【7】へ
玄田が投入されたことで、白組はパワーバレーの波に乗った。
「どっせーい!」
玄田はどこからでもスパイクを叩き込んでくる。前衛はもちろん、後衛に下がっても、その威力は衰えない。堂上のレシーブ力をもってしても、凌ぎきれるレベルではなかった。
さらに、玄田がコートにいることで圧倒的に違うのは抜群の安心感があるということだ。精神的な支柱としての役割は、予想以上に大きい。
「声出していくぞ、お前らー! いいかーレシーブの時の掛け声は、【チャー!】だ」
「チ、チャー?」
戸惑いつつ、拾いに行く郁。
ぽんと放物線を描いてセッターにボールが入る。
すかさず、玄田から指示。
「そしてトスアップの時は、【シュー】!」
セッター! と指差すと、呑まれたように「は、はいっ」と【シュー】と言いながらトス。
「そしてそして、打ち方はこうだ」
がん、と両足で踏み切って、ジャンプ!
「【メーン!!】」
ばしいっ!
鉈で振り払うかのような激烈なスパイク。
赤組コートに地響きとともに突き刺さる。
どわああああ! 一気にギャラリーが沸騰する。
「ちゃ、チャーシューメン?」
呆気に取られる赤組、堂上班☆オールスターズ。
「見たか! 堂上、うちの【あした天気になあれ】作戦! 死角なし」
がはははは! 玄田の高笑いが、コート上木霊して。
劣勢に追い込まれていた白組が、息を吹き返した。
げーんだ! げーんだ! チャーシューメン! チャーシューメン!
何が何だか分からない声援が、観客席から降ってくる。
「何がチャーシューメンだ! ただ単に拾ってあげて打って、単調なオープン攻撃じゃないか」
堂上が噛み付くも、それはただのオープン攻撃の作戦ではなかった。
ここで伏兵、小牧の台頭となる。
「さあ、白組、俄然元気になってまいりました。さすがは総大将見参といったところ。また出るか、あの三段攻撃~」
「チャー」
「シュー」
「メーン」
「チャー」
「シュー」
「メンっ」
「追い上げます、玄田チーム。あっという間に20点台目前だ。意味不明の掛け声とともに、パワースパイクで赤組を封殺!」
「……ちばてつや」
ぼそ。
中継ブースで唾を飛ばしながらまくしたてる氷川に、横から柴崎が突っ込む。
「え?」
「昔のゴルフ漫画、ご存じない?」
にっこり。生キャラメルのように甘い笑みを振りまく柴崎。
氷川のみならず、解説の山本まででれんと鼻の下を伸ばした。
「い、いえ生憎」
「そ」
柴崎は顔をコートに戻した。
完全に攻守が逆転してしまっている。玄田の影響力の強さを見せ付けられた思いだ。
しかし、チャーシューメンとはね。笑える。
笑えるけど、シンプルでダイレクトな作戦だわ。白組の士気も上がった。
さすがね。玄田さん。
「さあ、また出るか。ちばてつやー!」
柴崎から聞きかじった情報を早速織り込む実況。
と、そこで。
スパイクに行こうと振りかぶった玄田の後ろから黒い影が現れる。
「えっ?」
二枚ブロックにいった進藤と緒形のちょうど手と手の間を縫って、ふわりとフェイントボールが。
「うわっ」
強打に備えて深く構えていた堂上も他の選手も、これには対応できない。
ブロッカーの足許にぽおんと落ちる白球をただ見ているだけ。
ピーっ! 審判が白組に手をかざす。ポイントだ。
ネットの向こうですたりと華麗に着地した小牧が、に、と目を細めた。
堂上と視線が合う。
「あ、あいつ……!」
「見たか! うちは強打だけじゃないぞ。ちゃあんと隠し玉も用意しとる!」
玄田が胸を張る。
堂上がアイコンタクトで選手を集める。タイムを取るまでもないときに、よくやる方法だ。
「小牧だ、小牧をマーク」
「え」
手塚が眉を上げる。
「玄田隊長が当たってるときこそ、小牧をマークするんだ」
いいな、と言い置き選手を散らせる。
サーブ権、白組のまま、試合再開。
しかし白の快進撃は止まるところを見せなかった。
小牧が舞う。蝶のように。軽やかに。
そしてフェイントで止めを刺す。ずさりと。
「すごいすごいすごい、小牧選手、まるで現役時代のモハメド・アリのよう。その華麗なステップ、美しいフェイント、私たちはバレーの試合を見ているのか。それともバレーはバレーでも、踊りの方のバレエを見ているのか。そんな錯覚に陥ってしまう、美麗なプレイを連発しております!」
実況、氷川も感嘆のあまり声が上ずってきた。
それほど小牧の技はすごかった。
「相手コートがよく見えていますね」
解説がため息を漏らす。
「まるでみっつめの目が、額にあるかのようです。小牧選手」
「くっそおお。汚いぞ、もっと正々堂々とスパイクで勝負したらどうなんだ」
赤組の若手が汗をこぼしながら歯噛みした。
堂上がたしなめる。
「違う。フェイントだって立派な攻撃だ。とっさの判断力と手首の柔軟性がなくては、あんな絵に描いたような弧はえがけない」
圧巻だ。
小牧はさりげなくギャラリーの毬江を窺った。
毬江は頬を紅潮させて、こくんと一度だけ頷いた。
すごい、幹久さん。目が雄弁に気持ちを語っている。
がんばって。祈るような思いで胸の前で手を組む。
小牧にとって、その姿が何よりのエールとなる。
負けない。負けんぞ。絶対勝って、勝利を彼女にプレゼントする。
小牧はそう胸に誓い、右手の人差し指を立てた。
「さあ、もう一本いこう」
じりじりと点差が開く。
堂上のリベロ分業作戦制でいったんは追い越した赤組だったが、玄田と小牧という異色の取り合わせによって再度突き放された。
「白組のマッチポイントは、もう間近! さあ、どうする、堂上班☆オールスターズ」
「うるさい解説!」
一喝するも、策はない。
堂上の顔に今まで見られなかった焦りが生じる。
彼の胸のうちをあざ笑うかのように、サーブを促す審判のホイッスル。
ピピーッ。
迷いを押し隠して、レシーブ態勢に入る堂上と後衛陣。
前衛にいた進藤と緒形が、そこで目と目を見交わす。
緒形が肩越しに言った。
「堂上、一本でくれ」
「え?」
向こうコートのサーブスエリアに、郁が立つのが見える。
猛者たちの中、ほっそりとさえ目に映る。
堂上の邪念を振り払うように、緒形は重ねた。
「トスアップはなし。二段でいく」
え?
