映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

『道』PART2 ~「La Strada」イタリア映画の最高傑作!フェリーニとニーノ・ロータの映像と音楽の怪演 キング オブ ムービー!~

2024-01-02 18:50:48 | 日記

 

07.孤独

 

 

ある村の結婚式に余興として呼ばれた二人。

 


ジェルソミーナ:「では始めます!」


 

ザンパノが小太鼓でリズムを取り、ジェルソミーナが陽気にパントマイムをします。

ニーノ・ロータの明るい音楽が宴会をいっそう華やかにします。

未亡人がザンパノを呼んで食事に誘います。

 


未亡人:「食べないかい?」

ザンパノ:「ありがとう」


 

ここでも子供たちに大人気のジェルソミーナ。

 


ジェルソミーナ:「食事よ」


 

子供たちは建物の一室にジェルソミーナを連れて行きました。

そこには病気で寝込んでいる男の子がいました。

 


女の子:

「私のいとこなの。病気なの。笑わせてあげてよ」

「他の人ではダメなの。お願い」

ジェルソミーナ:「どうするの?」

女の子:「踊るのよ。踊るのよ」


 

ジェルソミーナは男の子のために踊り始めます。

 


ジェルソミーナ:「小鳥よ、小鳥よ」


 

ジェルソミーナはグルグルグルグルと回ります。

そばの子供たちも同時に回り始めます。

家の人が来て、ジェルソミーナと子供たちを追い出しました。

このシーンでは、フェリーニ監督は病気で暗い部屋に隔離されている男の子を見せることで、ジェルソミーナもまた孤独な存在なのだということを示しました。

未亡人とザンパノは二人だけで食事をしていました。

汗だくの未亡人。

 


ザンパノ:「立ったまま食うのか?」

未亡人:

「そうなのよ」

「ずっとこうなの」

「2度亭主に死なれたのよ」

「丸3日、朝の1時起きよ」

「疲れたと思う?」

「一晩中でも踊れるわ」

「若い娘に負けないよ」


 

ザンパノを誘っています。

 


ザンパノ:「再婚は?」

未亡人:

「なに?再婚だって?」

「いなくても平気よ」

ザンパノ:「亭主には他の役もある。そうだろ?」


 

夜の相手は必要ないのかという意味ですね。

 


未亡人:「なぜ?私は老女かい?」


 

未亡人は子供に向かって、

 


未亡人:

「何してるの、早くお行き!」

「最初の亭主はあんたみたい」

「服が残ってるけど、誰にも合わないの」


 

ジェルソミーナがやってきます。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノ!ザンパノ・・・上に・・・」

未亡人:「あんたにもあげる」


 

未亡人はジェルソミーナの食事を取りに行きました。

ジェルソミーナは小声でザンパノに言います。

 


ジェルソミーナ:「変な頭をした男の子が上にいるのよ」


 

未亡人が戻ってきました。

 


未亡人:「さあ、食べなさい」

ザンパノ:「聞けよ、その服は誰も着ないのかい」

未亡人:「大きすぎるのよ。あんたなら合うわ」

ザンパノ:「帽子はあるかい。実は帽子がほしいんだよ」

未亡人:「来なさい、見せたげる」


 

ザンパノはジェルソミーナに向かって、服をもらえてラッキーだというジェスチャーをして、二人は部屋に入っていきました。

ジェルソミーナはザンパノに同調して喜びますが、二人だけになった事を不安に思います。

このジェルソミーナのピエロに扮した不安な表情がとても怖いんです。

夕方になり、一段落したようにタバコで一服をするザンパノを、悲しげな顔でジェルソミーナは見つめます。

ジェルソミーナはメロディを口ずさみます。

 


ジェルソミーナ:

「♪ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♪」

「覚えてる?雨の日に聞いた歌よ」

「なぜトランペットを教えないの?教えてちょうだい」

「ローザに教えたのに、なぜ私はダメ?」


 

ザンパノは、未亡人にもらった服を着て自慢気に言います。

 


ザンパノ:「どうだ?」


 

ジェルソミーナは泣き出してしまいました。

 


ザンパノ:

「ここは禁煙だ」

「どうしたんだ? なぜ泣くんだ」

ジェルソミーナ:

「私にも分からない」

「帰るわ、故郷へ。嫌になったわ」

「仕事じゃない、仕事はいいのよ。芸人は楽しいから」

「あんたって人が嫌いなの」

ザンパノ:「何だと?」

ジェルソミーナ:「帰るわ。故郷の家へ」

ザンパノ:「バカを言うな」

ジェルソミーナ:

「靴は置いていくわ。オーバーも。何もかも。」

「私はもう我慢できなくなった。だから帰るわ」


 

 

 

08.放浪

 

 

ジェルソミーナは一晩中、彷徨い歩きます。

朝になり、昼になり、道の向こうから3人の鼓笛隊が歩いてきます。

ジェルソミーナの表情も心も明るくなります。

そしてジェルソミーナはミサの行列を見物します。

先程の鼓笛隊の明るい音楽とは全く対象的に、人間の業を表現したかのような渦巻いた低音の音楽が流れます。

それは神からの天罰が今にも下りて来そうな恐ろしさを持った曲です。

イエス・キリストの磔の作り物、宗教画の行列が通り過ぎます。

坂道を降りてくるキリスト像を先頭に、オリーブの枝や長い燭台とロウソクを持った子供の行列があとに続きます。

イエスが天使を従えて、この世に現れたかのようです。

周りの見物人はひれ伏して十字を切ります。

ジェルソミーナも敬虔な表情でじっと見つめていました。

豚の丸焼きが露天に吊るされています。

押し寄せる群衆に圧倒されるジェルソミーナ。

何とも象徴的なシーンです。

 

マーガレット

 

 

 

09.綱渡り

 

 

夜になり、一人の芸人が建物と建物に繋がれた一本のロープで綱渡りをしています。

 


ショーの司会者:

「今から最も危ない芸当をご覧に入れます」

「ロープの上でスパゲッティを食べます」

「どうぞ、お静かに」

「一つ間違うと命にかかわります」

「では皆様、全世界に2つとない芸当をご覧ください!」

「ねえ、イルマット、調子はどう? 気分は?」

綱渡り芸人:

