電話(2007年の追想)
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お父さん、今日は電話がテーマです。
5年前の随筆を読むと、上海に風邪引きのまま出かけた主人のことを
案じている話題をお話していました。
人生を気力で押してきた人ですから めったに愚痴やマイナス言葉は
言わない人なのですが、出発前の様子がちょっと気がかりだったのです。
大陸は空気が乾燥しているから 彼も不安だったのでしょう。
張りのある元気な声を聞けてほっとしているってことを 話していました。
彼との電話の思い出は 私が調布、彼が奈良という頃に始まりました。
昭和40年卒でしたので、電話代と新幹線代に給料は毎月消えていました。
商社に勤めていたので東京に出張というのがあり、領事館のもめごとなど
何時もクリアしてくるので 彼が専門のように来ていたように思います。
彼は10年ごとの周期で体調が崩れ また持ち直すのですが、
昭和55年が今までで最悪でした。
奇跡的に乗り切り、その頃から電話連絡が再開しました。
車での移動がふえてきたので、自分の居場所を
知らせておきたかったのでしょう。
自動車電話が普及し始めたころに、いち早く取り付けました。
彼には必需品だったのです。
確かに命拾いしたのも、この自動車電話のお蔭でした。
長男が結婚していた頃だから、15年くらい前のことです。
土曜日の夕方、「これから高速に乗って家に帰るから・・・」
という自動車電話がありました。
いつもなら30分ほどでインターをおりたという
連絡が入るのにかかってきません。
家まで二十分ほどだし、今日は直接帰ってくるのだと
勝手に解釈していたのです。
雨の夜でした。
7時を過ぎても連絡がないので、車に電話をかけてみました。
高速道路の待避場所に止まっているということでした。
運転の距離感がつかめないので、車の流れが少なくなるまで、
ここにいるといいます。
土曜日でしたので昼食を食べ損ない 空腹が原因のようですが、
尿意ばかりで脱水が気になります。
8時半に「どう?」と様子を聞いても 動けないようです。
今里を過ぎたあたりというのですが、どこに連絡して
助けてもらったら良いのか分かりません。
高速道路の途中ですから・・・
救急車を呼ぶと主人の車はどうすればいいのかなあ?と
通勤では私も運転しているけど、高速道路にはまったく縁がないし
走れないので困ってしまいました。
新婚で別居していた息子に電話したのが 10時前でした。
理由を話し 嫁さんは高速道路の経験があるのかと聞いてみると、
「大丈夫!暴走族の腕前やで~」とのこと。
主人の救出がやっと始まり、家に帰ってきた時には
日付が変わっていました。
肝臓疾患なので身体のだるさは日常のことです。
私は簡単に疲れたとか、安易にしんどいとか言ってしまうのですが、
彼は口に出しません。
言葉に出してしまうと、おしまいと思っているようです。
いつもぎりぎりのところで頑張っているのだと思いました。
子供が小さい時に「三人の息子には、どこで倒れても
父さんは頑張っていたということを示したい」と 私に良く言っていました。
その通りを今も貫いています。
私は母の介護に専念している立場ですから 奈良のことは一切
彼にお任せですし、また彼もそれを守ってくれています。
3人の息子がぴったりと父に寄り添い
助けてくれているようで安心しています。
あれほど電話連絡を毎日 朝夕取り合っていたのが 嘘のような日々ですが、
これもよけいな心配はさせないという意志の表れなんだと思います。
たいへんな苦労を彼一人に押し付けていると思い すまなく思っています。
電話も、「嫁はんは死んだと思っている・・」そうです。
そんな主人のことを これからもしっかりお守りくださいね、お父さん!
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