星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?

2007-01-25 | 演劇・ダンス・映画・音楽・古典・TV

ネルソンさん、というのは著者の名前。
人を殺しましたか? と聞かれている本人です。 
いま上演中のNODA MAP「ロープ」の参考文献として、パンフレットや戯曲に掲載
されていたこの本のことがどうも気になって、買いました。
アレン・ネルソン著「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」
副題/ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」(講談社)



著者は元海兵隊の兵士。
アメリカ本土と沖縄(当時アメリカ)で訓練を受け、ベトナムの最前線で戦闘を
体験。その後、地上勤務を経て退役。
ベトナム帰還兵に共通のPTSDに苦しみ、ついにはホームレスとなってしまった彼
が立ち直るきっかけとなったのが、子供たちの前で自らの戦争体験を語ったこと。
そのときに一人の少女がした質問が、そのまま本のタイトルになっています。
それから時を経て、自分には語る義務があると考えるようになり、今でもアメリ
カと日本の各地を回り、自らの戦争体験を語る活動を続けているそうです。

著書には、自分の育った家庭環境から、海兵隊入隊のきっかけ、訓練の実態と意
味、ベトコンとの戦闘、ベトナム戦争の背景にあったアメリカの黒人差別、ベト
ナム人との交流、帰還兵に対する家族の視線・態度、転落生活、そして一人の人
間として再生にいたるまでが、子供にも読めるように語り口調で書かれています。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という少女の質問に答えるとき
の著者の心の葛藤と、それに答えた時の少女の思いがけない反応には、読みなが
ら自然に涙があふれました。
兵士は考えたり、感じたりしてはならない。ベトナム人は人間ではない。
戦場で恐れることなく人を殺せるというのが、海兵隊員になるということ。
そんな訓練を受けた著者が、ベトナム人も人間だと気づくエピソードが強烈。
正義や大義の名のもとに国家が行う「戦争」と、最前線で闘う一兵士の「戦争」
との間には大きな隔たりがあることにあらためて気づかされる本でした。

<「ロープ」との関連で見つけたこと、感じたこと>
観劇後に読むと、舞台とそのままオーバーラップする箇所を幾つか見つけること
ができました。たとえば、その中の一つ・・・

海兵隊の出撃前のミーティングはサッカーの試合前の作戦会議に似ていて、監督
が選手を鼓舞するように、隊長がこんな言葉で隊員を奮い立たせるのだそう。

オレたちは海兵隊だ!!
オレたちは勇士だ!!
オレたちは不死身だ!!
オレたちは歴史に残るんだ!!

(この部分、そのまま引用)

舞台でノブナガとカメレオンが何度も叫ぶあの台詞を思い出させます。

また、一番驚いたのは、舞台で見た赤ん坊が産み落とされるシーン。
ノブナガの台詞で私がとても好きになった「びしょびしょ」という表現とそのエ
ピソードが実はこの本に書かれてありました。本当の話だったんですね・・・。
ベトナム女性の孤独な出産シーンに偶然、戦場の壕の中で遭遇してしまったネル
ソン氏の驚きとまどい、咄嗟に赤ん坊を手にした時の感触。そこから急に「命」
を意識するようになったというくだり。
そして、おそらくその赤ん坊を数十数年後にタマシイの姿で舞台上に蘇らせ、自
分の生まれた村の悲劇を実況させるという野田さんの企みは、やはり見事だった
と思います。

それからもう一つ。
「ロープ」終演後に流れる曲「ALONE AGAIN」は、ベトナム帰還兵の心情に合わ
せて選曲されたものではないかと、この本を読んだ後に思い至りました。
「ギルバート・オサリバン ALONE AGAIN 訳」と入力して検索し、知ることが
できた日本語訳を繰り返し読んでみましたが、そこには具体的な事件や出来事につ
いて何も書かれているわけではありませんでした。
それでも、華々しく戦場に送り出され、祖国と自由のために戦った兵士が、いざ国
に戻ってみれば英雄でも何でもなく、むしろ残虐な人間として疎まれる存在となっ
てしまった、その孤独感に「ALONE AGAIN」がぴったりくるように私には思える
のです。
この本「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」を読んでからは。


ロープ □観劇メモ(1)(このブログ内の関連記事)

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6 コメント

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カキコは、お久しぶりです (midori)
2007-01-26 16:47:00
読んでいて、観たばかりの舞台を思い出し苦しくなりました!
書籍のご紹介、使用曲の内容と、興味深いことばかりです。

野田さんの舞台は、いつも表面に見えること意外にも、何かが
隠されて潜ませてあるのじゃないかと、考えてしまうのです。
それらに一つでも多く気付きたい!と考えてしまいます。