「ここは涼しいよ」

「おかげで腹が減って食欲が出てきたよ」

「おっと、危ない風だ」

「ナプキンが飛んだ」

ショーの司会者:

「どうしたの?」

「私たちを誘わずに一人で食事をする気?」

綱渡り芸人:

「ちょうど席が空いてるよ」

「どなたか一緒にいかがですか?」


 

綱渡り芸人はロープから落ちるふりをして、テーブルと椅子を落として、持っている長い棒で巧みにバランスを取ってロープの周りをグルグルグルグル回り始めました。

そしてその天使の翼をつけた綱渡り芸人はロープの上で逆立ちをしました。

観客もジェルソミーナも大喝采です。

ショーが終わり、観客に囲まれながら車に乗ってその場をあとにしようとしました。

数秒の間、ジェルソミーナは綱渡り芸人と目が合います。

お互いに神聖なものを感じ取ったシーンですね。

この家出とも言える旅を通じて、ジェルソミーナの神聖さが段々と覚醒していくのです。

あれだけいた群衆も去り、一人広場に取り残されたジェルソミーナ。

教会の鐘が鳴り響き、ジェルソミーナは淋しさのあまり泣き出してしまいます。

淋しさのどん底の時に、ザンパノのオート三輪の騒音が聞こえてきます。

 


ザンパノ:「乗れ!」

ジェルソミーナ:

「行きたくないわ!」

「いやだ、私は行きたくない。いやだ、いやだ」

ザンパノ:「乗るんだ」

ジェルソミーナ:「いやよ、行かない!」

ザンパノ:「来い。静かにしろ」


 

ザンパノはジェルソミーナを隅に追い詰めて、ひどく殴り、無理やり車に乗せます。

 

 

10.ザンパノとイルマット

 

 

あくる日の朝、目を覚まし荷台から出るとそこはサーカス団の宿舎でした。

どこからか美しい曲が流れてきました。

ジェルソミーナはその美しい音色に誘われるように部屋を覗きます。

そこではあの綱渡り芸人がバイオリンを弾いていました。

近くの婦人に聞きます。

 


ジェルソミーナ:「ここはどこ?」

婦人:「ローマよ。あれが聖パオロ大聖堂よ」

ジェルソミーナ:「サーカスと一緒?」


 

ザンパノと綱渡り芸人が顔を合わせます。

二人は昔からの知り合いでした。

 


イルマット:

「やあ、誰かと思ったら "ペッポウ" か」

「これはいいぞ、動物が要るからな」

「冗談だよ、分かるだろ」

「タバコは?あるのか?」

「彼は芸術家と言うべきだ。異色番組だぞ」

「何をやるんだ?」

「鎖を切る芸はどうした?」

ザンパノ:

「友達として忠告する。口をきくな」

「余計な口をきくと後悔するぞ」

イルマット:「冗談を言っただけなのに」

ザンパノ:「忘れるなよ」


 

ショーが始まり、イルマットは見事な空中芸を見せて観客の拍手をもらいます。

イルマットはザンパノを小馬鹿にしたようにささやきます。

 


イルマット:「がんばれよ」

ザンパノ:「嫌なヤツだ」

司会:

「ジラッファ・サーカスの新アトラクション!」

「ザンパノ!鋼鉄の肺を持った男の登場です!」

ザンパノ:

「皆さん!これは太さ5ミリの鉄の鎖です」

「鋼鉄より強い粗鉄製です」


 

イルマットがそっと近寄り、観客席の一番前で見物します。

 


ザンパノ:

「これを胸にまいて、このフックで両端をつなぎます」

「そして胸の筋肉を拡張するだけで、つまり胸のチカラでフックを壊します」

「フックに仕掛けがと疑う方は確かめて下さい」

「ジェルソミーナさん」

「これは痛さを消すためのものではありません」


 

イルマットが騒ぎ立てて茶化します。

 


イルマット:「凄いぞ、いいぞ、いいぞ」

ザンパノ:「フックが肉に食い込んで、血が出ることがあるので.....」


 

イルマットはザンパノの口上の邪魔をして、鎖を引きちぎる動作をします。

 


イルマット:「イー、イー、イー」

ザンパノ:

「雄牛2頭分の力は必要としない」

「大学の先生でなくても、少し頭がよければ分かることだ」

「必要なことは3つある。健康な肺。鉄の肋骨。それに超人的な力です」

「気の弱い人は見ない方がいいと申し上げる」

「太鼓が3回鳴りましたら、ジェルソミーナさん、どうぞ」


 

ザンパノが両腕を上げて、深く息を吸い込み、肺と胸を膨らませ力を入れたその時、

 


イルマット:「ザンパノ!電話だよ」


 

観客は大笑いです。

ザンパノはショーが終わっても、怒りを抑えきれません。

 


 

ザンパノ:

「殺してやる」

「出て来い、このバカ野郎め!」

「二度と笑えなくしてやる!」

 


 

何とかイルマットは逃げることができ、喧嘩は終わりました。

あくる朝、ジェルソミーナはイルマットにバイオリンを教えて貰います。

 


イルマット:「さあ、吹くんだ」


 

ジェルソミーナは息を大きく吸い込み、トランペットに一気に息を吹き込みました。

 


イルマット:

「ああ、上出来だ。お前は筋がいい」

「いいかね、おれはバイオリンだ」

「これを聞いたら、こっそりとおれの後ろへ来てラッパを吹く」

「今やったようにな。ではやろう」

ジェルソミーナ:「だめだわ」

イルマット:「なぜ?」

ジェルソミーナ:「ザンパノが怒る」

イルマット:「聞いたか?全部俺のせいだ。」

サーカス団長:「ザンパノは?呼んでこい。わしが話す」

ジェルソミーナ:「町へ行ったわ」

サーカス団長:

「よし、あとで話す。怖がることはない。家族なんだ」

「一緒に働いてる。芸は身のためだ」

イルマット:

「覚えたか?おれがこうしたら、分かったな」

「やってみよう。うまくやれよ」

「見物の皆さん、ただ今からいとも悲しい曲をかなでます」


 

