『道』
~「La Strada」イタリア映画の最高傑作!フェリーニとニーノ・ロータの映像と音楽の怪演 キング オブ ムービー!~
01.はじめに
映画を観る時どうするかというと、「映画は監督で観る」という教えが淀川さんにはありました。
そして、映画は他の種類の芸術と比べると、音楽にとても近いと思われます。
特別な空間の中に「時の流れ」と観た「当時の思い出」が記憶に残ったりするからだと思います。
音楽も映画も「流れ」の中に生きています。
喜怒哀楽のテンポやカット割りをもっています。
名監督の隣にはいつも名作曲家がいます。
☆「鳥」「サイコ」「ダイヤルMを廻せ」の
ヒッチコック&バーナード・ハーマン☆
☆「E.T」「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」の
スピルバーグ&ジョン・ウィリアムス☆
☆「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」「キャスト・アウェイ」の
ロバート・ゼメキス&アラン・シルベストリ☆
☆「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」の
ベルトルッチ&坂本龍一☆
イタリア最大の巨匠、フェリーニとその片腕ニーノ・ロータも素晴らしい名コンビです。
この作品を観終わったあなたは、ニーノ・ロータの曲が頭からしばらくは離れないだろうと思います。
イルマットの歌「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」
ジェルソミーナのラッパ「♪ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♪」
『道』「ラ・ストラーダ」
パナソニックのカーナビでお馴染みのイタリア語のストラーダですね。
お持ちの方は、カーナビに触れる度にこの『道』を思い出してもらえるでしょう。
本作品のテーマは「人と人が寄り添う理由」なのだと思います。
イタリア映画らしく人間くささに満ちていて、背後には神の存在がはっきりと感じられる作品です。
誤解を恐れずに申しますと、
主人公のジェルソミーナは女の原型、ザンパノは男の原型。
ジェルソミーナは神が使わした天使、ザンパノは人間の業そのもの。
「こういう人は近くにはいないな」と思うのではなく、人間の共通した特徴をもった登場人物に仕上げています。
フェリーニ監督の著書の中にこの作品に関しての言葉があります。
「
近代人としての私たちの悩みは孤独感です。
そしてこれは私たちの存在の奥底からやってくるのです。
どのような祝典も、政治的交響曲もそこから逃れようと望むことはできません。
ただ人間と人間のあいだでだけ、この孤独を断つことができるし、ただ一人一人の人間を通してだけ、一種のメッセージを伝えることができて、一人の人間ともう一人の人間との深遠な絆を彼らに理解させ —— いや、発見させることができるのです。
まったく人間的でありふれたテーマを展開するとき、私は自分で忍耐の限度をはるかに越える苦しみと不運にしばしば直面しているのに気づきます。
直観が生まれ出るのはこのようなときです。
それはまた、私たちの本性を超越するさまざまな価値への信仰が生まれ出るときでもあります。
そのような場合に、私が自分の映画で見せたがる大海とか、はるかな空とかは、もはや十分なものではありません。
海や空のかなたに、たぶんひどい苦しみか、涙のなぐさめを通して、神をかいま見ることができるでしょう - それは神学上の信仰のことというよりも、魂が深く必要とする神の愛と恵みです。
」
『私は映画だ / 夢と回想』より
~《主な登場人物》~
ジェルソミーナ・・・純粋無垢な娘、口減らしのために母親にザンパノに売られる。
ザンパノ・・・怪力芸を得意とする旅芸人、粗暴な性格。
イルマット・・・綱渡り芸人、ザンパノとは旧知の仲。
修道女・・・ジェルソミーナ達が立ち寄った修道院の修道女、ジェルソミーナに神聖を感じる。
サーカス団の団長・・・ザンパノ、イルマット、ジェルソミーナが世話になったサーカス団長。
ジェルソミーナの母親・・・お金と口減らしのためにジェルソミーナをザンパノに売る。
村の未亡人・・・ザンパノの野性味に性欲を求める女。
海辺の町の娘・・・ジェルソミーナに歌を教わった娘。
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~《誰かに伝えたい名セリフ》~
