星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

吉例顔見世興行(2)昼の部 全演目

2009-12-27 | 観劇メモ(伝統芸能系)

佐々木高綱(ささきたかつな)

佐々木高綱:梅玉       馬飼子之介:翫雀
佐々木小太郎定重:愛之助   鹿島与一:薪車
高綱娘薄衣:梅枝       高野の僧智山:東蔵
子之介姉おみの:秀太郎


佐々木高綱は合戦での約束を守らない主君源頼朝に対して憤懣やる方ない
思いを抱いていた。そしてもう一つ心にかかるのは、先の挙兵の際に馬欲
しさに馬士を手にかけたこと。それを後悔し今も供養を続けていた。
折しも初上洛する頼朝一行が領地へ近く。進退を決める時とばかり、武士
としての憤りが募る高綱は、悟らずして世を捨てる決心をするのだった。
(歌舞伎美人より)



うーん、新歌舞伎は動きが少なくて相変わらず苦手。
それでも「将軍江戸を去る」以来、南座で覚えた梅玉さんの口跡はちょっと
歌うようなところがクセになりそう♪
この演目は2008年に松竹座で観ている。
そのときと同じく、高綱という人はぼやいてばかりでポジティブシンキング
のできない小さい人物だなあと思うのみ。
頼朝の身代わりを勤めた自分に領地を半分やると言ったくせに、自分へのこ
の冷遇は何事か!恩知らずめ、と意地を張り、頼朝一行の出迎えにも参加し
ようとしない。

そんな叔父の態度を受け止め、なんとか出迎えに加わらせようとするのが
甥の佐々木小太郎と娘の薄衣。
愛之助さんの小太郎、登場した途端はっと目が覚めるような若者だった♪
爽やかさと柔らかさをまとい、端正という言葉そのままのきれいなお顔と姿
にホレボレ~!(はい、舞台写真お買い上げ♪)
叔父が行かない理由を尋ね、なだめ(笑)父親の代わりに説得を試みる様子
がいかにも青年らしくまっすぐで、とても好感が持てる。
梅枝さんの薄衣も清楚で可愛らしく、許嫁の小太郎を頼っている感じがいい。
若い二人が大の大人のワガママに振り回され戸惑っているのが伝わってくる。

翫雀さんの馬飼子之介、若々しくてまめに働く様子が健気な雰囲気。
馬の蹄を丁寧に拭く所作が印象に残っている。
高綱が不本意ながら馬飼子之介の父親を殺めたことを高野の僧に懺悔すると
ころを、木陰で偶然立ち聞きしてしまうシーンに初めて気づいた。
親の仇と知りつつ引き取られたが、高綱の誠実さに触れるうちに許すように
なったことに説得力が加わる場面だ。

あくる日、小太郎が迎えに来ると、高綱が出家するというので皆びっくり。
(小太郎は鎧をつけてキリッとした若武者の出立ちで登場。)
そこへ、敵討ちのチャンス!と馬飼子之介の姉が高綱の前に飛び出すが、
止められて果たせず。これを見て「ここにも悟られぬ人が居るのう」と言い
残して去ってゆく高綱。
「将軍江戸を去る」のラストとよく似た、去る者のあきらめきれぬ哀感が
にじむ梅玉さんの高綱、得もいわれぬ風情があった。
小太郎の顔をチラッと見たら、叔父の出家には納得がいかないという表情に
見えた。


一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)

一條大蔵長成:菊五郎   吉岡鬼次郎:松緑
女房お京:菊之助     勘解由女房鳴瀬:吉弥
八剣勘解由:團蔵     常盤御前:時蔵


平家全盛期の世のこと。公家の一條大蔵卿は能狂言にうつつをぬかし、人々
からは阿呆と噂される人物。その大蔵卿の妻で、かつて源義朝の妻であった
常盤御前の心底を探るため、義朝の旧臣・吉岡鬼次郎は妻のお京を潜入させ、
まんまと奥殿へ忍び込む。そして楊弓に遊びふける常盤御前に詰め寄る。
その真意と、大蔵卿の隠された素顔とは......。
(歌舞伎美人より)



この演目は数年前に上方歌舞伎会で見たけれど、序幕檜垣茶屋の場から見る
のは初めて。ここを受けての大蔵館奥殿の場なので、ようやく筋が通った。

お京がお屋敷で働くようになったいきさつがわかってスッキリ!
鳴瀬の口ききで、狂言師ということで召し抱えられたのだった。
こういう眉を薄くした年増メイクの菊之助さん、政岡を思い出す。
デキル女のイメージが漂う♪
お京の夫役は松緑さん。キリッと男っぽい鬼次郎がよく似合っていた。

菊五郎さんの一條大蔵卿。見た目は阿呆、実は・・・という役どころ。
お京がひと差し舞うのに見とれ、台から落ちてしまうのには笑ってしまった。
(菊ちゃん、たしかにきれいだし~♪)
この作り阿呆ぶり、目に力がなくスキだらけで、花道をとぼとぼ歩く姿は自
信をなくした丸尾坊太夫みたい。

常盤御前役の時蔵さんはやはり存在感がある。
源義朝と平清盛、二人の男性から愛された女性だけあってきれい。納得♪
お京の手引きで大蔵卿の屋敷にしのび込んだ鬼次郎。
毎夜揚弓遊びに夢中になり、源氏の事を忘れてしまった常磐御前を打ちすえ
る場面・・・ここは泣く泣く打つわけだからもう少しきびしさがあってもい
いのでは?と思った。
そんな元家臣をほめる常磐御前。ただ憎かったわけではなく、源氏への忠義
から自分を打った鬼次郎の気持ちがわかり、衝撃の告白!
弓が刺さった部分の布をとったら、なんと清盛の絵が~。