イルマットが最初にバイオリンを弾きます。

そのあと、ジェルソミーナがトランペットを大きく吹きました。

 


イルマット:

「いいぞ、すばらしいぞ。実に見事だ!」

「ザンパノと一緒でも大したもんだな」

「おれの曲が終わる前に、後ろへ来て吹くんだ」

「さあ、もう一度だ。はじめよう」


 

ジェルソミーナはもう一度吹きました。

 


イルマット:

「どうだ、いいぞ」

「ジェルソミーナ、3回やろう」

「場内を一回りするから、おれの後ろで吹け」

「分かったな」

「さあ、ここを指で押して、この指はここだ」

「それで吹くんだ」

「やってみろ」


 

ジェルソミーナは2つの音階で吹くことができました。

 


イルマット:

「うまいぞ!」

「では、ついて来い。1・・・2・・・」


 

二人は行進します。

そこにザンパノが戻ってきます。

トランペットを取り上げ、ジェルソミーナを止めさせます。

 


ザンパノ:「何事だ」

サーカス団長:「わしがやらせてる」

ザンパノ:

「おれの相棒だ。こいつの仕事はおれが決める!」

「あんなバカ野郎とは仕事させん!」

「いやなんだ、不愉快だからだ!」

「二度としてみろ・・・」


 

イルマットはバケツの水をザンパノの頭にかけました。

 


サーカス団長:

「ザンパノ、やめろ」

「ゴルフレッド、止めろ!殺されるぞ!」

「二人を押さえろ、パオロ!」


 

周りの男たちがザンパノを止めに入ります。

 


サーカス団長:

「いったい何という奴らだ」

「ザンパノ、来い。ナイフを持ってる」

イルマット:「気をつけろ、ナイフだ」

ザンパノ:「来てみろ 殺してやるぞ!」


 

イルマットは奥の部屋に鍵を閉めて閉じこもりました。

 


ザンパノ:「ドアを開けて出てこい、腰抜け!」

警官:「ナイフを捨てろ!」


 

ザンパノとイルマットは警察に連行されて、サーカス団は立ち退き命令が下ります。

 


女の団員:

「どうするの?」

「私たちといればいつか彼が来るわ」

「彼なんか忘れなさいよ」

「いないほうがいいのよ」

「一人でどうするの?」

「ここにいれば食べさせてあげる」

ジェルソミーナ:

「車は?」

「警察に渡せばいいのよ」

「いっしょにおいでよ」

「寝る場所は?」

「私の車に二人分の場所がある」

サーカス団長:

「働け、モラ。全部片付けるんだ」

「4時にトラックが来る」

「お前は好きなようにしろ!」

「一緒に来るか奴を待つかだ」

「奴とはこれきりだ」

「あの間抜けもな」

「もうゴメンだ」


オステオスペルマム

 

 

 

11.役立たず

 

 

ジェルソミーナはずっとサーカスの跡地にいました。

オート三輪の荷台で寝ていました。

どこからか口笛が聞こえてきて、懐中電灯の暖かな光がジェルソミーナを照らします。

夜にイルマットが先に釈放されて帰ってきました。

 


イルマット:

「眠ってたのか?」

「何てケモノ臭いんだい。よく平気だな」

「ザンパノはまだブタ箱だ。たぶん明日出られる」

ジェルソミーナ:「明日?」

イルマット:「ああ、たぶんな」

ジェルソミーナ:

「二人とも悪いのよ。ザンパノ一人じゃないわ」

「それにあんたはもう出てきて」

イルマット:

「そうさな、見方によってはおれの方が悪かった」

「だが奴はナイフを」

「降りて来いよ。降りろよ」

「奴にはブタ箱も薬だ。何年でもいるがいいさ」

「おれは先が短い」

「ああ、うまい空気だ。ここにかけよう」

「いい部屋着だな」

「かけろ。かけろよ」


 

二人は横に並んで話をします。

 


イルマット:

「お前の顔はおかしいな」

「それで女かい。まるでアザミだ」

ジェルソミーナ:「ザンパノを待たないわ。皆に誘われたのよ」

イルマット:「奴と別れるいい機会だ」


 

イルマットは大笑いで寝転びます。

 


イルマット:

「明日出てきて誰もいない時の奴の顔を見たい」

「絶対に別れろ。奴は野蛮人だ」

「何の理由もない。つい、からかいたくなる」

「なぜかな、自分でも分からん。いつもそうなる」

「ところで、どうしてザンパノと一緒になった?」

ジェルソミーナ:「母さんに1万リラくれたの」

イルマット:「本当にそれだけでか」

ジェルソミーナ:「私には妹が4人いるの」

イルマット:「奴を好きか?」

ジェルソミーナ:「私が?」

イルマット:

「そう、お前さ」

「逃げないのか?」

ジェルソミーナ:

「逃げようとしたわ」

「だめだった」

イルマット:

「お前は変わってるな」

「ダメとは何だ?。奴がいやなら皆と行けばいい」

ジェルソミーナ:

「皆と行ったって同じことよ」

「ザンパノといたって変わりはないわ」

「どっちだって同じよ。私は何の役にも立たない女よ」

「いやだわ、生きてることが嫌になったわ」


 

ジェルソミーナの本当の悩みは自分が無価値な人間だと感じていることなんですね。

役に立たないから1万リラで母親に売られた。

役に立たないから、ザンパノに人間扱いされない。

そう思い込んでしまっています。

 


イルマット:

「料理はどうだ?」

「料理は作れるのかい」

ジェルソミーナ:「いいえ」

イルマット:「何ができるんだ?歌や踊りは?」

ジェルソミーナ:「いいえ」

イルマット:「すると、男と寝るのが好きか?」


 

ジェルソミーナは横を向きます。

 


イルマット:

「では何が好きだ?」

「別に美人でもなし」

ジェルソミーナ:「私はこの世で何をしたらいいの?」

イルマット:

「おれがお前と一緒になったら、綱渡りを教える」

「ライトをあててやる」

「おれの車で巡業する」

「世の中を楽しむ。どうだい?」

「それとも、いつまでもザンパノと一緒に苦労を続けるか、ロバにたいにコキ使われながら...」

「しかし、お前もザンパノには何かの役に立つんだろう」

「前に逃げた時はどうだった?」

ジェルソミーナ:「ひどく殴られたわ」

イルマット:

