みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1483「不具合」

2025-01-09 16:41:55 | ブログ短編

 彼は疲(つか)れ切(き)っていた。身(み)も心(こころ)もぼろぼろで何をする気力(きりょく)もわかない。そんな彼のことを、かいがいしく世話(せわ)をやくものがいた。でも、それは彼の恋人(こいびと)でも家族(かぞく)でもない。あいつだ。
 死神(しにがみ)は彼に言った。「ねえ、旦那(だんな)。そろそろお願(ねが)いしますよ。こっちにもノルマってのがありまして、そうそう旦那に貼(は)りついているわけにもいかないんで…」
 男の方はまだ死(し)ぬ気(き)にはなれないようだ。言葉(ことば)を濁(にご)す。
 死神は、「ほんとは一週間前だったんですよ。旦那が死ぬことになってた日は…」
 男は大きなため息(いき)をつく。死神はほとほと困(こま)った顔(かお)をして、
「悪(わる)いと思ってるんですよ。あたしが一日早(はや)く姿(すがた)を見せてしまって…。そんで、旦那が死ぬ機会(きかい)を逃(のが)してしまったんですよね。ほんと、申(もう)し訳(わけ)ない」
 男はこれみよがしにまたため息をつく。死神はますます困りはてて、
「これでもねぇ、旦那が気持(きも)ちよく逝(い)けるように努力(どりょく)してるつもりなんですよ」
 男は死神に背(せ)を向(む)けてしまった。死神は、どうしようもなくなって、
「でもねぇ、これはあたしのせいじゃないんですよ。前にも話しましたが、地獄(じごく)のシステムってやつが不具合(ふぐあい)を起(お)こしましてね。今、地獄じゃ大騒(おおさわ)ぎになってるんですよ。死ぬはずの人間(にんげん)がやって来ないもんだから…。やっぱ、あれですよねぇ。天国(てんごく)の真似(まね)なんかするから、こんなことになっちゃって…。天国のヤツらは大喜(おおよろこ)びしてるかも、…ですよね」
<つぶやき>不具合はいつになったら解消(かいしょう)するのでしょうか? でも、このままの方が…。
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