☆イルマット:「この世の中にあるものは何かの役に立つんだ。例えばこの石だ。どれでもいい。こんな小石でも何かの役に立ってる。おれなんかに聞いても分かんないよ。神様はご存知だ。お前がいつ生まれ、いつ死ぬか、人間には分からん。おれには小石が何の役に立つか分からん。だが何かの役に立つ。これが無益ならすべて無益だ。空の星だって同じだとおれは思う。お前だって何かの役に立ってる。アザミ顔の女でも」☆
1:01:03~1:10:14
~背景:ジェルソミーナは1万リラでザンパノに売られ、旅芸人助手としてこき使われます。手籠めにされ、ムチで打たれ、逃げては殴られて、ひどい目に合います。料理も何にもできないジェルソミーナですが、それでもザンパノは自分の元を離そうとしません。どうしようもないジェルソミーナはもう死んでしまいたいとイルマットという綱渡り芸人につぶやきます。それを聞いてイルマットがジェルソミーナに言ったセリフ。~
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~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~
☆ナイフを振り回して警察に殺人未遂で捕まったザンパノがようやく釈放されます。警察の前で温かな笑顔でザンパノの帰りを待っていました。そのあと、ジェルソミーナの故郷に似た海岸に行きます。ジェルソミーナは「前には家に帰りたくてしかたがなかった。でも今ではどうでもよくなったわ。あんたといるところが私の家だわ」
波に光が無数に反射して綺麗な明るい穏やかなシーン。遠い沖まで反射した陽光がきらめきます。☆
1:11:54~1:14:34
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02.ジェルソミーナという女
冒頭シーンで子供たちが叫びます。
子供:「ジェルソミーナ!ジェルソミーナ!」
広大な海を背景に、浜辺を木の枝の束を背負った1人の娘が、まるでかかしやマッチ棒のように頼り無げにヒョコヒョコと歩いています。
ジェルソミーナの方に向かって子供が4人、浜辺に駆け寄ってきます。
何度も何度も寄せては返す無常感の白波と、寒々とした波の音が繰り返されています。
このシーンを見ただけでこの映画が素晴らしいというのが分かるほどです。
本作品の主人公の娘、ジェルソミーナ。
「ジャスミン」の花の意味で、「純粋さ」の象徴として彼女を描いています。
彼女はとても子供心に溢れていて、子供たちにとっては宝物のような人なんです。
これから旅するどの町でもいつも子供が集まってくるような娘です。
子供:
「ジェルソミーナ、早く帰ってきて」
「ママがすぐ帰れって」
「大きなオート三輪車に乗った人が来てるよ」
「ローザが死んだんだって」
ジェルソミーナは急いで家に帰ります。
ジェルソミーナの母親:
「ローザを連れてったザンパノを覚えてるだろ」
「かわいそうな娘だよ」
「お墓がどこだかも分からない」
困ったような顔で話を聞くジェルソミーナ。
壁にもたれかかり、無表情にタバコを吸うザンパノ。
母親はハンカチで目を押さえて、一人大げさにしゃべります。
ジェルソミーナの母親:
「かわいそうに、死んじまったんだよ」
「やさしい娘だったのに」
「どんなことでもよくできる娘だった」
「ザンパノ、この娘もよく似てるだろ?」
「ジェルソミーナだよ」
「本当に私たちは不幸だよ」
「ザンパノ、この娘はね、ローザと違ってとても従順なんだよ」
「言うこともよく聞くよ」
「少し変わり者だけど、毎日きちんと食事をすれば変わる」
自分は売られてしまうのだと分かったジェルソミーナは、涙を浮かべてうつむきます。
ジェルソミーナの母親:
「ローザを継いでザンパノと行くかい?」
「そしたらいくらかでもお金になるし、家でも口が減るんだよ」
「どう?ジェルソミーナ」
「ザンパノは親切でお前も幸せよ」
「あちこちも見られる」
「歌って踊って、しかもこれをごらん。1万リラもくれたんだよ」
「見てごらん、1万リラだよ」
母親はもうすでにお金をもらっているんですね。
話がついてしまっているんですね。
舞台は第二次世界大戦後に敗戦して荒れ果てたイタリア。
彼女の家は貧しく、姉のローザは以前にザンパノに売られてしまったじたのですね。
ローザが死んで、新たに旅芸人の助手としてザンパノが今度は妹を連れに来ました。
母親は口減らしのためにジェルソミーナを売ります。
こんな風に懇願されてはジェルソミーナは断ることができません。
これは極端にひどい話ですが、あなたは親や兄弟、親戚、友人に近いことを言われたことはないでしょうか?
