彼は、心霊(しんれい)スポットと言われているところへやって来た。もともと怖(こわ)がりの彼が、なぜこんなところへやって来たのか…。それには、理由(わけ)があった。
それは、数日前のことだった。取引先(とりひきさき)を訪問(ほうもん)した帰り道、たまたま墓地(ぼち)の横(よこ)を通りかかった。その時、何だか身体(からだ)のだるさを感じた。疲(つか)れがたまっているのかと彼は思った。夜になると、どうにも身体が重(おも)くなって…。その日は、早く寝(ね)ることにした。
夜中頃(よなかごろ)だろうか、ふと目を覚(さ)ますと、足元(あしもと)の方に何かの気配(けはい)を感じた。頭を上げて目をこらすと、だんだんそれがはっきりしてきた。そこにいたのは、十代ぐらいの若(わか)い娘(むすめ)だ。彼は起き上がろうとしたが、どうしたことか身体が動かない。
その娘はどんどん近づいてきて、彼の上に乗(の)ってきた。そして、目の前に娘の顔が…。彼は思わず目を閉(と)じた。しばらくして、目を開けると…。まだそこに顔があった。彼は思わず声を上げた。娘は彼の口を押(お)さえると言った。「大きな声、出さないでよね」
娘の顔には怖(こわ)さはなく、どちらかというと可愛(かわい)く見えた。娘は言った。
「あたし、人を捜(さが)してるの。幽子(ゆうこ)って言うんだけど、知らない?」
彼は、首(くび)を振(ふ)った。すると、娘は寂(さび)しそうな顔をして、
「あたしのママなんだけど、戻(もど)って来なくて…。また、どっかに引っかかってると思うんだけど、なかなか見つからなくて。ねぇ、一緒(いっしょ)に捜してくれない? ねぇ、いいでしょ」
<つぶやき>ママもこの世のものじゃないのね。でも、幽子ってどこかで出てきたんじゃ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。