みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0073「二人だけのサイン」

2017-09-20 19:16:16 | ブログ短編

 十年ぶりの高校(こうこう)の同窓会(どうそうかい)。そんなに集(あつ)まらないと思っていたのに…。僕(ぼく)はぐるりと辺(あた)りを見まわした。そのとき人だかりの中から、
「おい、田崎(たざき)!」嬉(うれ)しそうに男が駆(か)け寄(よ)ってきて、
「久(ひさ)し振(ぶ)りだなぁ。元気(げんき)だったか!」
「兼田(かねだ)か?」それは親友(しんゆう)だった男。卒業(そつぎょう)してからは会う機会(きかい)もなくなっていた。彼とはなぜか気があって、遊(あそ)び仲間(なかま)のうちで何でも話せる気の良い奴(やつ)だった。
「おまえ知ってるか?」兼田は僕の耳もとでつぶやいた。「マドンナ、結婚(けっこん)したみたいだぞ」
 マドンナ。クラスの中で飛(と)び抜(ぬ)けて可愛(かわい)い娘(こ)で、僕たちは密(ひそ)かにそう呼(よ)んでいた。
「あの頃(ころ)、おまえ好きだったもんな」兼田はニヤニヤして、「結局(けっきょく)、告白(こくはく)できなくて…」
「よせよ、もう昔(むかし)の話しだろ」僕は心がざわついた。
 実(じつ)は、マドンナと短い間だったけど付き合っていた。別に告白をしたわけではないのだが。ちょっとしたきっかけで話をし始めて、二人にしか分からないサインを交(か)わしたり。会うときも誰にも知られないように気を配(くば)り、わくわくする時間を共有(きょうゆう)していた。
 卒業の時、僕はマドンナと約束(やくそく)をした。今度(こんど)会ったとき、お互(たが)いにまだ好きでいたら、サインを交わそうねって。それから僕らは別々(べつべつ)の道(みち)へ進み、二人の絆(きずな)は途切(とぎ)れたまま。
 僕は会場(かいじょう)で、いつしかマドンナを捜(さが)していた。彼女は女子たちの輪(わ)の中にいた。彼女と目があったとき、僕はドキッとした。彼女は二人だけのサインを送(おく)っていたのだ。
<つぶやき>青春(せいしゅん)の淡(あわ)い恋(こい)。懐(なつ)かしくもあり、どこか危険(きけん)な香(かお)りもはらんでいそうです。
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