「家族なら当然してくれるよね?」
「お願い、友達でしょ?」
これこそ、"羊の皮をかぶった狼" です。
タオルを巻いた凶器ですね。
倫理観、家族愛、友情をかぶせたナイフを突きつけられたことはないでしょうか?
ジェルソミーナにとっては辛いですね。
泣きつかれながら、すがりつかれながら、ザンパノと行くように訴えられます。
「自己犠牲」を他人の意志で強いられます。
自分には価値がない人間だと強く心を傷つけてしまいます。
ジェルソミーナの母親:
「屋根も修理できるし、当分は食べられる」
「ところで父さんはどこだろ、ジェルソミーナ」
「お前は一人前なのに働いたことがないね」
「誰もお前がいけないとは言わないよ」
「ママを助けてくれるかい?」
「あんた、この娘を芸人にしてくれる?」
ザンパノ:
「大丈夫さ」
「犬にだって芸が教えられる」
「子どもたち、サラミを1キロとチーズを半キロだ」
「ワインを2本、さあ買ってこい」
「早く行け」
ザンパノの言葉に、これからジェルソミーナがこき使われる運命が見えてしまいます。
ジェルソミーナは悲しさのあまり、うつむいて海の方に歩いて行きました。
ジェルソミーナの母親:
「どこへ行くの? ジェルソミーナ!」
「どうしたの ザンパノ...ジェルソミーナ!」
ジェルソミーナはこみ上げる涙を止めて、笑顔を無理やり作り出して、自分を勇気づけます。
ジェルソミーナの母親:「行くのかい?」
ジェルソミーナ:
「よく働いて、家へお金を送ってあげるわ」
「芸人になって歌って踊るわ、ローザみたいに」
婦人:「いつ帰るの?」
ジェルソミーナの母親は帰ってくるなと言わんばかりに首を振ります。
ジェルソミーナの母親:「行かないで、行かないで、娘や、行かないで」
ジェルソミーナは笑顔を無理やりに作り出し、家族を抱きしめて別れを済ませます。
ザンパノ:「すぐに戻って来るよ」
ジェルソミーナの母親:「ジェルソミーナ!お前のショールだよ」
ザンパノ:「さあ、早く乗れ」
ジェルソミーナの母親:「ああ、娘や!かわいそうな娘や!」
ジェルソミーナは汚れたオート三輪車の荷台に乗り込み、追いかけて走ってくる兄弟たちに手を振ります。
ロウバイ
03.ザンパノという男
ザンパノは大道芸を村で行いました。
ザンパノ:
「これは太さ5ミリの鉄の鎖です」
「鋼鉄より強い粗鉄製です」
「胸の筋肉のチカラで切って見せます」
「このフックを引きちぎる」
「ありがとう、ありがとう、皆様方」
「まず肺にうんと空気を吸い込みます」
「下手すると血管が破裂します」
「いつかミラノでこれをやって目が見えなくなった男がいます」
「目の神経に無理がかかったからです」
「目が見えなくなれば、一巻の終わりだ」
「心臓の弱い人は見ない方がいいですぞ」
「出血するかも知れん」
ザンパノは両腕を上げて、深く息を吸い込みました。
ジェルソミーナは荷台の中から緊張の面持ちでザンパノを見つめます。
見事、鎖はちぎれて大成功です。
観客から拍手が沸き起こります。
ジェルソミーナも優しく両手で拍手しました。
ある日の食事風景です。
二人は貧しい簡単なマカロニを鉄のお椀で食べています。
ジェルソミーナは食べるふりをしてポイッと捨てます。
自分で作った料理がまずいんですね。
ザンパノ:「スープも作れんのか?」
ジェルソミーナ:「だめなの」
ザンパノ:「まるで豚のエサだ」
ザンパノは荷台から衣装をまさぐります。
ザンパノ:
「舞台用の衣装があるぞ。靴も服もある」
「どれか合うだろう」
「優雅にしろ」
「汚いなりの女の子とは仕事をせん」
