星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

二月大歌舞伎 昼の部「通し狂言 彦山権現誓助剱」(4)

2011-02-27 | 観劇メモ(伝統芸能系)
昼の部「通し狂言 彦山権現誓助剱」3回目

劇場     大阪松竹座
観劇日    2011年2月20日(日) 
座席     1階3列

話の流れは(1)(2)で書いたので、今回は追加部分だけ。
しかし、1週間前の記憶が日々猛スピードで消し去られていき、
かなり無惨・・・。
以下、思いつくまま。






<京極語録からピックアップ>
●できますのう、できますのう!
まず、出の台詞が面白すぎ! これって「やるじゃん、やるじゃん」
てことでしょ。以下、現代語で・・・。

屋敷の庭で弥三郎とお菊が皆に隠れてコソコソ話。
これを陰で聞いていた京極が「やるじゃん、やるじゃん」
と言いながら下手奥から登場する。
二人の仲をやっかみ、ヨワミにつけ込む京極。「オレは前からおま
えが好きだった。オレといっしょにならないか」
と強引にセクハラにおよぶ京極。しゃがんでお菊の右袖の下に潜り
込み何やらよからぬ行動に・・・。いやがるお菊。
そこへお菊の父親一味斎がやってきて「何をしている」と諌める。

京極の後の述懐によれば、一味斎を討った(撃った)のも元はとい
えばお菊をめぐる遺恨が原因だったらしい。
話の発端、重要な場面の象徴がこの「できますの。できますのう!」
なのだ。太く大きく、簡潔にして明瞭。愛之助さんはこの出の台詞
から京極のニオイを発していて見事だった。

弥三郎の若々しい二枚目ぶりを薪車さんが好演。
松也さんのふくよかなお菊は上品な色気と情に訴える芝居が鮮やか。
愛之助さんの京極は、いきなり横恋慕にセクハラ。それをふと~い
声でイヤミに演じ、冒頭から悪の存在感ばりばり。前半部分の牽引
役として強烈に魅力的だった。

●うんと言えば京極様の奥様に、いやなら、なぶり殺しに。
仇討ちが叶えば、弥三郎との結婚を認めてもらえる!
喜び勇んで家を出たお菊も、結局は京極の手にかかってしまう。
3人の絡みの場面は見るたびに悲劇性を増していったように思う。

一味斎から奪った一巻があるからと、弥三郎と病のお菊を誘い出
す京極。ここの騙し討ちは何回みても残虐。
足萎えのふりをして油断させ、弥三郎を背中から斬り殺した後、
お菊の体をつかんで言う台詞がコレ。
「うんと言えば京極様の奥様に、いやなら、なぶり殺しに」。
お菊に拒否され、一、二、三太刀あびせた後、地面にころがった
お菊の顔を刃先でツンツン。笑やいの、笑やいのう(笑えよ)と
言う。あれほど好きだった女をまるでモノのように扱う残忍さ。
その後、去り際にお菊に裾をつかまれて、お菊のほうに戻って再
度とどめを刺し、死んでも顔の可愛いやつよ~、と死体の顔に口
づける狂気のふるまい。その気色わるさにゾゾ~ッ。
(この場面の接近度、1階前方席でようやく確認できた!)

前述の場面に続き、お菊に対する京極の異様な愛着ぶりがわかる
場面だ。このあたりの細かい表現の積み重ねによってあの不気味
な京極像が造形されていったのだと思う。
好きな女の死体への異様な執着という点では、夜の部の源五兵衛
と若干共通点がある。
源五兵衛がいかにも愛おしそうに首を抱きかかえて歩いたのに比
べ、京極の場合、自分の欲求を満たすことが優先という感じ。
もしお菊がウンと言ってくれれば「奥様」として大事にしてくれ
たのだろうか。自分を受け入れてくれなかった女に対する男の仕
打ちはあまりに冷酷。
All or Nothing. それを表している台詞として強く印象に残った。

今回が初役だった愛之助さん、今後また演じる機会があれば、ま
だまだ表現できる余地のある面白い人物だと思った。

<引き車で登場する京極>
1階花道横。引き車に乗って寝ころんだ状態で花道から登場する
京極の顔がピタッと私の目の前で止まった。
目頭のほうに隈取りを長く引き、悪役ながらも精悍で美しいお顔
が自分の眼前にあってヒョエ~。ここぞとばかりにガン見させて
いただきました。シ・ア・ワ・セ♪

<一味斎 VS 京極>
勝負は明らか~!!と言われて驚く京極。
歌舞伎の殺陣がいくら形だけといっても、客席から観ていてこの
勝負、京極がちょっと可哀想な気がした(笑)。
で、どこで袖が斬られたのかしっかり再検証してみたがわからず。
すると、判定役の弥三左衛門が「二太刀目と四太刀目」だと台詞
でちゃんと解説していた。失礼しましたっ!

