26.最期の挨拶
ジョーンズはバイクを盗み、ハワードの家に最期の挨拶に来ました。
ジョーンズ:「戻ったぞ!見てくれ、戻った!」
ハワード:
「すごいバイクだな」
「退院をしたのか?」
ジョーンズ:「道具をもらいに来たんだ」
ハワード:「エンジンを切れよ」
ハワードはキーを回してエンジンを切りました。
ジョーンズ:「空を飛んで抜け出したんだ」
ハワード:「気分はどうだ?」
ジョーンズ:
「最高だよ」
「道具を返してくれないか?」
ハワード:「ああ、返すよ。取ってこい」
ハワードは息子に道具を取りに行かせます。
ジョーンズは息子に計算問題を出します。
ジョーンズ:「答えて、1492÷68は?」
ハワード:「どこの現場で働くんだ?」
ジョーンズは鳥が飛ぶマネをします。
ハワード:
「あそこか?もう工事は終わったよ」
「工事は先週終わったよ」
ジョーンズ:「現場監督に雇われたんだ」
ジョーンズは虚言を言うようになります。
ハワード:「分かったよ。待ってろよ」
ジョーンズはハワードと別れを惜しむようにハワードの手や腕を何度も触りました。
ハワードの手の温もりを自分に流し込むように...。
今までありがとうと言うように...。
ハワードはジョーンズがあの現場で死ぬことを決めたのだと即座に察知しました。
ハワード:
「よせよ」
「すぐ戻るよ」
ハワードは納屋から彼の大工道具を持ってきます。
異様な雰囲気を察知したハワードはジョーンズと二人きりで話をするために、息子を家の中に取りに行かせたのだと思います。
ハワード:「寄ってけよ。昼飯でも食って行け」
ジョーンズは道具を渡せとハワードに催促します。
ジョーンズ:「早く渡せ!」
ジョーンズは語気を強めて言いました。
ジョーンズにとって大工道具は裏切らない唯一の友人なのですね。
ジョーンズ:「渡せよ」
ハワードは道具を渡しました。
ハワードのジョーンズを見つめる目には、分かり会えない辛い気持ちやジョーンズのこれからの不安が出ていました。
ジョーンズ:
「言いすぎて悪かったよ」
「ありがとう」
ハワード:
「礼なんか言うなよ」
「子供たちに会ってけよ」
「バイクは置いといて一緒に昼飯を食おう」
「いいだろ?」
それでもハワードはジョーンズをあきらめず、食い下がります。
親友と関わるということは「身を呈する」ということです。
厄介事も引き受ける。
何かを親友に捧げるということです。
ジョーンズはハワードにとって、自分の身体の一部になっているということですね。
ジョーンズ:
「奥さんに聞けよ」
「聞けよ」
ハワード:「そんなの大丈夫だよ」
ジョーンズ:「聞くのが礼儀だ。聞けよ」
ハワード:
「戻ってくるまで行くなよ」
「引き止めておけ」
ハワードは息子に言いました。
ハワードの息子:「答えが出たよ。21.941167」
ジョーンズ:「76だよ」
ハワードの息子:「待ってよ」
ジョーンズはバイクのエンジンをかけて出ていきました。
ハワード:「おい、待て!」
ハワードはジョーンズを追いかけましたが捕まえることができませんでした。
大の大人が本気で親友を走って追いかける姿が心に残る、グッと来るシーンです。
ジョーンズに逃げられたハワードはエリザベスに連絡します。
27.もう終わりにしたい...
