背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

冬は、スポ根 【7】

2009年03月20日 06時45分36秒 | 【図書館危機】以降

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玄田の指令どおり、白組は手塚を集中攻撃しだした。
サーブからスパイクから、徹底的にボールを手塚に集める。
手塚は前後左右に揺さぶられ、あっという間にへろへろになった。
「はっはっはーだ! 見なさい、手塚!」
ネットの向こうで笠原が高笑い。手を腰に当て、胸を張っている。
「くっそお~」
そういうとこ、どこぞの同室と似てるぞ! そう言いたいのに息が上がって声にならない。
はあはあと荒い息が口から漏れるばかりだ。
「手塚、しゃんとせんか! 足にもう来るとは、鍛え方がぬるいぞ!」
ベンチから堂上の檄が飛ぶ。
「はいっ」
と答える間もなく、また、スパイクが強襲。
手塚はレシーブに行こうとして、ずべっと前のめりに倒れた。
てんてん、とコート上白球が転がる。
「さあこれは予想外の展開となってまいりました。第一セット開始早々、コートをえぐるようなインナースパイクを決めた手塚選手でしたが、その後はいいところ全くなし。白組の執拗なまでの攻撃を受け、既に足もおぼつかない様子。
点差は9-3と開き、ワンサイドゲームの様相を呈して参りました」
「いやあ、これは意外でしたねえ。まさか手塚選手がチームの足を引っ張ることになるとは」
「駆けつけた応援席からも、ため息が漏れています」
実況どおり、手塚目当ての応援団もすっかりなりを潜めてしまっている。
張られた横断幕が悲しい。
「球技運痴って言葉、初めて聞きましたがそういう弱点ってあるんですかね。手元の資料によりますと、手塚選手の運動能力、基礎体力の測定値は抜きん出ていますが」
「いや、私も専門外ではありますが、味音痴、方向音痴といった具合に、特定の事柄に関してきわめて弱い、というのは先天的にあるいは後天的にありえるんじゃないでしょうか」
「なるほど。なるほど。ところで手塚選手、実際音楽・芸能関係の方はいかがなんですか? カラオケなどにも一緒に行かれてるという情報を得ています、ゲストの柴崎さん。手塚選手、歌の方は」
「あー、手塚選手ですかあ。彼は、カラオケは、」
「おい! 笠原のみならず、お前まで俺の足引っ張る気かよ!!」
ぜえぜえとコートに這いつくばりつつ、手塚が柴崎を制する。悲壮感たぎる声。
そんな手塚を二階のギャラリーのブースから見下ろして、柴崎は言い放った。
「ふーん。中継って下まで聞こえてるんだ。
あたしに下手なことばらされたくなかったら、そろそろいいとこ見せたらー?」
優雅に脚を組んでみせる。
制服の裾から覗く柴崎のおみ足は、手塚の士気を高めるのに一役も二役も買う。
そうだ、あいつが見てるんだ。
これ以上無様な真似はさらせん!
手塚が勢いづいて立ち上がった、そのとき。
「メンバーチェンジ!」
ベンチの堂上監督が審判に駆け寄った。



「おおっと、これはあ、チームの窮状を見かねて業を煮やしたか、赤組堂上監督自らコートに参上です!」
実況の絶叫とともに、うおおおおっと観客から歓声が上がる。
てっきり自分がベンチに下げられるものとばかり思っていた手塚は、他のメンバーと交代して自分の許へ駆けつけてきた堂上に面食らった。
堂上は駆け寄るなり手塚の尻をばんとはたく。
「しゃきっとせんか! 手塚。集中攻撃でへこたれるなんざ、精神面の弱さを露呈しているようなものだぞ!」
「はいっ、申し訳ありませんっ」
一喝され、直立不動の態勢となる。条件反射のようなものだ。
堂上は、ぐるりと自分を除く5人のメンバーの面を眺めてから声をひそめて言った。
「点差は離れたものの、まだ負けと決まった訳じゃない。しけた顔はやめましょう。ここからは俺が手塚狙いのボールは全部拾います。リベロに徹します」
進藤も緒形もいるためか、口調が若干改まる。
「リ、リベロ」
一同、呑まれたように息を詰める。
「全部って、お前、……できるのか」
「やるしかありません」
堂上の意志は固かった。顎を引く。
「レシーブに専念しますから、緒形一正はトスを手塚に回してください」
「お、俺ですか」
「情けない声、出すな。お前このままやられっ放しでいいのか。向こうに一矢報いんでどうする。
幸い、試合開始直後のお前のスパイクを見た限りでは、打つほうはそんなに悪くない。お前はスパイクに徹しろ。レシーブはせんでいい。いわばスーパーエースのポジションだな」
ス、スーパーエース。
その格好いい言葉は手塚をその気にさせた。頬が紅潮する。
「打ち方は得意だろ。名狙撃手」
ぽんと高いところにある手塚の肩に手をかけた。
上手い。進藤は舌を巻く。
やるな、堂上。部下を乗せるとは。成長したな、お前も。
「ということで、うちのチームは完全分業制でいきます。さあ、仕切りなおしだ!」
号令とともに試合再開のホイッスルが鳴り響いた。