「奴はなぜ引き戻したのかな」

「分からん。おれなら一発でお前を捨ててしまう」

「おそらく、惚れてるんだ」

ジェルソミーナ:「ザンパノが私に?」

イルマット:

「変かい?奴は犬だ」

「お前に話しかけたいのに吠える事しか知らん」

ジェルソミーナ:「かわいそうね」

イルマット:

「そうだ、かわいそうだ」

「しかし、お前以外に誰が奴のそばにいられる?」

「おれは無学だが何かの本で読んだ」

「この世の中にあるものは何かの役に立つんだ」

「例えばこの石だ」

ジェルソミーナ:「どれ?」

イルマット:

「どれでもいい」

「こんな小石でも何かの役に立ってる」

ジェルソミーナ:「どんな?」

イルマット:

「それは・・・」

「おれなんかに聞いても分かんないよ」

「神様はご存知だ」

「お前がいつ生まれ、いつ死ぬか、人間には分からん」

「おれには小石が何の役に立つか分からん」

「だが何かの役に立つ」

「これが無益ならすべて無益だ」

「空の星だって同じだとおれは思う」

「お前だって何かの役に立ってる」

「アザミ顔の女でも」


 

 

 

12.ジェルソミーナの決意

 

 

ジェルソミーナは小石をイルマットから受け取り、じっと涙を浮かべながら見つめました。

次第にジェルソミーナの顔に笑顔が戻っていきます。

ジェルソミーナに生きる気力が戻って来ます。

それはイルマットの慈愛です。

神はジェルソミーナにイルマットを使わせ、命を与えました。

 


ジェルソミーナ:

「何もかも火をつけて焼いてやるわ。布団も毛布もみんな」

「彼が思い知るわ」

「もうあの人とは働きたくないのよ。1万リラくれた分は働いたわ」

「彼は無関心よ。何も考えていない。’言ってやる。何のつもりだと」

「何の役に立っているのか」

「スープに毒を入れてやる。いやダメ、みんな焼いてやる」

「私がいないと彼は一人ぼっちよ」

イルマット:

「皆が誘ったんだろ?」

「お前は一座の連中に来いと言われたんだろ?」

「俺のことは言わなかったか?」

ジェルソミーナ:「二度と仕事しないって。ザンパノとも」

イルマット:

「誰が奴らと仕事するもんか。俺を必要とするのは奴らの方なんだ」

「俺はどこへでも行ける。俺は一人で自由にしたい人間だ」

「俺は一人で暮らせる。お前はどうする?。俺には家もない」

ジェルソミーナ:「さっきなぜ先が短いと言ったの?」

イルマット:

「いつも死を考えてるからさ」

「おれの仕事はいつ死ぬか分からん危ない仕事だ」

「いつ死んでも誰も悲しまん」

ジェルソミーナ:「お母さんは?」


 

イルマットとは "狂人" という意味です。

彼は綱渡りという芸風からいつ死んでも覚悟して生きていました。

性格は柳に風が吹いているようで、風来坊のようです。

イルマットの陽気さ、思いつくことは何でもする軽快さ。

それは善いことも悪いことも超越した本当の自由な生き方。

いつ死ぬか分からない不安を持ちながら、今の一瞬を命を懸けて楽しむ、人助けもする、嫌な奴もからかう。

生死は神の意向にまかせ、”今に生きる”。

こういった生き方が生き物本来の生き方ではないでしょうか?

 


イルマット:

「お前はどうするんだ?。奴を待つか一座と行くか」

「さあ、乗れ。警察の近くまで運転して行ってやる。出てきた時にすぐ分かる」

「わあ、この怪物は動くのかい」


 

イルマットの運転で警察まで連れて行ってもらいました。

イルマットとお別れの時です。

 


イルマット:「ここだ、ここが警察だ」

ジェルソミーナ:「行くの?」

イルマット:「行くよ。本当におれと一緒に来たいのかい?だが役に立たん女は連れて行きたくないんだ」


 

イルマットは首にかけていたネックレスをジェルソミーナにかけてあげます。

 


イルマット:

「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」

「これをやる。思い出の品だ」


 

イルマットとそういって珍しく寂しそうにジェルソミーナと別れました。

 


イルマット:

「チァオ!」

「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」


 

ジェルソミーナは悲しんでいましたが、顔を上げてイルマットにお別れの挨拶を涙混じりの笑顔で返しました。

 


イルマット:「さよなら、ジェルソミーナ」


 

イルマットはスキップしながらマンションの向こう側へ消えて行きました。

 

プリムラ・マラコイデス

 

 

 

13.お似合いの二人

 

時が経ち、ザンパノは釈放されます。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノ、ここよ」


 

ザンパノは感慨深げにそして恥ずかしげにタバコをくわえました。

 


ジェルソミーナ:「一座の人たちに誘われたのよ」

ザンパノ:「行けばいいのに」


 

ジェルソミーナは黙って荷台からザンパノのコートを取り出し、ザンパノに着せてあげました。

それは本物の夫婦のようでした。

二人は旅の途中に海岸に立ち寄ります。

ジェルソミーナは故郷に似たその海岸に走って向かいました。

そして実家を思い出していました。

 


ジェルソミーナ:「私の家はどの方角?」


 

ザンパノは靴と靴下を脱ぎ、波に向かって歩きながら珍しくやさしく言います。

 


ザンパノ:「あっちだ」


 

それはそれは光が無数に反射して綺麗な明るい穏やかなシーンでした。

モノクロ映像に遠い沖まで反射した陽光がきらめきます。

 


ジェルソミーナ:

「前には家に帰りたくてしかたがなかった」

「でも今ではどうでもよくなったわ」

「あんたといるところが私の家だわ」

ザンパノ:

「そいつは立派な考えだ」

「家へ帰れば満足に食えんから気が変わったんだ」


 

ジェルソミーナは恋心の分からないザンパノに苛立って言います。

 


ジェルソミーナ:「あんたってケダモノね。あきれたわ」


 

ザンパノは恥ずかしくてとても口にできないのかもしれませんね。

 


