「はい、篤さん」
その夜、郁が用意したものは、自分が普段履いている肌色のストッキング、一枚。むろん洗濯済みのもの。それだけ。
「お、おい本当か」
たじろぐ堂上に、きっぱりと言い切る。
「うん、これ 履いて」
堂上は鼻白んだ。目をふいと逸らす。
「履いて、ってな。お前、これを俺が履いたら、そのう、まるっきり変態だろうが」
バツが悪そうに語尾がぶれる。でも郁は言い募った。
「そんなことない。あたししかいないし、大丈夫だよ。誰も見てないから」
「そりゃあそうだが……。しかしなあ」
渋る。
当たり前といえば当たり前の反応だが、郁は退かない。食い下がった。
「篤さん前にあたしに言ったよね。イきたいのにイけないのは、こんなことするのは普通じゃないっていうモラルに縛られているからだって」
「ん、そうだったか」
とぼける。
「そうだよ。言ったよ、そういう枠を取っ払ったところに、男と女で紡ぐことの愉しさがあるんだって。篤さんが言ったんだよ? まさか忘れたなんて言わせないよ」
堂上は、むすりと黙り込む。郁は真剣な面持ちで堂上の返答を待つ。
ややあって、低声が堂上の口から漏れた。
「……分かった。履くよ」
不承不承といった響きは拭い去れないが、それでも堂上は差し出されたストッキングを受け取った。
「今夜はお前の言うこときくって約束だもんな。……で、このまま履けばいいのか」
おっかなびっくり、ストッキングに手を伸ばす。郁は微笑んだ。
「うん。手伝おうか?」
「いや。……薄いな、破けちまわないのか。こんなにぺらぺらで」
シルクのシーム入りの上物だ。肌触りを手のひらに確かめる。
「履くのにコツがいるのよ。こうやってね」
郁はやり方を示してみせる。はじめだけ、足を入れるところだけ堂上は郁に手伝ってもらい、後は自分でパンストを腰まで引き上げた。
ふとそこで初めて気がついたように郁を見下ろし、
「あっち向いてろ。照れくさいから」
くぐもった低声で言った。
郁は言われたとおり、回れ右をした。程なく、堂上がパンストを身につけ終える。
鍛え上げられた裸体に、女性用ストッキングだけを纏った堂上。半ば自棄気味に「これで文句ないだろ。煮るなり焼くなりしろ」とベッドにどんと寝転がった。
「うん、する」
するね。篤さん。
すごくいい眺めだよ。
郁は猫が足音を忍ばせるように、彼の上にのしかかる
(この続きは、2010年9月発刊予定 オフセット冊子「LESSON」で。
興味のある方はどうぞ一押しお願いします↓)
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その夜、郁が用意したものは、自分が普段履いている肌色のストッキング、一枚。むろん洗濯済みのもの。それだけ。
「お、おい本当か」
たじろぐ堂上に、きっぱりと言い切る。
「うん、これ 履いて」
堂上は鼻白んだ。目をふいと逸らす。
「履いて、ってな。お前、これを俺が履いたら、そのう、まるっきり変態だろうが」
バツが悪そうに語尾がぶれる。でも郁は言い募った。
「そんなことない。あたししかいないし、大丈夫だよ。誰も見てないから」
「そりゃあそうだが……。しかしなあ」
渋る。
当たり前といえば当たり前の反応だが、郁は退かない。食い下がった。
「篤さん前にあたしに言ったよね。イきたいのにイけないのは、こんなことするのは普通じゃないっていうモラルに縛られているからだって」
「ん、そうだったか」
とぼける。
「そうだよ。言ったよ、そういう枠を取っ払ったところに、男と女で紡ぐことの愉しさがあるんだって。篤さんが言ったんだよ? まさか忘れたなんて言わせないよ」
堂上は、むすりと黙り込む。郁は真剣な面持ちで堂上の返答を待つ。
ややあって、低声が堂上の口から漏れた。
「……分かった。履くよ」
不承不承といった響きは拭い去れないが、それでも堂上は差し出されたストッキングを受け取った。
「今夜はお前の言うこときくって約束だもんな。……で、このまま履けばいいのか」
おっかなびっくり、ストッキングに手を伸ばす。郁は微笑んだ。
「うん。手伝おうか?」
「いや。……薄いな、破けちまわないのか。こんなにぺらぺらで」
シルクのシーム入りの上物だ。肌触りを手のひらに確かめる。
「履くのにコツがいるのよ。こうやってね」
郁はやり方を示してみせる。はじめだけ、足を入れるところだけ堂上は郁に手伝ってもらい、後は自分でパンストを腰まで引き上げた。
ふとそこで初めて気がついたように郁を見下ろし、
「あっち向いてろ。照れくさいから」
くぐもった低声で言った。
郁は言われたとおり、回れ右をした。程なく、堂上がパンストを身につけ終える。
鍛え上げられた裸体に、女性用ストッキングだけを纏った堂上。半ば自棄気味に「これで文句ないだろ。煮るなり焼くなりしろ」とベッドにどんと寝転がった。
「うん、する」
するね。篤さん。
すごくいい眺めだよ。
郁は猫が足音を忍ばせるように、彼の上にのしかかる
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