一部始終を見て、平家に注進に向かおうとする勘解由。
團蔵さん、いかにも、な悪い顔つき(笑)。
そんな悪臣を斬りつけたのは大蔵卿。衣装の早替えがありハデな見せ場だ。
もう誰が平家か源氏か、誰が敵か味方か・・・な状況がここから明らかに。
夫を恥じて自分も自害する吉弥さんの鳴瀬が天晴! もしかして一番かっこ
いい役どころかも。

ウツケと見せていたのは保身のため。源平のイザコザに巻き込まれないため
という大蔵卿は、元々は源氏の家系。
私はね、菊五郎さんには『伽蘿先代萩』の勝元のような毅然としたカッコよ
さで現れてほしかったので、ちょっとイメージが違っていたかなあ~。
ま、この演目は楽しく終わってヨシ、ということで。



お祭り(おまつり)
鳶頭松吉:仁左衛門

山王祭を終えた鳶頭の松吉が、ほろ酔い気分で賑やかに踊る舞踊劇。
(歌舞伎美人より)



仁左衛門さんの松吉は今年のお正月に見たばかり。
でも、今回は芸者さんの助っ人がいなくてお一人だけの舞台。
色っぽさ、素敵さはいうまでもなく、始終ニコニコしていられる楽しい時間
だった。



恋飛脚大和往来
玩辞楼十二曲の内 封印切(ふういんきり)
新町井筒屋の場


亀屋忠兵衛:藤十郎     傾城梅川:秀太郎
槌屋治右衛門:左團次    井筒屋おえん:玉三郎
丹波屋八右衛門:仁左衛門


大坂新町の井筒屋。忠兵衛は井筒屋抱えの遊女・梅川と深い仲で、身請けの
前金を払いますが後金の工面ができず足が遠のいていた。そこへ友人の八右
衛門が梅川を身請けする話を聞きつけ気が気でなく、使いの途中で井筒屋に
立ち寄る。やがて、階下から聞こえてきたのは、八右衛門と主人の声。身請
けを断る主人の話に、その理由は忠兵衛であると察した八右衛門が、腹いせ
に忠兵衛を罵しりだす。こらえきれず駆けつけた忠兵衛が応じ、ついには取
り返しのつかない挑発にのってしまうのだった。
(歌舞伎美人より)



上方の熟成した芸がぎゅぎゅっとつまった見せ場だらけの舞台。
成駒屋型とか松嶋屋型とか、もうそんなことはどうでもいい気がした。
型に忠実というようなものではなく、いかにも今そのことがそこで起きて、
事態が、台詞が、ちょっ変わればどうころぶかわからないというようなハラ
ハラ感を内に秘めたお芝居だったから。

仁左衛門さんの八右衛門は2回目。
夏に藤十郎さんと愛之助さんの掛け合いで見られたテンポの早い勢いのいい
はっつぁんとはまた違う、同じ台詞でもネチネチネチネチネチネチネチネチ
・・・の長台詞が聞きどころ(笑)。
藤十郎さんも、そこはまかせた、みたいな感じだった。
逆に、封印が偶然切れて、上方ふうの見得を見せるところとか、お金がジャ
ラジャラ落ちてゆくところは藤十郎さんの世界。
安心してそれぞれを堪能することができた。

秀太郎さんの梅川のまた可愛らしいこと!
じゃらじゃらの場面も無理のない可愛らしさで、忠さんにいっしょに死んで
くれと言われて嬉しいと答える場面は涙が出た。

左團次さんの治右衛門は陰でおえんさんを支え、また梅川と忠兵衛の味方と
なる頼もしさがにじみ出て、ええ男や~♪

玉三郎さんのおえんさんを見るのは初めて。
梅川と忠兵衛に贔屓をする様子があからさまなのが面白く、はっつぁんに敵
対する場面ではしっかり笑わせて頂いた。
最後に忠兵衛を見送る花道。
夏に見た秀太郎さんのおえんは無邪気に最後まで笑って見送るのだけれど、
玉三郎さんのおえんは心配顔で、もしかしたら二人に起きた出来事に気づい
ているのではと思わせる。
いや、秀太郎さんのおえんは・・・気づいても気づかぬ、本当の意味での
玄人さんなのかもしれないけれど。

そんな封印切、本日の午後、TV放送あり!

<追記>
昼の部の休憩時間にcocoさんに偶然お会いできた♪
去年の片岡仁左衛門親子三代特別公演以来、お久しぶりだったのでとって
もうれしかったです~。
舞台写真の前で仁左衛門さんのお話はもちろん、梅玉さんのこと、それか
らと~っても可愛い梅丸くんのことをいろいろお聞きし、夜の部がますま
す楽しみになったのでした。

<12/28追記>
イヤホンガイドの浅草歌舞伎おっかけ日記で愛之助さんのインタビューが
聞けますよ~♪
こちら
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2 コメント

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美しい若侍でした (とみ(風知草))
2009-12-31 13:28:30
>ムンパリさま
短いお芝居ながら水干姿と武者姿が見られてよかったです。お声も若々しくよかったです。これだけの面々が揃う割にこの演目…という気がしました。12月の国立、新歌舞伎の傑作揃いでしたから行きたかったです。
夜の部は、書くこと多いですね。
返信する
とみさま♪ (ムンパリ)
2010-01-01 01:50:01
さよなら歌舞伎座の真っ最中なのによくこの顔合わせが
実現したと思います。さすが暮れの南座!
玉様の揚巻、菊之助さんの白玉は本当にきれいでした。
夜の部の感想はけっきょく書けませんでしたが、本当に
すばらしかったですね♪
2月も予定に入ってますし、今年も「座」のつく劇場でいろいろ
ごいっしょできたら嬉しいです!

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