<お園という女>
孝太郎さんのお園ちゃん、すっごく魅力的だった。
腕っ節は強いが、気持ちはとても可愛らしい女の子なのだ。

仇討ちのお墨付をもらった後の引っ込み。前列で観て初めて見え
た表情のことを追記しておこう。
幕が閉まり、花道だけが見えている演出。母親とお菊は先に行き、
お園だけが残っている。
お墨付の書状を金の扇の上に乗せ、あらためて戴いた後、右手に
掲げ、左手には脇差し。顔を上げて歩き出したその表情は晴れや
かというものではなく、父の死を想い涙を堪えている表情だった。
まだ死の直後なのだ。父への想いが全くブレがない孝太郎さんの
お園には大いに共感。声援を送りたくなるカッコよさだった。

猿弥さん演じる佐五平が、お菊と弥三郎の忘れ形見の幼子を守ろ
うとして賊にやられた後の場面。
六助がその賊のボスだと思いこんで、お園が六助の家に乗り込む
場面では女武道としての厳しい表情だが、それが勘違いで、目の
前の人が父の決めた許嫁と知った途端の、変わり身のナンテ素早
くて可愛らしいこと!
甲斐甲斐しくふるまおうとして失敗の連続。
この場面の描写が孝太郎さん、凄くいい。コメディタッチでその
場がいつのまにかほのぼのとした空気に変わっている。
客席からはいつも素直な反応である笑い声が聞こえてきて実に楽
しい時間だった。お園の急変にギョッとする六助にも笑わされた。
松嶋屋親子が演じるホヤホヤの新婚カップルに、竹三郎さんの姑、
お菊の子が加わったニュー吉岡家の素晴しいチームワークに笑わ
され、泣かされ、あったかい気持ちがこみ上げた。

<六助の笑顔>
人懐っこいというか、人がいいというか。
六助の笑顔には嘘がない。
しかも剣の遣い手でめっぽう強い。このギャップがたまらない。
前半は強い六助が弱い京極に剣で負ける。それを本気の六助が、
恩師の一家を引き連れて倒しに行くというのだから面白くない
わけがない。
TV映像で見た「毛谷村」は行くぞ!と決心した構図で幕なのだが、
今回は本懐を遂げるところまで見せてくれたので胸がすく思いだ。

特に四幕目の前半部分は可愛らしい仁左衛門さんの笑顔がたっぷ
り見られた。
京極との出会いの場面では、親孝行をよそおった相手を信じ込み、
八百長試合を笑顔で引き受けてしまう。
試合に勝たせてやった京極が、去り際に六助の額を扇で叩き出血
させた時も怒るどころか笑っていた。
出世してよほど嬉しいのだろうと、相手のことを思いやる余裕の
笑顔。肩をいからせエラそうに花道をゆく京極を、指差して真似
ながらも優しい眼差しで見送る六助は明らかに人がよすぎる。

偶然助けたお菊の子供を、そうとは知らずに引き取って自分の家
でいっしょに暮らしている時の子守りが可笑しく、また微笑まし
い場面だった。
子役さんたちも回を追うごとにすっかり役を会得し、泣くところ
は本当に悲し気でウルウル。健気で可愛らしい子供たちも座組の
頼もしい一員になっていたと思う。六助に習って、仇討ちで勝っ
たときの見得を予行演習している場面がほんとに可愛い♪

後半になり、京極の正体を知ってからは六助の怒りがバクハツす
るが、しか~し六助がお園の婿として仇討ちに向かう前には嫁と
姑に激励され、再びうれしそうな顔に。
この演目が観終わったあとに気持ちよく帰れるのは、この六助の
笑顔の印象が大。それほどいい表情であった。
この顔が夜の演目ではあんなふうに切り替わるのかと思うと、そ
の起伏の激しさに驚くばかり。が、まずは昼の部の笑顔を堪能~♪

ちなみに、仇討ちに向かう時にお園に着せてもらう裃が独特。
遠くから見ればアニマル柄っぽいが、柄は霰小紋。
イヤホンガイドによれば、六助の実直な性格と、ローカルな味を
出すものという説明だった。

<大詰>
六助との勝負に勝ち、いまや仕官の身となった京極内匠。
いまは微塵弾正と名前を変えていた。
六助に仇討ちを挑まれうろたえる微塵弾正が、自分を京極内匠
であることを認め、ようやく勝負へ。

お墨付きの仇討ちの書状を掲げるお園。
六助との勝負にことのほか簡単にやられる京極。
手を前に突き出し断末魔の姿を見せ、こてんと大の字になり倒
れる。このとき周囲をかためる女子供チームがカッコいいの。
最期は吉岡ファミリー全員でとどめを刺し、めでたしめでたし。
倒れたらすぐに起き上がり(笑)、主要メンバーで切り口上を。
仁左衛門さんの「昼の部はこれぎり~」に拍手拍手。

演劇としても楽しめた、ほんとに面白い通し狂言だった。



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花組ヌーベル「盟三五大切」観劇メモ
文楽「国言詢音頭」(連休中の3本と二人オフ♪の後半に追記)


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