「身なりをよくしろ」
そういってザンパノはジェルソミーナに帽子を被せます。
まんざらでもない様子のジェルソミーナ。
ザンパノ:「言え!”ザンパノが来たよ” と」
ジェルソミーナは小声で嫌々ながら言います。
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」
ザンパノは見本を見せます。
ザンパノ:「ザンパノが来たよ」
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ!」
帽子を被せてもらったジェルソミーナはザンパノの目を盗んで、陽気に踊ります。
ザンパノ:
「来い」
「トランペットがある」
ザンパノは芸の登場曲を勢いよく吹きました。
ジェルソミーナもトランペットを勝手に吹きます。
ザンパノ:「言う通りにしろ」
今度は小太鼓をジェルソミーナの肩にかけます。
ザンパノ:「いいか、太鼓をたたくんだ」
ザンパノはバチの持ち方を見せて叩き方を教えました。
ザンパノ:「ザンパノが来たよ」
ジェルソミーナも見よう見まねで太鼓を叩きます。
持ち方はだいぶ間違っていました。
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」
もう一度、ザンパノは叩き方を教えました。
ザンパノ:「ザンパノが来たよ」
ザンパノはまったく叩き方が間違っているジェルソミーナを見かねます。
そして近くの草原から枝を取ってきました。
ザンパノ:「やれ」
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」
ザンパノは枝でジェルソミーナをムチ打ちにします。
ジェルソミーナは痛がって後退りしました。
ザンパノ:「こっちへ来い、ここへ来るんだ」
ジェルソミーナはもう嫌になって太鼓を適当に叩きます。
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ」
またムチで打たれます。
ザンパノ:「こう言うんだ、”ザンパノが来たよ!”」
ジェルソミーナはもう泣きながら太鼓をたたき続けました。
ジェルソミーナ:「ザンパノが来たよ、ザンパノが来たよ、ザンパノが来たよ」
ジェルソミーナの後ろでは子供たちが必死に応援しているんですね。
観客は「ザンパノが来たよ!」というセリフを痛みの感情とともに覚えるんですね。
ジェルソミーナは焚き火を見つめながら、何やらつぶやいています。
ザンパノは何を言っているんだというような奇異な目でジェルソミーナを見ています。
ジェルソミーナ:「きらめく炎 かがやく火 とぶ火花 夜!」
神の世界の呪文のようにジェルソミーナは唱えます。
ザンパノ:「何をしてる?」
ジェルソミーナ:「あさっては雨よ」
ザンパノ:「なぜ分かる?」
ジェルソミーナ:「ええ、雨だわ」
ここでジェルソミーナが少し神聖な行動をするんですね。
ザンパノはいやらしい目つきでジェルソミーナを見ます。
ザンパノ:「来い。乗れ」
ジェルソミーナ:「外で寝るわ」
ザンパノ:「おい、お前。名前は?」
ジェルソミーナ:「C・ジェルソミーナ」
ザンパノ:「よし、乗れ」
ジェルソミーナ:「明日ね」
ジェルソミーナは外に行こうとします。
ザンパノ:「乗れと言うんだ!」
ザンパノが巡業するオート3輪の荷台には野宿の道具、芸の小道具、衣装、布団。
ザンパノという男は粗野で乱暴な男です。
ザンポーノという豚料理から来ているそうです。
粗暴の象徴ですね。