「ず、ずっる~い。もう堂上教官が乱入してるなんて。まだ第一セットなのに」
ネットを挟んで白組は、作戦会議中の敵方の様子を窺っている。
郁は明らかに動揺していた。小声で指示を与えている堂上が気になって仕方がない様子だ。
小牧は腕で額に浮いた汗を拭いながら、
「いやー予想以上に早かったねえ。痺れを切らしていつかは出てくると思ってたけど」
とかすかに笑う。
「そ、そうですか」
「そうだよー。堂上がこんな楽しいイベント、ベンチで指咥えて見てるわけない。
でも、向こうが総大将を引っ張り出してきたってんなら、こっちだって……」
ベンチのパイプ椅子にどかりと腰を下ろす巨躯を見やる。
自然と郁も小牧の目線を追った。
「ぬるいわ! 堂上、策を弄したところで、この点差は縮まらんて!」
がはは! 高笑いする玄田。
「うちも、秘密兵器を投入するしかないよね?」
にこり。
邪気のない笑みを郁に向ける。郁は小牧の意図を汲んで、こくこくと頷いた。
「そのためには、少しうちもピンチの場面を作る必要があるんだけど……」
さて。思案を巡らす小牧。


しかし、特に思案しなくても、白組はまもなくじりじりと赤組に追い詰められることになる。
何がすごいって、堂上が、すごい。
レシーブに徹するといった自分の言葉に偽りなし、という風に、コート上、縦横無尽に動き回り、拾って拾って、拾い捲った。
「とりゃああっ」
その姿、まさにベーゴマが台座の上を転がるが如し。
ギャラリーは感嘆のため息に包まれた。
「す、すごいです。赤組、堂上監督、なんと華麗な足捌き、フライング、ダッシュ力でしょう! 白組のサーブ、スパイクをことごとく上げています。その姿、まさに東京オリンピックの女子バレー、東洋の魔女のごとし。恐るべきレシーブ力だ!」
「だれが東洋の魔女だ! 実況、いつの時代の生まれだ! 引用が古いわ!」
汗まみれで中継ブースに食って掛かる。
「おおお、意気盛んです堂上監督。これであれだけ開いていた点差は一気に詰まり、13-13だ!」
「堂上監督ー!! さいこうっす!!」
俄然盛り上がる赤組ベンチ。握りこぶしを天に突き上げる。
どーじょう! どーじょう! 堂上コールが自然と巻き起こった。
柴崎は一人冷静に、長机の上に肘をついて、脳裏に浮かんだ画像を言葉に変換する。
あれは、東洋の魔女っていうよりも……。あのめまぐるしい、足の動きは。常軌を逸した駆け回り方は。
「【未来少年コナン】?」



とにかく、勝負は振り出しに戻る。
というよりも、形勢は完全に逆転した。赤組優勢。
堂上の作戦が効いている。手塚をレシーブから外し、スーパーエースとしてライン外で待機させ、トスを丁寧に回してスパイクだけに専念させる。それが手塚の雑念や迷いを払拭したのだ。スパイクが決まるたび、粉々になりかけていた彼のプライドも修復し、完全に息を吹き返すことができた。
「うぬう、小癪な」
玄田が腕組みしていらいらと貧乏ゆすりをしていると、そこへ見計らったかのように、矢のような強烈な一撃が突き刺さる。
ばかん☆
スパイクだ。手塚の打ったスパイクが、敵コートに向かわずに白組ベンチを強襲したのだ。場外もいいとこ、大ホームランだ。
「監督!」
「玄田さんっ!」
さしもの玄田もまともに顔にくらい、椅子ごと後ろに吹っ飛んだ!
「あ……」
スパイクをふかした手塚が真っ青になった。
玄田はしばらく仰向けにひっくり返ったまま、ぴくりとも動かなかった。不気味な静寂が会場を覆う。実況も、あまりのことに声をなしている様子。
「げ、げんだかんとく……」
郁が、おそるおそる、ベンチに歩み寄ろうとしたところで。
がば、と玄田が跳ね起きた!
仁王立ちになる。顔を真っ赤に染めて、わなわなと全身おこりのように震わせて赤組を睨みつけた。
「手塚あ、よくもやってくれたな! いい度胸だ、褒めてやる!
審判、選手交代だ! お前、代われ! 代打、わし! 玄田だ!」
見とれよ、赤組! そう唸って玄田がジャージを脱ぎ捨てコートに足を踏み入れた。
玄田の参戦で、試合はいよいよ混戦の様相を呈してきた。


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2 コメント

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平成生まれの方、ごめんなさい (あだち)
2009-03-20 07:09:21
東洋の魔女はご存じないだろうな、と思いつつ、、、

へたをすると、コナンさえも。ううう。
返信する
だーいじょうぶよぅ (せら)
2009-03-20 09:38:18
楽しすぎる展開をありがとうございます!あだちさま。

PCの前で声を出して笑ってしまいました。

この展開は「東洋の魔女」っぽいなと同世代のせらは感じておりました。
(リベロはなかったけどね)

コナンの小柄で筋肉質な感じは堂上教官にぴったりです。(コナン・ザ・グレートとちゃいまっせ。その昔「ラナ!」「コナン!」という萌え萌えのふたりがおりましたんです)

ということですよね。

郁ちゃんはラナ??若干サイズを縮小すると納得!!です。

本日も楽しさ満載でありがとうございました。
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