トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

第二次世界大戦下のトルコ社会

2022-11-10 21:10:30 | 読書/中東史
『一冊でわかるトルコ史』(関 眞興 著、河出書房新社)を読了した。図書館の新刊コーナーにこの本が展示されていたので借りて見た。私は“一冊でわかる○○”を謳った書はイージーすぎるイメージがあるので、まず見たことがなかった。 にも関わらず今回借りたのは、表紙や本中のイラストが可愛かったため。イラストを見て決めるというのもアバウトだが、イラストの影響は大きい。読んでみて思ったより . . . 本文を読む

「覇権」で読み解けば世界史がわかる その二

2022-10-23 21:30:13 | 読書/中東史
その一の続き 中東の超大国だったオスマン帝国も衰退していくが、その理由を著者はこう述べる。「長い平和と繁栄が、政治・社会を腐敗させ、制度を硬直化させ、軍隊を弱体化させたため」(171頁)  以下は理由の前の説明文。「歴史を紐解けば、平和というものは半世紀続くことすら稀です。しかし、オスマン帝国はスレイマン大帝のころから100年という長期にわたって平和を甘受しました。 この「あまりにも長すぎる平和 . . . 本文を読む

「覇権」で読み解けば世界史がわかる その一

2022-10-22 21:10:11 | 読書/中東史
『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』(神野正史 著、祥伝社)を読了した。2年ほど前、河北新報で本書の文庫版が紹介されていたので、何時か読んでみようと思っていた。行きつけの図書館でそのソフトカバー版を見かけたため、借りて読んだが、思った以上に面白かった。本書の表紙裏にはこんな内容説明がある。「ローマ帝国、中華帝国、イスラーム帝国、大英帝国、アメリカ合衆国―歴史上、覇を唱えた「世界帝国」。それらの国 . . . 本文を読む

ハレム―女官と宦官たちの世界 その四

2022-10-17 21:30:17 | 読書/中東史
その一、その二、その三の続き 第七章「ハレムと文化」では、ハレムが文化の担い手だった実態が描かれている。特にハレムでは音楽と芸能が重んじられていたという。イスラムでは原則として、歌舞音曲は好ましからざるものということになっているが、実際にはムスリム諸王朝の君主や高官らは歌舞音曲を楽しんでいた。 当然オスマン帝国の宮廷においても、音楽や芸能は一般的だった。小姓の中でも才能を持つ者が芸を磨き、ハレムの . . . 本文を読む

ハレム―女官と宦官たちの世界 その三

2022-10-16 21:30:21 | 読書/中東史
その一、その二の続き 本書にはテーマにちなんだ11編のコラムが載っており、私的にはコラム7「キラー・カドゥンたち――ハレムに出入りしたユダヤ教徒の女性商人」が最も興味深かった。ユダヤ人はイスラム圏でも学才と商才を活かして活躍していたのだ。 レコンキスタ完了後、迫害を逃れるため多数のユダヤ教徒がオスマン帝国に亡命する。彼らはそのネットワークを生かし、オスマン帝国において商業や医療に携わり活躍した。1 . . . 本文を読む

ハレム―女官と宦官たちの世界 その二

2022-10-14 21:30:31 | 読書/中東史
その一の続き 本書で最も興味深かったのは、第六章「内廷の住民たち」の三部「啞者―静謐の担い手」。内廷とはスルタンの生活の場で、ここの住民はスルタン、スルタンの身の回りの世話をする小姓、小姓を監督する白人宦官に加え、小人や啞者もいた。基本的にはスルタンが私的生活を送る場が内廷であり、そのため内廷も広義では「ハレム」と呼ばれることがあるそうだ。「古今東西の王宮で小人が活躍していることに比べて、啞者を抜 . . . 本文を読む

ハレム―女官と宦官たちの世界 その一

2022-10-13 21:40:06 | 読書/中東史
『ハレム―女官と宦官たちの世界』(小笠原弘幸 著、新潮選書)を先日読了したが、久しぶりに面白い歴史選書だった。タイトルだけでは艶っぽい話を期待した読者も一部いたかもしれないが、「女官と宦官たちの世界」という副題から至って真摯な学術書なのだ。新潮社HPでは本書をこう紹介している。 オスマン帝国の「禁じられた空間」で、何が行われていたのか――。性愛と淫蕩のイメージで語られてきたイスラム世界の後宮・ハ . . . 本文を読む

トルコが見た日露戦争

2021-07-22 23:11:04 | 読書/中東史
 前回ロマノフ家にまつわる本を見たので、ロマノフ朝ラストエンペラーが行った日露戦争に関する話を描きたくなった。但し当事国からではなく、トルコから見た日露戦争。当時のトルコはオスマン帝国だったが、戦争の最中、オスマン帝国が日本に対し、出来る限り支援をしていたことは案外知られていない。  例えばロシアの黒海艦隊がいつボスポラス海峡を通過するか、24時間ぶっ通して見張ってくれ、東部国境のロシア軍の動向 . . . 本文を読む

古代オリエントの神々 その三

2020-06-11 21:10:33 | 読書/中東史
その一、その二の続き 東アジアにもブランコを使った儀礼はあったそうだ。一説には春秋時代に斉の桓公が北方の異民族と戦い、その際に伝わった遊具がブランコで、中国では鞦韆と書くという。農作物の豊作祈願よりも遊具の役割が主だったらしく、六朝時代に入るとブランコは女性専用のものとなった。後の明代になると、露骨な性描写のため発禁となった『金瓶梅詞話』の中にはブランコを使った性行為が描かれているそうだ。 当然日 . . . 本文を読む

古代オリエントの神々 その二

2020-06-10 22:00:03 | 読書/中東史
その一の続き 第二章は「地母神が支配する世界」、古代オリエントの地母神が解説されている。ただ、この地母神については私も含めよく理解できない読者も少なくなかったのではないか?字面だけ見ると地母神とは、単に多数の子を産み育てる母神の印象があるが、かなり違っている。 日本の地母神としては夫とともに国生み、神生みを行ったイザナミが知られるが、著者は典型的に発達した地母神とは言えないと述べている。古代オリエ . . . 本文を読む