ザンパノ:「ハッハッハッハッハッ。だが本当だぜ」


 

 

~PART3へつづく

 


『道』PART1 ~「La Strada」イタリア映画の最高傑作!フェリーニとニーノ・ロータの映像と音楽の怪演 キング オブ ムービー!~

2024-01-02 18:19:04 | 日記

 

『道』

~「La Strada」イタリア映画の最高傑作!フェリーニとニーノ・ロータの映像と音楽の怪演 キング オブ ムービー!~

 

 

 

01.はじめに

 

映画を観る時どうするかというと、「映画は監督で観る」という教えが淀川さんにはありました。

そして、映画は他の種類の芸術と比べると、音楽にとても近いと思われます。

特別な空間の中に「時の流れ」と観た「当時の思い出」が記憶に残ったりするからだと思います。

音楽も映画も「流れ」の中に生きています。

喜怒哀楽のテンポやカット割りをもっています。

名監督の隣にはいつも名作曲家がいます。

☆「鳥」「サイコ」「ダイヤルMを廻せ」の
ヒッチコック&バーナード・ハーマン☆

☆「E.T」「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」の
スピルバーグ&ジョン・ウィリアムス☆

☆「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」「キャスト・アウェイ」の
ロバート・ゼメキス&アラン・シルベストリ☆

☆「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」の
ベルトルッチ&坂本龍一☆

イタリア最大の巨匠、フェリーニとその片腕ニーノ・ロータも素晴らしい名コンビです。

この作品を観終わったあなたは、ニーノ・ロータの曲が頭からしばらくは離れないだろうと思います。

イルマットの歌「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」

ジェルソミーナのラッパ「♪ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♪」

『道』「ラ・ストラーダ」

パナソニックのカーナビでお馴染みのイタリア語のストラーダですね。

お持ちの方は、カーナビに触れる度にこの『道』を思い出してもらえるでしょう。

本作品のテーマは「人と人が寄り添う理由」なのだと思います。

イタリア映画らしく人間くささに満ちていて、背後には神の存在がはっきりと感じられる作品です。

誤解を恐れずに申しますと、

主人公のジェルソミーナは女の原型、ザンパノは男の原型。

ジェルソミーナは神が使わした天使、ザンパノは人間の業そのもの。

「こういう人は近くにはいないな」と思うのではなく、人間の共通した特徴をもった登場人物に仕上げています。

フェリーニ監督の著書の中にこの作品に関しての言葉があります。

 


近代人としての私たちの悩みは孤独感です。

そしてこれは私たちの存在の奥底からやってくるのです。

どのような祝典も、政治的交響曲もそこから逃れようと望むことはできません。

ただ人間と人間のあいだでだけ、この孤独を断つことができるし、ただ一人一人の人間を通してだけ、一種のメッセージを伝えることができて、一人の人間ともう一人の人間との深遠な絆を彼らに理解させ —— いや、発見させることができるのです。

まったく人間的でありふれたテーマを展開するとき、私は自分で忍耐の限度をはるかに越える苦しみと不運にしばしば直面しているのに気づきます。

直観が生まれ出るのはこのようなときです。

それはまた、私たちの本性を超越するさまざまな価値への信仰が生まれ出るときでもあります。

そのような場合に、私が自分の映画で見せたがる大海とか、はるかな空とかは、もはや十分なものではありません。

海や空のかなたに、たぶんひどい苦しみか、涙のなぐさめを通して、神をかいま見ることができるでしょう - それは神学上の信仰のことというよりも、魂が深く必要とする神の愛と恵みです。


『私は映画だ / 夢と回想』より


 

 

~《主な登場人物》~

 

ジェルソミーナ・・・純粋無垢な娘、口減らしのために母親にザンパノに売られる。

ザンパノ・・・怪力芸を得意とする旅芸人、粗暴な性格。

イルマット・・・綱渡り芸人、ザンパノとは旧知の仲。

修道女・・・ジェルソミーナ達が立ち寄った修道院の修道女、ジェルソミーナに神聖を感じる。

サーカス団の団長・・・ザンパノ、イルマット、ジェルソミーナが世話になったサーカス団長。

ジェルソミーナの母親・・・お金と口減らしのためにジェルソミーナをザンパノに売る。

村の未亡人・・・ザンパノの野性味に性欲を求める女。

海辺の町の娘・・・ジェルソミーナに歌を教わった娘。

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~《誰かに伝えたい名セリフ》~

 

イルマット:「この世の中にあるものは何かの役に立つんだ。例えばこの石だ。どれでもいい。こんな小石でも何かの役に立ってる。おれなんかに聞いても分かんないよ。神様はご存知だ。お前がいつ生まれ、いつ死ぬか、人間には分からん。おれには小石が何の役に立つか分からん。だが何かの役に立つ。これが無益ならすべて無益だ。空の星だって同じだとおれは思う。お前だって何かの役に立ってる。アザミ顔の女でも」

1:01:03~1:10:14

 

背景:ジェルソミーナは1万リラでザンパノに売られ、旅芸人助手としてこき使われます。手籠めにされ、ムチで打たれ、逃げては殴られて、ひどい目に合います。料理も何にもできないジェルソミーナですが、それでもザンパノは自分の元を離そうとしません。どうしようもないジェルソミーナはもう死んでしまいたいとイルマットという綱渡り芸人につぶやきます。それを聞いてイルマットがジェルソミーナに言ったセリフ。~

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~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~

 

ナイフを振り回して警察に殺人未遂で捕まったザンパノがようやく釈放されます。警察の前で温かな笑顔でザンパノの帰りを待っていました。そのあと、ジェルソミーナの故郷に似た海岸に行きます。ジェルソミーナは「前には家に帰りたくてしかたがなかった。でも今ではどうでもよくなったわ。あんたといるところが私の家だわ」
波に光が無数に反射して綺麗な明るい穏やかなシーン。遠い沖まで反射した陽光がきらめきます。

1:11:54~1:14:34

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02.ジェルソミーナという女

 

 

冒頭シーンで子供たちが叫びます。

 


子供:「ジェルソミーナ!ジェルソミーナ!」


 