意味が分からない。
郁がサーブのトスを上げる動作に入る。
「笠原、いっきまーす!」
「いいから、トスのつもりでレシーブ上げてくれ」
「? わ、分かりました」
フローターサーブが、狙い済ましたように堂上のところにやってくる。
くそ、わざとか! 堂上は奥歯を噛み締めながらレシーブ。
その瞬間、頭を緒形の言葉が過ぎる。
二段で。トスのつもりで。
堂上はレシーブにいく直前、微妙に身体を捻った。
いつもよりもネットに近く、ボールが上がる。
「おおっと、これは珍しい。レシーブの帝王、堂上監督にミスか?」
「!」
いや、違う! 瞬時に気がつくのは、玄田と小牧。
同時のタイミングで、レフトとライトから、助走に入ってくる二人の姿を捉えた。
レフトから進藤、ライトから、緒形。
「ああっ! こ、これは!!」
きゅきゅっ。床を鳴らして踏ん張り、高々とジャンプ。
右と左、緒形と進藤がど真ん中に上がったボールに腕を伸ばし。
ばしいっ!
同じタイミングでスパイクを叩き込んだ。
「!!」
時間が凍りついたように、白組コートは動けない。
サーブを終えて後衛に入った郁は、何事が起こったか把握もできていないようだ。
な、……何、今の。
チャー、シュー、じゃなかった? 二つ目で。
二人同時で打ち込んできた?
すたっ。
軽やかに着地した進藤と緒形が、呆気に取られている敵軍、そして同じだけぽかんとしてる自軍の面々を振り仰いだ。
そして、
「見たか、X攻撃ならぬ、その名も【上司アタック】」
少しだけ照れたように進藤が言った。
【9】へ
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チャーシューメンでも
タンタンメンでもいいので
玄田隊長がんばれ!
小牧教官はなんだか「必殺仕事人」の
中条きよしのイメージです。
三味線の弦をキリキリとくわえていたら、
コワイです。
進藤&緒方の上官コンビは
「アタック№1」の
三姉妹の中抜けって感じでしょうか?
(ものすごーく古いモノを引っ張り出してきてごめんなさい!!)
「だって、涙が出ちゃう…オンナノコだもん」なのは柴崎よりもやっぱり郁ちゃんでしょうか?
せらは申し上げたい!
なによりも あだちさま!!がんばって!!
中条きよしとはまた渋いところをw
ああ、でも凄く似合いそうで怖いよ>小牧
上司アタックは「X攻撃」を彷彿とさせるなあと、これまたニヤリ
「とぅりゃっ!」とか叫んで飛び上がる緒形と進藤の姿を想像すると、もうそれだけで可笑しいです(ちょっぴりハニかむ様もナイス!)v
ああ、あと堂上のリベロ!すげーぴったりなポジションですね!まさしく堂上の為にあるようなポジションだわv
その活躍ぶりにぽーっとなった郁が、また顔面レシーブになりませんようにw
↑
だって女の子だもん☆
[注:すごいよマサルさん風で)
細かい感動は↑の皆様の通りなので、一言
「え?図書館戦争って、バレーのスポ根
まんがだよね?」
おあとがよろしいようで。
そして、私はいい年なので、
アタックナンバー1もですが、
サインはVを思い出しております…
あ、手塚?
話についていけないから、ムリでしょ(爆)
メール有難うございました。のちほどコメント投下させにお邪魔しますのでよろしくです。
案外玄田さんって滅茶苦茶に引っ掻き回しつつ、チームの支柱として試合を支えちゃうんじゃないかなあって思いました。(でもまだセット終わってないから何とも言えないわ・汗)
あのう、敬称とか結構ですので。あだ、でいいですよ~
>MIOさん
堂上投入ならリベロ以外考えられないし、小牧もフェイントで翻弄しそうだよなって最初からイメージありましたです。中条さんの和装のかっこさせてフェイントさせたいですよね(わはは)郁ちゃんがいまんとこいいとこなしなので、後半戦はやはり、彼女で。
>伽藍さん
ブログコメントではお初です。(拍手ありがとうございました。
ママママ、マサルさん!! なつかしいっ!
私大好きで連載毎週読んでました!
って、なつかしアニメ&漫画回顧SSにすっかりなっててごめんなさい! バレーって競技人口はあまり多そうでないけど、TV中継とかでメジャーなので、映像が浮かんでくださるといいなって思いますv
>たくねこさん
うちの手塚は、今裏で頑張ってるみたいなので、表ではちょびっとお休みです(笑)
コメント有難うございましたv
拍手コメントも大切に頂いております。
緒形と進藤の上司アタックに、萌え萌えでありがとう☆