星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

新春浅草歌舞伎 第2部「与話情浮名横櫛」観劇メモ

2008-01-20 | 観劇メモ(伝統芸能系)

公演名    新春浅草歌舞伎 第2部
劇場     浅草公会堂
観劇日    2008年1月12日(土)1階い列・13日(日)3階ふ列


「与話情浮名横櫛」
与三郎:片岡愛之助  お富:中村七之助  蝙蝠安:中村亀鶴
鳶頭金五郎:中村獅童  和泉屋多左衛門:市川男女蔵
お針女お岸:中村小山三  番頭 藤八:片岡松之助  下女およし:中村京蔵


裕福な商家の若旦那・与三郎は、木更津でお富を見染める。そして三年後、
切られ与三と呼ばれる小悪党になった与三郎はお富と偶然にも再会を果たし…。


街と一体となった浅草歌舞伎の興行はとてもあったかい感じがした。
上演順に書くべきだろうけど少しでも早くアップしたかったのでこの演目から。
手元の解説本にはこう書いてある。
「木更津海岸で見初め合う情景は、文字通りの美男と美女でないと興趣が盛り
上がらない。」ほほう~。そうなんだ。
愛之助さんと七之助さん、こんなにお似合いとは観るまでわからなかった。
この公演だけではもったいない。お二人には経験を積んで頂き、もう一度この
コンビでぜひ与三郎とお富をやってほしいと思う。
それにしても、切られ与三♪ 花道にほっかむりした与三郎が現れた時からド
キドキ。手ぬぐいをとってあの名台詞を吐いた途端、もう観念した。
チクショー、持ってけドロボー。(このハートをでいっ♪♪♪)

木更津海岸見染の場
木更津の浜ではいい女の噂話。そこへ噂の女性、赤間源左衛門の妾のお富が、
赤間の子分たちを引き連れて花道をやってくる。
うわあ~、大人の女だあ。あの七之助さんが、すっかり大人の色気を漂わせて
いる。その声、雰囲気・・・一瞬、玉三郎さんかと思った。
(だって、直伝だものね。)
ややあって、花道から登場する与三郎。ひゃあ、男前っ♪
鳶頭が呼び止めるので振り返る。「やあ、金五郎じゃあないか」。その身振り、
手振り、話し振りに金持ちの若旦那らしい物腰の柔らかさが。仁左衛門さん譲
りの上方の和事を思わせる所作が愛之助さんには似合っている。
茶店で手紙を読んだ後、金五郎と連れ立って歩くのは海岸、ならぬ客席通路。
あっちこっちで歓声や笑いが起きる楽しい時間だ。12日は林家正蔵さんが偶然
見えていて二人が声をかけていた。
花道に戻ったところで、与三郎が酔っぱらいにぶつかりからまれる。
(仁左衛門さんの舞台映像もそうだったが、どうやらここでぶつかった時に羽
織がずれたというのが後への伏線になっているようだ。)
与三郎をかばい矛先をかわす金五郎の卒のなさ。獅童さんの江戸弁が心地よい。
その金五郎に隠れ小さくなっている与三郎、まるで甘えん坊の子供のよう。
与三郎を見て酔っぱらいが言う。
「いい男だねえー。誰かに似てる。いま役者で人気の、六代目片岡愛之助!
松嶋屋ーっ!!」この台詞、わかっていてもなぜか盛り上がる(笑)。
さ、いよいよだよ。
お富が上手から。与三郎が下手から。ぶつかりそうになって、ゴメンナサイ。
目と目が合って、ビリビリ!! こんどは偶然手と手が触れて、バクバク!!
手を引っ張られて帰ってゆくお富が振り返る視線の先には与三郎。
「ひときわ目立つ物腰は」(お富)
「そんならあれが」(与三郎)
「噂に聞いた、いい・・・景色だねえ~」(お富)。
(いい間、いい台詞。いい女。そんなお富に客席から拍手。)
お富を見つめたまま放心状態の与三郎の肩から、羽織が滑り落ちる。はらり。
(客席からは笑いが。)側で見ていた金五郎がホラホラ、と羽織を拾って掛け
ようとするのを「知ってるよっ!」と自分で着直すが、羽織は裏返ったまま。
そこには松葉と銀杏の葉が描かれている♪
いつまでもお富を見ている与三郎をいつまでも見ていたい・・・一場だった。

