内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/10

2022-01-10 12:57:49 | 日記
原発性アルドステロン症に対するスピロノラクトンの心血管イベントの抑制効果を検討したコホート研究
Lancet Diabetes Endocrinol 2018; 6: 51-59

スピロノラクトン服用で加療されている原発性アルドステロン症患者 602例と本態性高血圧症患者とで、心血管イベントと死亡のリスクを比較した。

その結果、スピロノラクトン服用で加療されている原発性アルドステロン症患者のうち、血漿レニン活性が 1 ng/mL/h 未満に抑制されたままになっている患者では本態性高血圧症の患者と比較して心血管イベントと死亡のリスクが高かった (それぞれハザード比 2.83, 95%信頼区間 2.11-3.80、ハザード比 1.79, 95%信頼区間 1.14-2.80)のに対し、血漿レニン活性が 1 ng/mL/h 以上と抑制が解除されている患者では有意なリスク上昇を認めなかった。この結果から、原発性アルドステロン症をミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で治療する場合は、血漿レニン活性 1 ng/mL/h 以上が治療目標とされている。

具体的な治療方法としては、スピロノラクトン 12.5-25 mg/day で開始し、血圧、電解質、腎機能を確認しながら 4-8週毎に 25-50 mg/day ずつ、最大 200 mg/day まで増量する。注意するべき副作用としては高カリウム血症がある。他に原発性アルドステロン症では過濾過 (hyperfiltration) があり、スピロノラクトンはこれを解除するので軽度のクレアチニン上昇を認めることがある (C irculation 2018; 138: 823-835)。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5953512/

2022/01/10

2022-01-10 12:16:38 | 日記
中枢性副腎皮質機能低下症
last updated: 2019

1. 定義

・副腎不全のうち,副腎の機能障害によるものを一次性, 下垂体におけるACTH分泌機能障害によるものを二次性, 視床下部におけるCRH分泌機能障害によるものを三次性という.

2. 二次性副腎皮質機能低下症

・下垂体の障害はACTHを含む汎下垂体機能低下症を来し得る.具体的には腫瘍(頭蓋咽頭腫, 腺腫など),医原性(手術, 放射線療法), 感染症(結核, ヒストプラズマ症), 浸潤性疾患(下垂体炎, ヘモクロマトーシス),下垂体卒中,遺伝子変異,empty sella が挙げられる.

3.ACTHを含む汎下垂体機能低下症

・PROP-1 の変異によるACTHを含む下垂体機能低下症の報告がある.ただし, PROP-1 は ACTH産生細胞では発現していない(J Clin Endcrinol Metab 2000; 85: 4556, J Clin Endoclinol Metab 2004; 89: 5256).

・下垂体形成の初期にはたらく転写因子(HESX1, LHX4)の変異もACTHを含む汎下垂体機能低下症を来し得る(J Clin Endocrinol Metab 2003; 88: 45).


4.ACTH単独欠損症

4-1. 自己免疫

・ACTH産生細胞を選択的に欠損する下垂体炎の症例が報告されている(Ann Intern Med 1986; 105: 200).

・ACTH単独欠損症と円形脱毛症が合併する症候群(triple H syndrome)が3症例(女性2例, 男性1例)報告されている. 女性の1症例では, 白斑と前向健忘をともない, MRI で海馬の萎縮を認めた. 男性1症例では, 皮膚生検で毛包周囲のリンパ球浸潤を認めた. 著者らは triple H syndrome の機序として視床下部(または下垂体ACTH産生細胞), 毛包, 海馬に共通する抗原に対する自己免疫を想定している(J Clin Endocrinol Metab 2000; 85: 2644, Eur J Endocrinol 2002; 147: 357).


 4-2. 遺伝子変異

・ACTH単独欠損症を来す極めて稀な変異遺伝子としては, POMC, PC1, TPITが知られている.

・小児期に発症する二次性副腎皮質機能低下症の原因として propiomelanocortin (POMC) の機能欠失変異のホモ接合または複合ヘテロ接合が同定された7症例が報告されている (Nat Genet 1998; 19: 155, J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 4955).

・ACTH単独欠損症の原因として, POMCからACTHを切り出す酵素である prohormone convertase 1 (PC1) の機能低下をもたらす遺伝変異も報告されている (Clin Endocrinol 1993; 39: 381).

・新生児発症のACTH単独欠損症の原因として, ACTH産生細胞の分化に必須の転写酵素である TPIT の遺伝子変異が報告されている.
新生児発症のACTH単独欠損症27例のうち17例でTPIT遺伝子の機能欠失変異のホモ接合または複合ヘテロ接合が報告されている(J Clin
Endocrinol Metab 2005; 90: 1323).


5. 三次性副腎皮質機能低下症

・三次性副腎皮質機能低下症の原因として最も多いのは, ①高用量ステロイド治療の中断と ②Cushing症候群などの副腎皮質機能亢進症の治療後である.

