アンデルセン童話
365のみじかいお話
緑のさやの中に五つぶのエンドウマメがいました。
豆たちはさやの中で話をします。
「ぼくたちは、ずっとここにいるのかな」
「外の世界は広いらしいよ」
何週間かして黄色くなったさやを、人間がちぎって、ポケットに入れ始めました。
「いよいよ外にとび出すんだな」
ある豆がさやの中でいいました。みんな外の世界が気になってしょうがありません。ある日、とうとうさやが割れて、豆たちは外にとび出しました。豆たちをしっかりつかんだのは男の子の手でした。
「これは、豆鉄砲にもってこいだぞ」
さっそく男の子は一つぶ目を打ち出します。
「つかまえられるなら、つかまえてみな」
最初の豆はそういってとんでいきました。
「ぼくは、太陽までとんでいくんだ。それが、ぼくにはおにあいだもの」
二つぶ目はそういって打ち出されました。
そして、さやの中でまだ眠そうにしていた二つぶの豆が、手から地面にころがり落ちようとしましたが、結局豆鉄砲で打ち出されました。
そして、最後に残った豆は、打ち出されるときこうつぶやきました。
「まぁなるようになるさ」
そして、やっぱりとんでいきました。
さて、豆たちは、どこにいったのでしょう。一つぶ目の豆は、屋根のといに落ちて、ハトのエサになりました。ねむそうにしていた二つぶの豆も、ハトにたべられてしまいました。
太陽までとんでいくつもりだった二つぶ目の豆は、どぶの中に落ちてしまいました。そういえば、最後に残った豆はどうなったのでしょう。
次の年の春のことです。屋根裏部屋にすんでいる病気の女の子が、ベッドから窓の外を見ていました。
「お母さん、窓から緑のものが見えるわ」
「あら、豆じゃないの。それにしても、どうやってあんなすきまに生えたのかしら」
最後の豆は、屋根裏部屋の窓の下にある、板の割れ目に入り込んでいたのです。そこでチリやコケに根を張って、スクスクと大きく育ったのでした。その晩、女の子はいいました。
「お母さん、わたし、きっと元気になるわ」
「神さまが、あなたを元気づけるために、あの豆を植えてくださったのね」
お母さんはうれしそうに答えました。
やがて、病気の女の子はすっかり元気になりました。窓の下では今日もきれいに豆の花が咲いています。女の子は手をあわせて、神さまに感謝するのでした。