ザンパノといっしょに寝るのはいやだと、ジェルソミーナは外で寝ようとしますが、無理やり連れ込まれて、手籠めにされてしまいます。
悲しみの表情でジェルソミーナは涙を拭きます。
04.二人の共演
その横でザンパノは眠っていました。
ある村でこの鎖の引きちぎりをやっています。
ジェルソミーナも綺麗な道化の衣装を着て、ピエロの化粧をし、上手く太鼓を叩けていました。
鎖を引きちぎった後の目を押さえてふらふらのザンパノ。
ザンパノ:
「さて、皆さん」
「ただ今から珍無類の喜劇をご覧に入れます」
「よろしくどうぞ」
「心臓の弱い人は見ないで下さい」
「笑い死ぬと困ります」
「ただし無料ではお見せしませんぞ」
「あとで女房が帽子を持ってまわる」
ジェルソミーナに小声で言います。
ザンパノ:
「おい、急げ」
「急げ」
ジェルソミーナは道化に扮して、役を演じます。
ザンパノ:「こんにちは・・・ジェルソミーナさん」
ジェルソミーナ:「ザンパノ!」
猟師に扮したザンパノ。
ザンパノ:
「あんたはこの私が恐ろしくないのかね?」
「いや、私の持ってる ”ペッポウ” が怖くないのかね」
ザンパノは ”てっぽう” と発音できずに ”ペッポウ” としか言えません。
ザンパノ:「怖くなければアヒルを撃ちに行きましょう」
ジェルソミーナ:
「あっはっはっは。 ”ペッポウ” じゃありませんわ」
「 ”てっぽう” と言うのよ、おバカさんね」
「アヒルはどこにいるんです?」
「もしアヒルがいなければ、お前がアヒルで俺が猟師になる」
ジェルソミーナ:「いっあー、いっあー」
ザンパノ:「それではロバだ、アヒルでなく」
ジェルソミーナ:「クワックワックワックワッ、クワックワックワックワッ」
ザンパノはライフルを構えてジェルソミーナを狙います。
そして鉄砲を打って、二人は同時に倒れて、寸劇は終わりました。
大拍手の観客たち。
ジェルソミーナは得意げな顔をしました。
ザンパノ:
「ありがとうございます」
「女房が帽子を持ってまわります」
「どうぞ、よろしく」
ジェルソミーナは満足げでした。
劇中劇の内容は現在のザンパノとジェルソミーナの関係を表していて、私たち観客にとっては物悲しくもあります。
ウメ
05.豪華な夕食
お金が入ったので、二人はレストランに夕食に行きます。
ザンパノが爪楊枝をくわえてるのを見て、ジェルソミーナも面白げにマネします。
子羊の肉とシチュー、パスタ、赤ワインと豪華な夕食となりました。
お酒に酔ったザンパノ。
ニーノ・ロータの陽気な音楽が冴えます。
ジェルソミーナ:「ザンパノ」
ザンパノ:
「故郷はどこなの?」
「生まれ故郷だ」
ジェルソミーナ:
「使う言葉が違っているのね」
「生まれたのは?」
ザンパノ:
「親父の家さ」
「ボーイ、ワインだ」
ザンパノはジェルソミーナを人扱いしていないのか、人とコミュニケーションを取ることができないのか。
人を寄せ付けたくない素振りをいつも見せています。
とは言っても職業は人を集める、喜ばせる仕事なんですね。
心のどこかでは人を求めている孤独な男です。
店にふくよかなスタイルのいい女性がいました。
ザンパノはさっそく目をつけます。
ザンパノ:「おい、こっちに来い」
客の女:「私のこと?」
ザンパノ:「そうだ、来い。何してる?」
客の女:「別に何も」
ザンパノ:「ではかけろ。飲むか?」
客の女:「ありがと」
ザンパノ:「酒だ!」
客の女:「ここは本当にいやな店よ」
ザンパノ:「タバコはどうだ?」
客の女:「前に会ったわね」
ザンパノ:「方々へ行くからな」
客の女:
「確かに会ったわ?」