・高用量ステロイドは視床下部におけるCRH産生と分泌を低下させる. ステロイドはまた下垂体におけるCRH刺激に対するACTH産生と分泌を低下させる. さらにACTH刺激が失われると, 副腎皮質束状層および網状層が萎縮し, コルチゾール産生が低下する. 一方, アルドステロン産生はACTH刺激よりもレニン-アンジオテンシン系に依存しているため, アルドステロン濃度は正常に保たれる.

2022/01/10

2022-01-10 12:06:07 | 日記
非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic statohepatitis :NASH)
last update: 2018/7/9

1. 疫学

・世界全体のNAFLDの有病率は 25%,最も有病率が高いのは南米(31%),中東(32%),でアジア(27%),アメリカ(24%),ヨーロッパ(23%)が次ぐ.アフリカ(14%)は低い(Hepatology 2016; 64: 73-84).

・NAFLD患者のうちおよそ30%がNASHに進行する(Int J Mol Sci 2016; 17)

・NASH患者のうち20-40%が肝線維化に進行する(Gastroenterology 2015; 148: 547-555).

・NASH患者のうち 5%未満が肝硬変に至る(Hepatology 2015; 61: 1547-1554).

・NAFLD患者における HCC の罹患率は不明である.Ekstedt らは肝生検によって診断した NAFLD患者を26.4年間追跡したところ、5% が HCC が原因で死亡したと報告している(Hepatology 2015; 61, 1547-1554).


2. screening

・2018年現在、NAFLDの screening 条件を明確に定めた guideline は存在しない.

・American Association for the Study of Liver Disease (AASLD) は長期予後と経済性についての知見が不足しているため NAFLD の screening は推奨しないとしている(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・NAFLDの診断は病歴,血清学的検査,画像検査(エコー,CT,MRI) の結果を総合して行う(Clin Mol Hepatol 2017; 23: 290-301, World J Gastroenterol 2014; 20: 7392-7402).


3. 病期診断

・NAFLD患者において肝線維化が最も強く死亡を予測する因子である(Int J Mol Sci 2016; 17).したがって,NAFLDを診断した場合、線維化の程度を決定する必要がある.

・NASHの診断と,炎症および線維化の評価については肝生検が gold standard である.しかし,肝生検の欠点として高い侵襲性と費用,サンプルエラーがある.そのため,より侵襲性の低い肝線維化の評価法の開発が望まれている

・肝線維化の評価ツールとして NAFLD fibrosis score (NFS) がある.これは,年齢,BMI,血小板数,トランスアミナーゼ(AST, ALT)に基づいていて,肝線維化の程度を評価するバイオマーカーとしての有用性が示されている(Gastroenterology 2015; 149: 389-397).

・NFS の他にも肝線維化を捉えるための非侵襲的なツールとして fibrosis-4 (FIB-4) score,AST to platelet ratio, enhanced liver fibrosis panel, Fibrometer, Fibro Test, Hepascore が開発されている(Dig Dis Sci 2016; 61: 1356-1364).

・AASLD は肝硬変のリスクが高い NAFLD患者の同定のために NFS または FIB-4 で肝線維化リスクを評価することを推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・肝線維化の程度を評価する画像診断法として,magnetic resonance elastography (MRE) とtransient elastography (TE) がある.

・TE はエコーで肝の剛性 (stiffness)
を評価する方法で、非侵襲的で簡便ではあるが、結果のおよそ25%は信頼性に欠け、解釈できない(Am J Gastroenterol 2016; 111: 677-684).特に肥満がある患者では、皮下脂肪によって elastic shear wave が減弱するため診断能が低下する(Aliment Pharmacol Ther 2013; 37: 392-400).

・MREはTE よりも正確に NAFLD患者の肝線維化の程度を評価できる(J Hepatol 2013; 58: 1007-1019).MREの肝線維化に対する感度は91%(95%CI 83-96%)で,特異度は86%(95%CI 65-96%)である(Hepatology 2014; 60: 1920-1928).

・AASLDは NAFLD の患者に対して肝硬変のリスクが高い NAFLD患者の同定のためにTEまたはMREを行うことを推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).


4. 治療

・生検で診断された NASH 患者を対象とした前向き研究で,10%の体重減少は組織学的に肝の線維化を改善させた(Gastroenterology
2015; 149: 367-378).

・AASLDはNAFLDの管理において運動と食事の改善を推奨している(Hepatology 2017; 67: 328-357).

・2018年7月現在,FDAが承認している NAFLD に対する治療薬は存在しない.

・2013年にFDAとAASLDによる合同ワークショップでは,NAFLDに対する治療薬の開発を困難としている要因として、臨床的なアウトカムに基づくエンドポイントが欠けていることが指摘された.また,死亡率をエンドポイントとする場合,肝線維化が進行していないNASH患者を対象とする観察期間 10-15年の大規模なコホートが必要とされた(Hepatology 2015; 61: 1392-1405).