源氏店の場
赤間別荘の場が省かれているので、話はいきなり3年後。
3年前に話を戻すと・・・二人の仲が源左衛門にバレて、与三郎は体に三十四
カ所の刀傷をつけられ、顔にも三筋の傷。一方、お富は追っ手から逃れるため
に海に飛び込んだのだった。その海で和泉屋の大旦那、多左衛門に命を助けら
れ、いまは囲われ者となっているお富。
下女といっしょに湯屋から戻ってきたお富。髪には横櫛、口には赤い糠袋の紐
を銜えている。軒先で雨宿りをしている和泉屋の手代の藤八を中へと案内し、
うまくあしらう様子はさすが。話し相手をしながら湯上がりの髪をとかし、白
粉をつけ、眉、目、口と手慣れた順序で化粧をほどこす所作が美しく、見てい
て気持ちいい。

そんな時、金をゆすりにやってきた蝙蝠の安。今日は仲間を連れている。
蝙蝠の安を演じる亀鶴さんの卑屈な極道ぶり。凄く面白かった。頬には蝙蝠の
刺青。独特の頭髪に女物の着物をだらしなく着て、ゆする相手に下手に出たり、
声を荒げたり。多左衛門を見ると、急に消え入るように隠れる始末。
多左衛門に見つかりお尻から出てきて、小股で歩くとこ、可笑しかった~。
与三郎をなだめる時の「なま言うねえ、なま言うねえ!」もよかったしね!

一方、初めは外にいる与三郎、地面に足で何か(何?)をして遊んでいる。中
に入ってからも、安のゆすりを背を向けたまま胡座をかき黙って聞いている。
途中チラリと見て相手がお富だと気づき、ビックリ。すぐさま屋敷内を見回し
て、お富の豪勢な暮らしをあらためて見直している様子だった。
そしてついにその時が!
安に替わって自分が掛け合うと言い出す与三郎。
立ち上がって懐手のまま、神妙に一歩ずつ、お富に近づく。
「御新造さんぇ、おかみさんぇ、お富さん、いやさ、お富!久しぶりだぁなあ」
「そういうお前は?」
「与三郎だ」ほっかむりを取りながら「おぬしゃ俺を見忘れた~か~」
(キャー、あの超有名台詞を愛之助さんが言ってるー♪♪♪)
ここで胡座をかき、腕組みをしたまま見得。(ひゃあ、すてきぃ!!)
その言葉に、腰が抜けたようになるお富。
「しがねえ恋の情けが仇・・・・・・切られ与三と異名をとり・・・・・・
お釈迦~さまでも気がつくめえ~」。名台詞が決まり、拍手拍手。
お富に悪態をつく冷たい素振りにもゾクゾク。
イヤホンガイドで「私にとっては英語も同じ」と愛之助さんが言っていた江戸
弁の出来だが、関西弁スピーカーの私にはよくわからない。ただ、台詞の流れ
のよさ、緩急つけた言い回しの小気味よさ。かなりイケていたのではと思う。
贔屓目と言われればその通りです♪
自分は死にかけたのにも拘らず、囲われ者になっているお富を責める与三郎。
多左衛門は指一本触れていないとお富が言っても信じようとしない。

そこへ多左衛門がやってきて、与三郎に金を渡し堅気に戻るよう促す。安が
与三郎をなだめて二人は帰る。
(ここで与三郎、着物の裾を手でパーッと持ち上げ景気よくおみあしを見せ
るので、わわわ、どこを見ればいいの♪♪♪状態)。
多左衛門が店に戻ることになりお富に守り袋を渡し、それを見て自分の実の
兄だと知るお富。それには答えず「火の用心をするんだよ」と去ってゆく兄。
慌てず騒がず、落ち着いていて大きな男っぷりの多左衛門を、男女蔵さんが
いい感じで演じていた。仁左衛門さんと玉三郎さんが与三郎とお富、勘三郎
さんが安の舞台で、左団次さんが多左衛門役なんだよね。こんなふうに役が
引き継がれていくんだなあと、感慨深い今公演。
与三郎が戻ってきて、お富の疑いが晴れ、死ぬまで放さないと抱き合う二人。
あっけないほどめでたい幕切れなのだった(笑)。