広大な海を背景に、浜辺を木の枝の束を背負った1人の娘が、まるでかかしやマッチ棒のように頼り無げにヒョコヒョコと歩いています。

ジェルソミーナの方に向かって子供が4人、浜辺に駆け寄ってきます。

何度も何度も寄せては返す無常感の白波と、寒々とした波の音が繰り返されています。

このシーンを見ただけでこの映画が素晴らしいというのが分かるほどです。

本作品の主人公の娘、ジェルソミーナ。

「ジャスミン」の花の意味で、「純粋さ」の象徴として彼女を描いています。

彼女はとても子供心に溢れていて、子供たちにとっては宝物のような人なんです。

これから旅するどの町でもいつも子供が集まってくるような娘です。

 


子供:

「ジェルソミーナ、早く帰ってきて」

「ママがすぐ帰れって」

「大きなオート三輪車に乗った人が来てるよ」

「ローザが死んだんだって」


 

ジェルソミーナは急いで家に帰ります。

 


ジェルソミーナの母親:

「ローザを連れてったザンパノを覚えてるだろ」

「かわいそうな娘だよ」

「お墓がどこだかも分からない」


 

困ったような顔で話を聞くジェルソミーナ。

壁にもたれかかり、無表情にタバコを吸うザンパノ。

母親はハンカチで目を押さえて、一人大げさにしゃべります。

 


ジェルソミーナの母親:

「かわいそうに、死んじまったんだよ」

「やさしい娘だったのに」

「どんなことでもよくできる娘だった」

「ザンパノ、この娘もよく似てるだろ?」

「ジェルソミーナだよ」

「本当に私たちは不幸だよ」

「ザンパノ、この娘はね、ローザと違ってとても従順なんだよ」

「言うこともよく聞くよ」

「少し変わり者だけど、毎日きちんと食事をすれば変わる」


 

自分は売られてしまうのだと分かったジェルソミーナは、涙を浮かべてうつむきます。

 


ジェルソミーナの母親:

「ローザを継いでザンパノと行くかい?」

「そしたらいくらかでもお金になるし、家でも口が減るんだよ」

「どう?ジェルソミーナ」

「ザンパノは親切でお前も幸せよ」

「あちこちも見られる」

「歌って踊って、しかもこれをごらん。1万リラもくれたんだよ」

「見てごらん、1万リラだよ」


 

母親はもうすでにお金をもらっているんですね。

話がついてしまっているんですね。

舞台は第二次世界大戦後に敗戦して荒れ果てたイタリア。

彼女の家は貧しく、姉のローザは以前にザンパノに売られてしまったじたのですね。

ローザが死んで、新たに旅芸人の助手としてザンパノが今度は妹を連れに来ました。

母親は口減らしのためにジェルソミーナを売ります。

こんな風に懇願されてはジェルソミーナは断ることができません。

これは極端にひどい話ですが、あなたは親や兄弟、親戚、友人に近いことを言われたことはないでしょうか?

「家族なら当然してくれるよね?」

「お願い、友達でしょ?」

これこそ、"羊の皮をかぶった狼" です。

タオルを巻いた凶器ですね。

倫理観、家族愛、友情をかぶせたナイフを突きつけられたことはないでしょうか?

ジェルソミーナにとっては辛いですね。

泣きつかれながら、すがりつかれながら、ザンパノと行くように訴えられます。

「自己犠牲」を他人の意志で強いられます。

自分には価値がない人間だと強く心を傷つけてしまいます。

 


ジェルソミーナの母親:

「屋根も修理できるし、当分は食べられる」

「ところで父さんはどこだろ、ジェルソミーナ」

「お前は一人前なのに働いたことがないね」

「誰もお前がいけないとは言わないよ」

「ママを助けてくれるかい?」

「あんた、この娘を芸人にしてくれる?」

ザンパノ:

「大丈夫さ」

「犬にだって芸が教えられる」

「子どもたち、サラミを1キロとチーズを半キロだ」

「ワインを2本、さあ買ってこい」

「早く行け」


 

ザンパノの言葉に、これからジェルソミーナがこき使われる運命が見えてしまいます。

ジェルソミーナは悲しさのあまり、うつむいて海の方に歩いて行きました。

 


ジェルソミーナの母親:

「どこへ行くの? ジェルソミーナ!」

「どうしたの ザンパノ...ジェルソミーナ!」


 

ジェルソミーナはこみ上げる涙を止めて、笑顔を無理やり作り出して、自分を勇気づけます。

 


ジェルソミーナの母親:「行くのかい?」

ジェルソミーナ:

「よく働いて、家へお金を送ってあげるわ」

「芸人になって歌って踊るわ、ローザみたいに」

婦人:「いつ帰るの?」


 

ジェルソミーナの母親は帰ってくるなと言わんばかりに首を振ります。

 


ジェルソミーナの母親:「行かないで、行かないで、娘や、行かないで」


 

ジェルソミーナは笑顔を無理やりに作り出し、家族を抱きしめて別れを済ませます。

 


ザンパノ:「すぐに戻って来るよ」

ジェルソミーナの母親:「ジェルソミーナ!お前のショールだよ」

ザンパノ:「さあ、早く乗れ」

ジェルソミーナの母親:「ああ、娘や!かわいそうな娘や!」


 

ジェルソミーナは汚れたオート三輪車の荷台に乗り込み、追いかけて走ってくる兄弟たちに手を振ります。

 

ロウバイ

 

 

03.ザンパノという男

 

 

ザンパノは大道芸を村で行いました。

 


ザンパノ:

「これは太さ5ミリの鉄の鎖です」

「鋼鉄より強い粗鉄製です」

「胸の筋肉のチカラで切って見せます」

「このフックを引きちぎる」

「ありがとう、ありがとう、皆様方」

「まず肺にうんと空気を吸い込みます」

「下手すると血管が破裂します」

「いつかミラノでこれをやって目が見えなくなった男がいます」

「目の神経に無理がかかったからです」

「目が見えなくなれば、一巻の終わりだ」

「心臓の弱い人は見ない方がいいですぞ」

「出血するかも知れん」


 

