マニラは雨季に入ったようだ。 ここずーと1週間、曇り空、雨。
今日、大雨。 豪雨かと思えばおもむろ明るくなって、日が射してくる。
しばらくして、また雨。 熱帯地方独特の強い雨。 スコール。 しかし、不安な感情には襲われない。
日本で豪雨が来ると不安さがよぎるのとは対照的なマニラ。
マニラは暑いため、雨が来ると気温が下がり心地良い。
私は銀行にいた。
腰掛けて待っていると、ザザー、バタバタ、激しい音を立てながら雨が降ってきた。
止まない、~止まない、~雨。
帰るに帰れない。
待つ。待つ。待つ。一向に止まない雨。
私には傘がない。
豪雨はさらに激しさを増してきた。おやっ。窓から見える外の風景、道路の様子が変化してきた。
道路が冠水し出した。ドンドン水位が上がってくる。30cm。50cm.80cm....
ええっ? ナンですかこれは?と叫びたい心境。
子供が飛び込んだ。水位は胸辺りに達している。 私は帰れるのか不安になってきた。
銀行内の様子はいたって平静。行員は黙々仕事をしている。電話で話している行員もいる。
内心はらはらしつつも、落ち着いた表情を無理に作り、
手持ちぶたさそうな守衛に声を掛ける。
「いつ止むんでしょうね、この雨」
「Don't worry,it will stop soon」
「私、傘がないんでね、帰れないんです」と言うと、
「No problem sir,wait」
と彼は、歩き出し、窓口の女性になにやら声を掛けている。
ンっ?ナに?
女性は席を立ち、歩き出した。「ちょっと待ってください。傘を買ってきますから」 と私に声を掛け雨の中を出かけていった。
”えっ、傘を買う?私のために?”。 ンっ
しばらくして帰ってきた彼女の手には傘が握られていた。服が濡れている。
”「Sir,here you have umbrella!」"
ありがとう。ありがとう。私はどんな表情を作ったらよいのか戸惑いながら、誠意いっぱい、礼を言おうと心は はせるのだが、言葉はうまく出てこず、ただ、目をギンギンさせて、Thank you!と言った。
傘代100ペソ渡す。
日本ではありえない出来事。
~~~
傘をさして、私は外に出た! あっ、冠水しているのは銀行前50mくらいのみで、左右に目を投げると向こうには車が列を成していた。
銀行前の道路は土地が低くなっており、周囲の雨水がなだれ込み冠水していたのだった。車列はおとなしくきれいに並んで待っている。水が引くまで待っているのであろうかと思うと、可笑しさがこみ上げてくる。銀行内が平静だったのも理解できた、毎度のことだったのだ。
女性行員は冠水した道路の中、どうやって傘を買いに行ったか? それも外に出るとわかった。 山岳地帯を探検するとき絶壁に体を沿わせて進む場面がある。 まさにあれ。建物沿いに体を沿わせて、小さな足場を頼りに私はようやく冠水していない道路まで脱出できたのであった。都会で探検しているような心境になる。
フィリピンらしい出来事。
家に着くころ雨は止み、日が射してきた。オレンジ色の夕日がマンションを明るく照らし出している。
ほのぼのと、今日の出来事がよみがえる。さわやかな女性銀行員の顔、気を使ってくれたガードマン厳つい顔がよぎる。
今日はすがすがしい一日だった。
~ ありがとう。 ~.~
ケソン市トーマス通りでの出来事
本稿は2013年6月に初寄稿したもの。
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