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♪死んだはずだよお富さん~♪ (かしまし娘)
2008-01-22 13:35:02
ムンパリ様、まいど!
いや~ドキドキして観てましたが、
出きた時から坊で、パ~っと劇場が華やいだ感じしました。
私の心も晴れました(笑)

お富の家の前で、
足元の石を、ツンツンと蹴飛ばして遊んでみたり、
顔に当たった柳を振り払ったり…。
あそこの仁左衛門が、好きなんですが、
愛ちゃんも、石ころをコロリン。してましたね。ウフ♪

江戸弁が…と気にするなんてこと全然ありませんでしたね。
初役のフレッシュさを楽しみました。
七之助とのカップリングもステキだったし。目からウロコがボトっ。
返信する
♪生きていたとはお釈迦様でも~♪ (ムンパリ)
2008-01-22 19:16:18
かしまし娘さん、年齢バレネタには反応しない主義ですが、その歌、祖父が歌ってまして(ほほう)。下に私の空耳を書いてみます。

やっぱり♪ よかったですよねー、愛ちゃん。花があって。引きつけられました。歌舞伎座でも見たい~。七之助くんも年増女の色気がありました。このコンビでもまた組んでほしいです。

> 愛ちゃんも、石ころをコロリン。してましたね。ウフ♪
あれ、石ころだったんだー。足で何をしてるんだろうとじっと眺めてました。そういうの、皆さん意外にちゃんと見てるんですね(笑)。

<春日八郎の歌「お富さん」空耳編>
粋な黒塀見越しの松に
(粋なクロベエ、神輿のマークだと思ってた。)
仇な姿の洗い髪
(アダナ姿の意味が?だったけど、あだっぽい=色っぽいの意味だったんですねえ。)
死んだ筈だよお富さん
生きていたとはお釈迦さまでも
知らぬ仏のお富さん
エーサォー玄冶店
(げんやだな、をエンヤラヤだと思ってました。)
返信する
すっかり観てきた気分♪ (しろう)
2008-01-23 00:32:43
すごく楽しく読ませていただきました♪
観たことがないわたしにも、舞台の様子がはっきり
観えてくるようでした。
ムンパリさんの描写、スゴイ!!
やっぱり愛の為せるワザですね~~♪
さて、これも面白いお話なんですね~。
粋でかっこかわいい(笑)愛之助さん、観てみたいなあ
・・と思っていたら、
今日お昼に仁左衛門さんバージョンの放送がある!!
わ~♪あまりのタイミングの良さにびっくり。
仁左衛門さん大好きなので観てみますね。
(廓文章と女殺油地獄、今月観たの♪♪)
ムンパリさんレポがイヤホンガイドがわりです(笑)

あぁ新春浅草歌舞伎、いいですね~!
以上、よそ見全開でした(笑)
返信する
楽しかったですよ~♪ (ムンパリ)
2008-01-23 00:47:38
しろうさん、仁左衛門さんバージョンもう見られました? 愛之助さんはそれを習って今回の舞台に立ってるんです♪ 二度目見るときは脳内変換してみてください(笑)。なんつって。
よかったら、今月30日に1回だけ放送が残っている十一世團十郎の「与話情浮名横櫛~見染・源氏店」も見てみてください。これもまた唸ってしまいます(笑)。勘三郎さんの二代に渡っての蝙蝠安も感慨深いものがありますよ。
こうしてだんだんハマってゆくのね、しろうさんも。うふふ。
返信する
エンヤラヤ~♪ (かしまし娘)
2008-01-23 11:43:12
ムンパリ様、まいど!
>エーサォー玄冶店
>(げんやだな、をエンヤラヤだと思ってました。)
グハハハ。
私も「ゲンヤダナ」だと知ったのは、歌舞伎でこの演目に出会ってからです。
歌舞伎と出会って、春日八郎に親近感を持ったのは私だけ?(笑)

