毎日が遺言

狭山事件の石川氏

 30年来、こだわり続けている裁判がある。「狭山事件」である。
 鳥越憲一郎がテレビ番組でもこだわっていた事件なので、知っておられる方もあると思うが、事件が起こった当時はかなり話題になったようなのに、差別にかかわる事件であることによって、タブー感が強くて、あるいは忌避感が強い時代にあって、あんまり有名にならなかったり、マスコミが取り上げることを避けたりして、事件の重さに比して国民的反応の鈍い事件であった。
 ただ、私は、真っ当な司法と冤罪を考える上で、この事件を避けることは日本人として罪であると思っている。そういうこともあって、死刑判決・無期判決を受けながらも、無罪を主張し続け、そして仮釈放となってからも精力的に自己の無実を訴える石川一雄氏を支援したいと思っている。
 たまたま、今夜、石川氏が奈良にいらっしゃって、労働組合系の集会があるという情報を得たので、行ってみた。
 鳥越憲一郎のテレビ番組や、弁護士の話のあと、石川氏の話があった。
 彼は、ろくに小学校のいけないまま冤罪を被ったのだが、「無知であってはいけない」ということをしきりに訴えていた。また、差別によって学びを奪われていたこと(彼は小学校もろくに通っていない)が差別に原因するものだとは、支援者がいることを知って初めて気がついたといい、「皮肉な話だが、冤罪を受けて、はじめて言葉を学んだし、そのことによって差別と闘う人がいることを知り、また誰にでも支えてくれる人がいることを知った。」と話していた。石川氏の話は何度も聴いているが、聞くたびにわかりやすくなる。訴えのつぼがわかってきているんだろうと思う。
 何より、石川氏の話の中で、「死刑判決を受けた後の刑務官が、『おまえは無実だと、私は思う。だからしっかり勉強して、自分の言葉で訴えなさい』と、8年間も、何かと私の勉強に力を貸してくれたことが、今の私を支えていると思う。その刑務官とは今も交流があり、娘さんの結婚式にも招かれて、本当に人のありがたみを感じている」という逸話が語られたのは、印象深かった。冤罪で死刑、そして無期判決を受けながら、支援者の集会で語られる内容が「人への感謝」であることに、感銘を受けたのだ。
 また、石川氏は、彼の予定時間に大幅に食い込んだ弁護士のことは何も言わず、自分の予定時間30分が保証されない状況で、10分だけ話をし、またそれに続いた妻の早智子さんが時間をオーバーすると、席を立って、聴衆の目にじゃな見ならない場所で、かつ早智子さんの目の届くところに移動して、手でバツ印を作り、すぐに話をやめるように促したのは印象深い。もちろん、場は「時間ぐらいいいじゃないの」という笑いが起こっていたのだが、席に戻った早智子さんに、石川氏は小声でいさめていた様子で、早智子さんは、急にかしこまった表情になっていた。
 事件のことはさておき、そんなまじめな石川氏の様子を知ったことが、今日の収穫だった。たぶん石川氏は、予定時間を縮められても、その条件の中で、きっちり“仕事”をしたのだ。そして、場の雰囲気に甘えていた早智子氏をいさめたのだ。
 このまじめさに、感銘を受けた。
 石川氏は、またこうも言った。「私の無罪が明らかになったあとも、どうか皆さん、この事件だけでなく、すべての冤罪事件に闘い続けてください」
 2時間余りの集会であったが、石川氏のこの10分だけが、今日の意義であったと言っていい。
 事件のことはさておき、30年以上も無実の罪で縛られ、やっとのことで仮釈放を得ても、精力的に自らの無実を訴えまわり、しかも自らのことと同じくらいに冤罪全体を考えている石川氏に、今日は感銘を受けた。
 集会が終わって、会場を出ようとしたら、出口で石川氏が一人ひとりと握手していた。私と握手するとき、石川氏は深く頭を下げてくれた。
 仕事の後、疲れた体を運んで、今日は良かったと思う。石川氏のまじめさに触れて、どんな条件であっても、その時の自分のベストをつくす姿を目の当たりにしたからだ。
 この姿勢を見習いたいと思う。

コメント一覧

みらパパ
http://yaplog.jp/mirapapa/
そうなんですか。{わお}
何か冤罪にかかわるようなことがあったんでしょうか。
人は皆それぞれに、他からはうかがい知れない条件を抱えて生きてゆくものですが、それを知りあうだけでも、支えになったり、助けになったり、あるいは気持ちだけでも、一瞬でも楽になったりしますよね。
たがいがそういう関係であれば、社会が変わると思うんです。{YES}
とぶとぶ
http://yaplog.jp/ht413/
おはようございます。
この事件の具体的な内容について、私は知りません。
しかし、広い意味での関連で・・・。
過去に考えなければならない環境にいました。
これからも、少しでしょうが・・・、続くでしょう。
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