「商売は?」
ザンパノ:
「旅の芸人だ」
「こいつは助手だ」
「おれが1から芸を教えたんだ」
「見ろ、見ろ、さわってみろよ」
ザンパノは腕の筋肉を女に触らせます。
客の女:「たくましいのね」
ザンパノ:「これをみろ、1時間で稼いだんだ」
客の女:「1枚くれる?」
ザンパノ:「バカ言うな」
客の女:「ここは臭いわ。花火を見に行きましょうよ」
ザンパノ:「ワインを2本くれ。いくらだ?」
3人は店を出ました。
06.置いてけぼり
客の女:「これは凄いわ、あんたの車?」
ザンパノ:
「何が気に入らないんだ。アメリカ製だぞ」
「7年間も使って一度も故障がないんだ」
女とザンパノは車に乗り込みました。
ジェルソミーナ:「私はこっちに乗るの?」
ザンパノ:「お前は待ってろ」
ジェルソミーナ:「どこへ行くの?」
ジェルソミーナは路上に置いていかれました。
石畳を馬がパカパカと寂しく通ります。
そして朝まで二人は帰ってきませんでした。
路上に座り込んでいるジェルソミーナを子供たちが集まって見つめています。
小さな子供がジェルソミーナに自分のおもちゃをプレゼントします。
いつも子供たちが集まってくるジェルソミーナに神聖な雰囲気が感じられます。
通りがかりの女:「まだいるの?」
ジェルソミーナは施しを受けていました。
通りがかりの女:
「なぜ食べなかったの?」
「どうして?どんなつもりだろうね」
ジェルソミーナ:「スープなんてまっぴらだわ」
通りがかりの女:
「あんたの亭主はオート三輪に乗ってるんだろ?」
「どこにいるのか知りたいの?」
「森のはずれの畑の中で寝てたわよ」
ジェルソミーナ:「どこ?」
通りがかりの女:「村はずれよ」
ジェルソミーナは走って探しに行きました。
ザンパノは原っぱに横たわっていました。
ジェルソミーナ:
「ザンパノ」
「ザンパノ!」
ジェルソミーナはザンパノの心臓の音を聞きます。
ザンパノは目を覚まし、ジェルソミーナは安心します。
もう一度眠りだすザンパノの寝顔を見て、ジェルソミーナは胸をなでおろします。
あたりの花を見ながら散策するジェルソミーナに、一人の子供が後ろからついていきます。
目の前の枝のマネをしておどけるジェルソミーナに、女の子は笑いました。
やがて目を覚ましたザンパノ。
ジェルソミーナはそばでトマトの種を植えていました。
ジェルソミーナ:
「目が覚めた?」
「トマトを植えたわ」
ザンパノ:「トマトだ?」
ジェルソミーナ:
「種を見つけたの」
「大きい種よ。だから植えたの」
ザンパノ:「車に乗るんだ」
ジェルソミーナ:「もう行くの?」
ザンパノ:
「トマトが育つまで待つ気か」
「車を押すんだ」
うるさい騒音の車で、二人は移動します。
ジェルソミーナ:「ローザの時もこうだったの?」
ザンパノ:「何が」
ジェルソミーナ:「ローザとよ」
ザンパノ:「何を言うんだ」
ジェルソミーナ:
「あの女と寝たんでしょ」
「ローザともしたの?」
ザンパノ:
「バカな話はよせ」
「何だ」
ジェルソミーナ:「どんな女とでも一緒に寝るの?」
ザンパノ:「何だと」
ジェルソミーナ:「女ならいいの?」
ザンパノ:
「俺と一緒にいたいのなら、つまらんことを言うな」
「何がトマトだ。いったい何を考えてるんだ」
ジェルソミーナは人間扱いされていない待遇に段々と嫌気がさして来ます。
車の前には羊飼いがムチを打ってひつじの群れを懸命に進ませていました。
スイセン
~PART2へつづく
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