ザンパノは両腕を上げて、深く息を吸い込みました。

ジェルソミーナは荷台の中から緊張の面持ちでザンパノを見つめます。

見事、鎖はちぎれて大成功です。

観客から拍手が沸き起こります。

ジェルソミーナも優しく両手で拍手しました。

ある日の食事風景です。

二人は貧しい簡単なマカロニを鉄のお椀で食べています。

ジェルソミーナは食べるふりをしてポイッと捨てます。

自分で作った料理がまずいんですね。

 


ザンパノ:「スープも作れんのか?」

ジェルソミーナ:「だめなの」

ザンパノ:「まるで豚のエサだ」


 

ザンパノは荷台から衣装をまさぐります。

 


ザンパノ:

「舞台用の衣装があるぞ。靴も服もある」

「どれか合うだろう」

「優雅にしろ」

「汚いなりの女の子とは仕事をせん」

「身なりをよくしろ」


 

そういってザンパノはジェルソミーナに帽子を被せます。

まんざらでもない様子のジェルソミーナ。

 


ザンパノ:「言え!”ザンパノが来たよ” と」


 

ジェルソミーナは小声で嫌々ながら言います。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」


 

ザンパノは見本を見せます。

 


ザンパノ:「ザンパノが来たよ」

ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ!」


 

帽子を被せてもらったジェルソミーナはザンパノの目を盗んで、陽気に踊ります。

 


ザンパノ:

「来い」

「トランペットがある」


 

ザンパノは芸の登場曲を勢いよく吹きました。

ジェルソミーナもトランペットを勝手に吹きます。

 


ザンパノ:「言う通りにしろ」


 

今度は小太鼓をジェルソミーナの肩にかけます。

 


ザンパノ:「いいか、太鼓をたたくんだ」


 

ザンパノはバチの持ち方を見せて叩き方を教えました。

 


ザンパノ:「ザンパノが来たよ」


 

ジェルソミーナも見よう見まねで太鼓を叩きます。

持ち方はだいぶ間違っていました。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」


 

もう一度、ザンパノは叩き方を教えました。

 


ザンパノ:「ザンパノが来たよ」


 

ザンパノはまったく叩き方が間違っているジェルソミーナを見かねます。

そして近くの草原から枝を取ってきました。

 


ザンパノ:「やれ」

ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」


 

ザンパノは枝でジェルソミーナをムチ打ちにします。

ジェルソミーナは痛がって後退りしました。

 


ザンパノ:「こっちへ来い、ここへ来るんだ」


 

ジェルソミーナはもう嫌になって太鼓を適当に叩きます。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」


 

またムチで打たれます。

 


ザンパノ:「こう言うんだ、”ザンパノが来たよ!”」


 

ジェルソミーナはもう泣きながら太鼓をたたき続けました。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ、ザンパノが来たよ、ザンパノが来たよ」


 

ジェルソミーナの後ろでは子供たちが必死に応援しているんですね。

観客は「ザンパノが来たよ!」というセリフを痛みの感情とともに覚えるんですね。

ジェルソミーナは焚き火を見つめながら、何やらつぶやいています。

ザンパノは何を言っているんだというような奇異な目でジェルソミーナを見ています。

 


ジェルソミーナ:「きらめく炎 かがやく火 とぶ火花 夜!」


 

神の世界の呪文のようにジェルソミーナは唱えます。

 


ザンパノ:「何をしてる?」

ジェルソミーナ:「あさっては雨よ」

ザンパノ:「なぜ分かる?」

ジェルソミーナ:「ええ、雨だわ」


 

ここでジェルソミーナが少し神聖な行動をするんですね。

ザンパノはいやらしい目つきでジェルソミーナを見ます。

 


ザンパノ:「来い。乗れ」

ジェルソミーナ:「外で寝るわ」

ザンパノ:「おい、お前。名前は?」

ジェルソミーナ:「C・ジェルソミーナ」

ザンパノ:「よし、乗れ」

ジェルソミーナ:「明日ね」


 

ジェルソミーナは外に行こうとします。

 


ザンパノ:「乗れと言うんだ!」


 

ザンパノが巡業するオート3輪の荷台には野宿の道具、芸の小道具、衣装、布団。

ザンパノという男は粗野で乱暴な男です。

ザンポーノという豚料理から来ているそうです。

粗暴の象徴ですね。

ザンパノといっしょに寝るのはいやだと、ジェルソミーナは外で寝ようとしますが、無理やり連れ込まれて、手籠めにされてしまいます。

悲しみの表情でジェルソミーナは涙を拭きます。

 

 

 

 

04.二人の共演

 

 

その横でザンパノは眠っていました。

ある村でこの鎖の引きちぎりをやっています。

ジェルソミーナも綺麗な道化の衣装を着て、ピエロの化粧をし、上手く太鼓を叩けていました。

鎖を引きちぎった後の目を押さえてふらふらのザンパノ。

 


ザンパノ:

「さて、皆さん」

「ただ今から珍無類の喜劇をご覧に入れます」

「よろしくどうぞ」

「心臓の弱い人は見ないで下さい」

「笑い死ぬと困ります」

「ただし無料ではお見せしませんぞ」

「あとで女房が帽子を持ってまわる」


 

ジェルソミーナに小声で言います。

 


ザンパノ:

「おい、急げ」

「急げ」


 

ジェルソミーナは道化に扮して、役を演じます。

 


ザンパノ:「こんにちは・・・ジェルソミーナさん」

ジェルソミーナ:「ザンパノ!」


 

猟師に扮したザンパノ。

 


ザンパノ:

「あんたはこの私が恐ろしくないのかね?」

「いや、私の持ってる ”ペッポウ” が怖くないのかね」


 

ザンパノは ”てっぽう” と発音できずに ”ペッポウ” としか言えません。

 


ザンパノ:「怖くなければアヒルを撃ちに行きましょう」

ジェルソミーナ:

「あっはっはっは。 ”ペッポウ” じゃありませんわ」

「 ”てっぽう” と言うのよ、おバカさんね」

「アヒルはどこにいるんです?」

「もしアヒルがいなければ、お前がアヒルで俺が猟師になる」

ジェルソミーナ:「いっあー、いっあー」

ザンパノ:「それではロバだ、アヒルでなく」

ジェルソミーナ:「クワックワックワックワッ、クワックワックワックワッ」


 