歌舞伎chでOAの2本。
録画してますよ~。古いのと新しいのと一挙にやってくれるなんて。感涙~。
返信する
春日八郎♪ (ムンパリ)
2008-01-23 12:57:45
かしまし娘さん、あはは。「ゲンヤダナ」なんて難問クイズですよね。
空耳、得意なんです、私(笑)。

> 歌舞伎と出会って、春日八郎に親近感を
> 持ったのは私だけ?(笑)
いいえ! 私もこの演目を見て、春日八郎が急に身近なおじさんに思えてきました♪ 歌舞伎が歌になったものって他にもないんでしょうかね?

今回の2本立て。ナイスでした。歌舞伎チャンネルも浅草を意識してたんですかねえ~。素晴しい!!
返信する
見ましたっ! (しろう)
2008-01-25 00:32:42
またお邪魔します(笑)
さっそく見ましたよ~仁左衛門さんバージョン。
ホント!すっごく楽しかったです!
お決まりの見得やら名台詞やら笑いどころ、
次々とキマって、気もちいいーーー♪♪
「待ってましたっ」とか「よっ、松島屋!」なんて
大向こうの掛け声がまた気もちいいーーー♪♪
仁左衛門さんと玉三郎さんがとっても綺麗だし、
勘三郎さん(このときは勘九郎)もいいね!

たしかに愛之助さんもステキだろうなあと思いましたよ!
観たいなあ~~。
歌舞伎チャンネルさんは映像にしていないのかなあ?

30日の情報、ありがとうございます。
ぜひ観てみますね。
返信する
ねっ、ねっ!(笑) (ムンパリ)
2008-01-25 01:49:13
しろうさん、そうでしょ、そうでしょ。お二人、きれいでしょう。
こういうのを見ると、歌舞伎って楽しいなあ、いいなあって思いますよね。
仁左衛門さんから愛之助さんに、玉三郎さんから七之助さんに、左団次さんから息子である男女蔵さんに、芸や型が引き継がれている舞台、それが今回の浅草版です。
私も愛之助さんたちの舞台映像は見たいんですけど、新春浅草歌舞伎は撮ってないと思います。若手の舞台は映像ではあまり見られないので、ナマで見るしかないんですよね。
30日のもどうぞお楽しみに!
返信する
ようやく面白いと思えました! (ぴかちゅう)
2008-01-26 01:42:52
私も春日八郎のお富さんを何度も聞いているクチなので、仁左玉だし楽しみ~と初回を観たのにリピートしたいと思うほど面白いと思えなかったんです。2回目の海老蔵×菊之助でも同様でした。
ところが今回の愛之助×七之助で、3回目にしてようやくこの芝居の面白さがわかりました。
最後にひしと抱き合うふたりの可愛さは今回のコンビが一番でした。そこでハタとそうかぁと目から鱗が落ちました。特に愛之助の可愛さはあの笑顔ですねぇ。紆余曲折はあったけれど両思いの二人に祝福ムード全開に素直になれました。えっ?これまで素直に見ることができていなかっただけかも~(^^ゞ
TBもさせていただきました(^O^)/



返信する
かる~い気持ちで。 (ムンパリ)
2008-01-26 09:10:35
ぴかちゅうさんが歌われるお富さんの歌詞、きっと正しかったのでしょうね!
イヤホンガイドで、これはストーリーはともかく役者を楽しむ演目だと解説してたので、軽い気持ちで見たら面白かったです。最後はハートウォーミングなラブコメディになってますよね。
その中にも粋さ、艶っぽさをきちんと匂い立たせていた愛之助さんと七之助さん、師匠の教えを守ってがんばってるなと思いました。この二人でまた見たいです。
愛之助さん、ここでは可愛いのに昼の部はオッサン役です!(笑)それもまた楽し、ですが。
あ、TBがなぜか入っていませんでした。お手数ですが再度お願いできますでしょうか。よろしくです~♪
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