樋口(ひぐち)みおが投(な)げ飛ばした相手(あいて)は目黒(めぐろ)だった。あまりのことにみおは言葉(ことば)が出ない。目黒は起き上がると、ばつが悪(わる)そうに言った。
「あ、あれだ…。ちょっと…たまたま、通(とお)りかかっただけで…」
「もう、所長(しょちょう)。どうしてここに? どこからつけてきたんですか?」
「どこからって…、それは…。しかし、君(きみ)も…なかなかやるじゃないか。見直(みなお)したよ」
「ああ、子供(こども)の頃(ころ)から父に仕込(しこ)まれたんです。自分(じぶん)の身(み)は自分で守(まも)るようにって」
「そうか…。それはいい。でも、まだまだだぞ。僕(ぼく)が、本気(ほんき)を出したら…」
これは負(ま)け惜(お)しみってとこでしょうか…。話しを先(さき)へ進めましょう。例(れい)のチャラ男(お)と会う日になって、待(ま)ち合わせの場所(ばしょ)には目黒を初めとして鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)まで駆(か)けつけていた。だが、どうしたのかみおが約束(やくそく)の時間(じかん)になっても姿(すがた)を見せなかった。目黒はみおに電話(でんわ)をかけた。しかし、応答(おうとう)がない。目黒は鬼瓦に言った。
「まずいな…。何かあったのかもしれない。あいつに話しを聞くんだ」
二人はチャラ男に駆(か)け寄(よ)った。鬼瓦が警察(けいさつ)を名乗(なの)ると、チャラ男はひるんだ様子(ようす)で、
「あの…、僕は…何もしてませんよ。かんべんして下さい」
泣(な)きそうな顔になっている。どうやら、いかつい顔の鬼瓦に怖(お)じ気(け)づいたようだ。こいつを締(し)め上げたら悪事(あくじ)のひとつやふたつは出てきそうだと、鬼瓦は思った。
<つぶやき>みおはどこへ消(き)えてしまったんでしょう。このチャラ男が犯人(はんにん)なのかなぁ?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
二人は、何となく惹(ひ)かれ合って付き合い始めることに…。でも、まだまだ遠慮(えんりょ)があるようで、二人の距離(きょり)は縮(ちぢ)まりそうになかった。彼の方は、押(お)しが強(つよ)いわけでもなく、女子と付き合った経験(けいけん)も乏(とぼ)しかった。彼女の方は、もっと親(した)しくなりたいと思っているのだが、何をするにも嫌(きら)われたくないとか、よく見られたいとか考えすぎて何もできない。
こんな二人だから、周(まわ)りの友だちは気をもんでいた。そこで、友だちが集まって作戦会議(さくせんかいぎ)を開くことになった。でも、そこにはそれぞれの思惑(おもわく)がありそうだ。
「やっぱりスキンシップだよ。あいつらが手をつないでるとこ、見たことあるか?」
「絶対(ぜったい)ムリだと思う。あの娘(こ)も、こういうことになるとダメなのよね」
「手をつながせるなんて、どうすんだよ。フォークダンスでもしちゃう?」
「お化(ば)け屋敷(やしき)とかいいじゃん。俺(おれ)たちも楽(たの)しめるし」
「あんた、バカなの? 今はそんな季節(きせつ)じゃないでしょ」
「俺にいい考えがある。ここは、あいつに病気(びょうき)になってもらって、あの娘(こ)に――」
「あいつにそんな演技(えんぎ)ができるの? それに、あの娘(こ)を欺(だま)すようなことできないわ」
「これは、あいつらのためなんだよ。このままだと、卒業(そつぎょう)までずっと変(か)わんないぞ。あの二人には、早く恋人同士(こいびとどうし)になってもらわないと困(こま)るんだ」
「あなた、あの娘(こ)に片思(かたおも)いしてるしね。ちゃんと付き合ってもらわないと、諦(あきら)めがつかないんでしょ。あたしも…分かるわ。その気持ち…」
<つぶやき>いろいろあるんでしょうが…。ここは、余計(よけい)なことはしない方がいいんじゃ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
ここは幻覚(げんかく)の世界(せかい)。川相初音(かわいはつね)と琴音(ことね)は苦戦(くせん)していた。巨大(きょだい)トカゲに近づくことができないのだ。トカゲの背後(はいご)に瞬間移動(しゅんかんいどう)しても、どういう訳(わけ)かすぐに攻撃(こうげき)を受けてしまう。太(ふと)いしっぽが飛(と)んで来たり、長い舌(した)がまるで矢(や)のように向かってくる。
二人は体力(たいりょく)を消耗(しょうもう)していた。それは一瞬(いっしゅん)の出来事(できごと)だった。ちょうど琴音が空中(くうちゅう)に留(とど)まっていたとき、トカゲの舌が琴音を捕(と)らえたのだ。琴音は地面(じめん)に叩(たた)き落とされた。そして舌が巻(ま)き取られていく。トカゲの口が目の前に迫(せま)ってきた。琴音はとっさに能力(ちから)を使い舌を切り落とした。そして、初音の近くへ飛んだ。
トカゲの舌はすぐに再生(さいせい)されて元通(もとどお)りになる。そして、二人に向かって突進(とっしん)してきた。初音が壁(かべ)を作って何とかくい止める。でも、初音の能力(ちから)は弱(よわ)まってきていた。あとどれだけもつか分からない。トカゲはいったん下がると、二人の周(まわ)りをゆっくり回(まわ)り始めた。このままでは、間違(まちが)いなくあのトカゲの餌(えさ)になってしまう。
その時だ。二人の前に月島(つきしま)しずくが現れて、のんきそうに声を上げた。
「これ、すごいね。こんなの初(はじ)めて見たわ。でも、可愛(かわい)い顔してるわよね」
初音が怒(おこ)ったように、「もう、なに言ってるのよ。こっちは大変(たいへん)なんだから…」
しずくは岩(いわ)の上にいるメイサに目をやると呟(つぶや)いた。「やっぱり、あなたね」
メイサは不敵(ふてき)な笑(え)みを浮(う)かべて、「これはこれは、餌が増(ふ)えちゃったわ」
<つぶやき>しずくはトカゲをやっつけられるのか? メイサとの戦いが始まるのか…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。