ザンパノはライフルを構えてジェルソミーナを狙います。

そして鉄砲を打って、二人は同時に倒れて、寸劇は終わりました。

大拍手の観客たち。

ジェルソミーナは得意げな顔をしました。

 


ザンパノ:

「ありがとうございます」

「女房が帽子を持ってまわります」

「どうぞ、よろしく」


 

ジェルソミーナは満足げでした。

劇中劇の内容は現在のザンパノとジェルソミーナの関係を表していて、私たち観客にとっては物悲しくもあります。

 

ウメ

 

 

05.豪華な夕食

 

 

お金が入ったので、二人はレストランに夕食に行きます。

ザンパノが爪楊枝をくわえてるのを見て、ジェルソミーナも面白げにマネします。

子羊の肉とシチュー、パスタ、赤ワインと豪華な夕食となりました。

お酒に酔ったザンパノ。

ニーノ・ロータの陽気な音楽が冴えます。

 


ジェルソミーナ:「ザンパノ」

ザンパノ:

「故郷はどこなの?」

「生まれ故郷だ」

ジェルソミーナ:

「使う言葉が違っているのね」

「生まれたのは?」

ザンパノ:

「親父の家さ」

「ボーイ、ワインだ」


 

ザンパノはジェルソミーナを人扱いしていないのか、人とコミュニケーションを取ることができないのか。

人を寄せ付けたくない素振りをいつも見せています。

とは言っても職業は人を集める、喜ばせる仕事なんですね。

心のどこかでは人を求めている孤独な男です。

店にふくよかなスタイルのいい女性がいました。

ザンパノはさっそく目をつけます。

 


ザンパノ:「おい、こっちに来い」

客の女:「私のこと?」

ザンパノ:「そうだ、来い。何してる?」

客の女:「別に何も」

ザンパノ:「ではかけろ。飲むか?」

客の女:「ありがと」

ザンパノ:「酒だ!」

客の女:「ここは本当にいやな店よ」

ザンパノ:「タバコはどうだ?」

客の女:「前に会ったわね」

ザンパノ:「方々へ行くからな」

客の女:

「確かに会ったわ?」

「商売は?」

ザンパノ:

「旅の芸人だ」

「こいつは助手だ」

「おれが1から芸を教えたんだ」

「見ろ、見ろ、さわってみろよ」


 

ザンパノは腕の筋肉を女に触らせます。

 


客の女:「たくましいのね」

ザンパノ:「これをみろ、1時間で稼いだんだ」

客の女:「1枚くれる?」

ザンパノ:「バカ言うな」

客の女:「ここは臭いわ。花火を見に行きましょうよ」

ザンパノ:「ワインを2本くれ。いくらだ?」


 

3人は店を出ました。

 

06.置いてけぼり

 


客の女:「これは凄いわ、あんたの車?」

ザンパノ:

「何が気に入らないんだ。アメリカ製だぞ」

「7年間も使って一度も故障がないんだ」


 

女とザンパノは車に乗り込みました。

 


ジェルソミーナ:「私はこっちに乗るの?」

ザンパノ:「お前は待ってろ」

ジェルソミーナ:「どこへ行くの?」


 

ジェルソミーナは路上に置いていかれました。

石畳を馬がパカパカと寂しく通ります。

そして朝まで二人は帰ってきませんでした。

路上に座り込んでいるジェルソミーナを子供たちが集まって見つめています。

小さな子供がジェルソミーナに自分のおもちゃをプレゼントします。

いつも子供たちが集まってくるジェルソミーナに神聖な雰囲気が感じられます。

 


通りがかりの女:「まだいるの?」


 

ジェルソミーナは施しを受けていました。

 


通りがかりの女:

「なぜ食べなかったの?」

「どうして?どんなつもりだろうね」

ジェルソミーナ:「スープなんてまっぴらだわ」

通りがかりの女:

「あんたの亭主はオート三輪に乗ってるんだろ?」

「どこにいるのか知りたいの?」

「森のはずれの畑の中で寝てたわよ」

ジェルソミーナ:「どこ?」

通りがかりの女:「村はずれよ」


 

ジェルソミーナは走って探しに行きました。

ザンパノは原っぱに横たわっていました。

 


ジェルソミーナ:

「ザンパノ」

「ザンパノ!」


 

ジェルソミーナはザンパノの心臓の音を聞きます。

ザンパノは目を覚まし、ジェルソミーナは安心します。

もう一度眠りだすザンパノの寝顔を見て、ジェルソミーナは胸をなでおろします。

あたりの花を見ながら散策するジェルソミーナに、一人の子供が後ろからついていきます。

目の前の枝のマネをしておどけるジェルソミーナに、女の子は笑いました。

やがて目を覚ましたザンパノ。

ジェルソミーナはそばでトマトの種を植えていました。

 


ジェルソミーナ:

「目が覚めた?」

「トマトを植えたわ」

ザンパノ:「トマトだ?」

ジェルソミーナ:

「種を見つけたの」

「大きい種よ。だから植えたの」

ザンパノ:「車に乗るんだ」

ジェルソミーナ:「もう行くの?」

ザンパノ:

「トマトが育つまで待つ気か」

「車を押すんだ」


 

うるさい騒音の車で、二人は移動します。

 


ジェルソミーナ:「ローザの時もこうだったの?」

ザンパノ:「何が」

ジェルソミーナ:「ローザとよ」

ザンパノ:「何を言うんだ」

ジェルソミーナ:

「あの女と寝たんでしょ」

「ローザともしたの?」

ザンパノ:

「バカな話はよせ」

「何だ」

ジェルソミーナ:「どんな女とでも一緒に寝るの?」

ザンパノ:「何だと」

ジェルソミーナ:「女ならいいの?」

ザンパノ:

「俺と一緒にいたいのなら、つまらんことを言うな」

「何がトマトだ。いったい何を考えてるんだ」


 

ジェルソミーナは人間扱いされていない待遇に段々と嫌気がさして来ます。

車の前には羊飼いがムチを打ってひつじの群れを懸命に進ませていました。

 

スイセン

 

 

~PART2へつづく