符号のように、散りばめられたアレコレについて、今回も、
私なりにヤッパリ想いを巡らせる舞台でした。

簡易版なんですが、感想をアップしたので、トラバさせていただきます。
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私もそうなんですよ~♪ (ムンパリ)
2007-01-27 01:10:09
midoriさん、コメントありがとうございます。
野田さんの舞台は、いつも観終わった瞬間から別の楽しみが始まるような気がしています。散りばめられたたくさんのかけらを一つずつ拾っては、私も勝手な想像をして楽しんでます。たとえ、間違ったかけらを拾ったとしても(笑)それはそれでいいんじゃないかと。と~っても幸せな時間だと思います~♪ 
リピート観劇できなかったので、いま舞台がどんなふうになってるのかずっと気になってるんですけどねっ。
返信する
TB、コメント有難うございましたm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-05-28 00:17:23
ムンバリさん、いろいろな方のブログのコメントで存じ上げておりました。どうぞ、これからもよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
NODA MAP「ロープ」の参考文献についてのこちらの記事を興味深く拝読しました。
>ベトナム女性の孤独な出産シーンに偶然、戦場の壕の中で遭遇してしまったネルソン氏の驚きとまどい、咄嗟に赤ん坊を手にした時の感触。そこから急に「命」を意識するようになったというくだり。
タマシイが産まれたときに受けとめた米兵の掌のビショビショ感、実話だったんですね!
実はわが娘の出産の時に父親も立ち会ってまして、助産婦さんと一緒に臍の緒を切ってるんです。私には見ることができなかった場面を見ているので娘への愛情も私へのそういう面での尊敬の念も抱いてくれたようです。でも愛情が深くなりすぎて困ったりして(^^ゞ
>他者の痛みが感じられる想像力を持ち合わせたいと思います。
まさにそのことが今一番大切なんだと思います。それが欠如したエリートが政治権力を握った時がおそろしい。いや、もはやそうなっているのではないかという気がしています。
そこから逃げずに見守っていくことがまずは私の課題になっています。
返信する
3レンチャンなのに(笑) (ムンパリ)
2007-05-28 02:20:07
ぴかちゅうさん。
怒濤の3レンチャンのさなかにコメント頂きありがとうございます。
私もこの本を読んで実話だったんだ~とビックリしました。

> 実はわが娘の出産の時に父親も立ち会ってまして
そうなんですか。こういう実体験をお持ちの男性ってけっこういらっしゃるんでしょうか。その体験があれば、命の大切さを一生忘れないはず、戦争も減るはず、と思のですが。おまけに、ご主人に尊敬されたなんて、ぴかちゅうさんがウラヤマシイです。どうやら私が夫に尊敬されていないのは出産経験がないためと思われます(笑)。

> それが欠如したエリートが政治権力を握った時がおそろしい。
野田さんが最近、若い人たちに自分の作品を見てもらいたがっているのは、想像力の欠如した人間になってほしくないからだろうなと思います。日本や世界の将来を託すたちに、まだ間に合ううちに想像力を養って欲しい、そういう言っているような気がします。
もちろん、若くない人も同じですよね(笑)。逃げずに見守ることも大事です。すごく勇気のいることだと思いますが。
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見守り続けること・・・・・・ (ぴかちゅう)
2007-05-31 01:55:51

>夫に尊敬されていないのは出産経験がないため......ムンパリさんにこんなことを書かせるようなコメントを書いてしまって本当に申し訳なく思っています。どうかお赦しくださいm(_ _)m
先に私が書いた「でも愛情が深くなりすぎて困ったりして(^^ゞ」には訳があります。それは子どもに対する父と母の関係になってしまって夫婦でいられなくなったのです。娘が不登校になってそのことをめぐってそれぞれの主張を曲げず、別居して今に至ってます。だから夫婦のお互いを尊敬できるか、それが継続できるかはもっと多面的なんだと思います。言葉が足りずにムンパリさんを傷つけてしまったのではないかと危惧しています。ごめんなさい。これからもお見捨てなきよう、よろしくお願いしますm(_ _)m
夫婦や親子ですら関係性の維持が難しいのだから、人間の集団どうし、民族どうし、国どうしがいい関係性を築いていくことは難しいですね。
子どもの未来、自分の国の未来、必要な関わりをしながらも見守り続けていきたいと思ってます。
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お気になさらずに ♪ (ムンパリ)
2007-05-31 07:39:30
ぴかちゅうさん、ありがとうございます。
そういうことでしたら、全然お気遣いなく。
私のほうも命の大切さのことを言おうとしてヘンな事書いちゃいましたね。ブログ本文にはプライベートなことをほとんど書かないので、コメント欄ではいいかなと思ってますし。ていうか、自分のことをわかって頂きたいな、とも思いましたので(笑)。
ぴかちゅうさんのほうこそ、いろいろお書きくださってありがとうございます。そういうことだったのですね。
愛情がなくても困るけれど、深くなりすぎても・・・。
夫婦や親子という関係は、自分の日常と切り離せないだけにいっそう難しいですよね。
「見守り続ける」って、ときには忍耐と同義語だったりして(笑)。
でも、観劇を通じてこのようなおしゃべりができるんですから、ブログをやっててよかったと思いますよ~。
こちらこそ、これからもどうぞよろしゅうに ♪♪
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