにもお読みくださいませ。笑
もうなんか、年齢的に(私の)うぶな未満時代の二人を書けなくなってきました。笑
>toriatamaさん
生羽生(なまはにゅう)あら、前から読んでもって感じになりました。笑
単独ショーもよいのですが、他のスケーター様の美麗な演技を見られるのもアイスショーのだいご味かと。荒川静香さんなんて、現役の頃よりもお美しくなっているような滑りとお姿でした~。堪能v
明日、新潟の最終日のライビュを映画館に見に行こうかどうか悩んでおります。。。