エリザベスは完成した工事現場に向かいます。
ジョーンズは屋根に登り、景色を眺めていました。
今の感情はあのときの陽気なものとは全く違っていました。
間違いなく、彼はこの世に決着をつけるためにここに来た。
ジョーンズは大事な大工道具を腰から外して、屋根の上から落とし、覚悟を決めました。
近くの空港から離陸する飛行機と同時に、屋根から飛び降りようとしました。
エリザベス:「ジョーンズさん!」
ジョーンズは飛びませんでした。
死ぬ間際でハワードとエリザベスの温かい声が、絶望の中にもかすかに響き渡っていたのではないでしょうか。
ジョーンズ:
「空を飛びたかったんだ」
「だが飛べない」
エリザベス:
「いいのよ」
「わたしを許して」
涙ぐむエリザベスの頬をジョーンズは愛情を込めてゆっくりと撫でます。
その手に唇を擦り寄せるエリザベス。
真っ直ぐジョーンズの目を見つめます。
ジョーンズ:「それで、これからどうする?」
エリザベス:「まず、コーヒーを飲むわ」
ジョーンズ:「いいよ」
エリザベス:「カフェイン抜きで...」
二人は屋根の上でキスをしました。
そして物語は終わりを告げました。
28.最後に
双極症と闘っている皆様。
日々の病気との闘い、さぞお辛いことと思います。
定期的に襲ってくるうつの症状。
迫ってくる不安感。責めてしまう自分自身。見えない将来。
若い方はこれから人生を楽しもうという時の発症で、療養の日々を余儀なくされます。
一番何かをやろうという意欲や情熱のある時に、このような病気は正直「ひどいな、神様」と言いたくなります。
「健常者」との境界線を突然引かれてしまったような感覚。
ある人はそのぶつけたい怒りの感情や居場所をロック歌手に求めました。
ツアーへの参戦は「延命」だと言います。
ですがその慰めである「刺激」さえも、この病には躁へのきっかけとなります。
またある人は絵や書道に、生きる希望を託して、たくさん練習しました。
薬を飲みながらの生活に、これは本当の自分なのだろうかといつも疑問をもっていました。
しかしながら、リチウム(気分安定薬)は効いてくると手が震えるという副作用があります。
その人は絵や書道を諦めました。
唯一の生きる目的だったことすらさせてもらえません。
病気というハンディキャップを負いながらも、それでも働かないといけないと、社会に無言の圧力をかけられています。
どうかこういう方たちを「想像」して欲しいんです。
その感情を、その生活を。
たくさんの「諦め」を感じながら生きています。
夢、結婚、出産、仕事など。
敷かれたレールなんてものは本当はありませんし、本人の生き方次第です。
ですが、境界線で区切られた人たちには憧れとしての「レール」が頭をよぎります。
病気にさえならなかったら、きっと今、将来はあの人たちと同じように、幸せを享受できていただろうにと...。
ある方がnoteの記事に書いていました。
障がい者になって「努力ではどうにもならないことがあるのを知った」と。
もっともっと想像しよう。
身近にいる人の気持ちを。
わたしたちは誰しもが「守られるべき存在」です。
自信をもって生きていきたいのです。
「切符を持っていない」のに列車に乗せてもらっている気持ちが分かりますか?
無賃乗車しているのではないかと人の心に怯えて生きている人の気持ちが分かりますか?
シンプルな言葉「みんなが支え合って生きていく社会」
一人ひとりの意識を変えれば、必ず実現できると信じます。
ハワードのような良き友人を目指しましょう。
さいごに5年連続幸せ度世界ナンバーワンの福祉国家フィンランドの元首の言葉を紹介させてください。
『社会の強さとは、最も豊かな人たちが持つ富の多さではなく、最も脆弱な立場の人たちの幸福によって測られます。誰もが快適で、尊厳のある人生を送る機会があるかどうかを問わなければなりません』
~フィンランド前首相 サンナ・マリン~
~懸命に病と闘ったnoteクリエイター るり さん。 そして今も双極症、精神疾患、それに対する偏見と闘っている人たちとその家族にこの記事を捧げます~
もりともき
29.参考図書
『双極性障害(躁うつ病)とつきあうために』 日本うつ病学会
(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/shiryo/data/bd_kaisetsu_ver10-20210324.pdf)
『仕事をしている双極性障害患者さんの手記』 日本うつ病学会
(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/shiryo/data/shuki_20201005.pdf)
『双極症 病態の理解から治癒戦略まで 第4版』 加藤忠史
『躁うつ病とつきあう』 加藤忠史
『躁うつ病はここまでわかった』 加藤忠史
『双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本』 加藤忠史
『双極性障害【第2版】 ──双極症I型・II型への対処と治療』 加藤忠史
『対人関係・社会リズム療法でラクになる「双極性障害」の本』 坂本誠
『バイポーラー(双極性障害)ワークブック 第2版』 モニカ・ラミレツ・バスコ
『双極性障害の対人関係社会リズム療法』 エレン・フランク
『対人関係療法でなおす双極性障害』 水島広子
『対人関係療法でなおすうつ病』 水島広子
『「死にたい」「消えたい」と思ったことがあるあなたへ』 磯野真穂他
『ぎりぎりの自分を助ける方法』 井上祐紀
『マンガでわかる家族療法1』 東豊
『マンガでわかる家族療法2』 東豊
『となりのあの子の観念奔逸 ~「私」というアイデンティティー~』 たけくまゆきこ
note記事(https://note.com/tnggli) るり
note記事(https://note.com/luli_mama/) るりママ