・NASHの病理にはインスリン抵抗性と酸化ストレスが関与していると考えられているので,インスリン抵抗性改善薬である thiazolizine ( ex. pioglitazone ) と抗酸化薬である vitamin E ( tocopherol ) がしばしば使用されている(Gastroenterology 2001; 120: 1183-1192, Alcohol 2004; 34: 67-79).

・247名の糖尿病を合併していない NASH 患者を対象に vitamin E および thiazolizine
の治療効果を検討した多施設,2重盲検の RCT では,2年間の観察期間で vitamin E 800
IU/dayについては偽薬と比較して有意な組織学的改善 (43% vs 19%, P = 0.001) を認めた.一方、pioglitazone 30mg/day では有意な改善は認めなかった(34% vs 19%, P = 0.04).いずれも偽薬と比較して有意にトランスアミナーゼ(AST/ALT),脂肪肝,小葉の炎症を改善させたが,線維化の改善は認めなかった.Pioglitazone 投与群では有意な体重増加(+4.7 kg, P <0.001)を認めた(N Engl J Med 2010; 362: 1675-1685).

2022/01/10

2022-01-10 08:04:17 | 日記
デオキシコルチコステロン産生副腎皮質腫瘍の症例報告
日本泌尿器科学会雑誌 1995; 86: 957-960

高血圧症と低カリウム血症を認め、アルドステロン作用亢進が疑われるが、アルドステロンは抑制されており、アルドステロンの前駆体であるデオキシコルチコステロンが高値となる。

診断時の平均年齢は44歳で、1995年の時点で世界で報告例は 19例しかなかった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1989/86/4/86_4_957/_article/-char/ja/

デオキシコルチコステロン産生副腎皮質腺腫の29歳女性についての症例報告
Endocr J 1995; 42: 637-642

切除した腫瘍の免疫染色では、P450 17α (17α-水酸化酵素) は検出されなかった。17α-水酸化酵素を欠損していれば、糖質コルチコイドや副腎アンドロゲンは合成できず、鉱質コルチコイドが蓄積する。

しかし、P450 11β (11β 水酸化酵素 ※アルドステロン合成酵素と相同性が高いので、11β 水酸化酵素に対する抗体はアルドステロン合成酵素に結合する)は検出された。

一方、腫瘍組織の 11β-水酸化酵素の酵素活性(アルドステロン合成酵素は 11β水酸化酵素活性も有する)は正常組織と比較して低下していた。

これらの結果から、腫瘍組織で 17α-水酸化酵素が発現低下し、11β水酸化酵素(アルドステロン合成酵素)の活性が低下することにより、デオキシコルチコステロンが蓄積したと推測された。


妊娠後期に発見されたデオキシコルチコステロン産生副腎皮質腺腫の症例報告
Endocrinol Diabetes Metab Case Rep 2019; 18-0164

低レニン・低~正常アルドステロンの高血圧の鑑別としては、Cushing 症候群、先天性副腎過形成、Liddle 症候群、apparent mineralcorticoid excess, 偽性アルドステロン症、11β-デオキシコルチコステロン産生腫瘍が挙がる。

デオキシコルチコステロン高値は 17α-水酸化酵素または11β-水酸化酵素の欠損、あるいは 11β-水酸化酵素の活性阻害薬(メチラポン、ミトタン)が原因になる。


糖質コルチコイド産生腫瘍におけるステロイドホルモン合成酵素の転写制御の異常についての総説
J Steroid BioChem Mol Biol 2003; 85: 449-456
Endocrinology 2011; 152: 2266-2277

ホルモンを過剰産生する副腎皮質腺腫の原因としてステロイドホルモンの合成酵素自体の変異は知られておらず、ステロイドホルモンの合成酵素の転写制御の異常が重要な役割を果たしていると考えられている。

ステロイドホルモンの合成酵素の転写制御で重要なはたらきをすると考えられているのは、SF-1 と COUP-TFs である。

SF-1 は副腎皮質に特異的に発現する転写因子で複数のステロイドホルモン合成酵素の転写を制御している。一方、COUP-TFs は SF-1 の活性を負に制御している。

実際、コルチゾール産生腺腫では、17α-水酸化酵素の過剰発現を認める一方で、COUP-TFI, COUP-TFII はともに発現低下していた。

→DOC 産生腫瘍で SF-1, COUP-TFs, ステロイド合成酵素の発現量を調べられれば、DOC 産生腫瘍の病態生理解明に有用な情報が得られるかもしれない。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12943735/

副腎皮質に特異的な転写因子である DAX-1 と SF-1 についての総説
Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 2015; 29: 607-619

DAX-1 は伴性遺伝の遺伝形式をとる先天性副腎低形成の原因遺伝子として同定されている。SF-1 は先天性副腎皮質機能低下症および精巣低形成の稀な原因。

DAX-1 も COUP-TFs と同様に SF-1 の転写活性を負に制御することが示されており、副腎腫瘍での発現量が調べられている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5159745/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11592817/