『古代オリエントの神々-文明の興亡と宗教の起源』(小林登志子 著、中公新書2523)を読了した。本書で初めて小林登志子氏の名を知ったが、氏は古代オリエント歴史学者で専門はシュメール学という。以下は表紙裏での紹介。
―ティグリス・ユーフラテス河の間に広がるメソポタミアの平野、ナイルの恵みに育まれたエジプト。ここで人類は古代文明を築き、数多くの神をつくり出した。エジプトの豊饒神オシリス、天候を司るバ . . . 本文を読む
その①、その②の続き いかにもシーア派が国教の国の歴史教科書らしい、と思ったのがムハンマドが従弟で娘婿でもあるアリーを自らの後継者に推薦したという箇所。(121頁)。しかし実際に初代カリフになったのは長老のアブー・バクル。アリーは35歳に満たなかったため、年功序列の慣行で後継者になれなかったと書かれている。 通説ではムハンマドは後継者を明確に決めずに死去したとされるが、これはスンナ派の公式見解だっ . . . 本文を読む
その①の続き 生徒自身に研究させ自ら考えることを求めるのは、理想にちかい歴史教育だろう。イランでは自らの考えを述べることが重視されているのか?イスラム全盛時代は歴史学が発達し、優れた歴史家を輩出していたのは「考察と研究」の結果だった?教科書だけを見れば、イランでは生徒の自主性を大切にする歴史教育に感じる。 しかし、世間知らずの高校生が自ら調べて述べるのには限界がある。そこで見識不足であれば教師が指 . . . 本文を読む
イランの高校歴史教科書を邦訳した『イランの歴史』(八尾師誠 訳)を先日読了した。明石書店から出版されている世界の教科書シリーズ第45巻で、イランの先史時代からイラン・イラク戦争終結までを扱った歴史教科書である。 翻訳者の八尾師氏の解説によれば、イランにおける初等・中等教育課程で用いられている教科書は基本的に全て国定教科書であり、従って全国津々浦々で同一の教科書が使用されているという。もちろん歴史 . . . 本文を読む
その①の続き 本書で初めて知ったのは1880年に刊行された『トルコ語辞典(カムス・テュルキー)』のこと。純トルコ語系の単語に重点を置いた辞典だが、その著者のシェムセッティン・サーミーは実はアルバニア系ムスリム。彼の兄ナーイムはアルバニア民族主義の先駆者として知られる人物で、そのアイデンティティの構造には複雑なものがあったという。 純トルコ語系の単語に重点を置く辞典の作者がトルコ系ではなく、アル . . . 本文を読む
『オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家』(鈴木董著、講談社学術文庫)を先日読了した。文庫版の裏表紙には次の解説がされている。 ―民族・言語・宗教が複雑に入り組み、多様な人々を包み込む中東・バルカン。その地を数世紀の長きにわたり統治したオスマン帝国の政治的アイデンティティ、社会統合、人々の共存システムとはなにか―。 帝国の形成と繁栄、解体の実像、そして文化世界としてのイスラム世界の伝統を世界史的 . . . 本文を読む
その①、その②、その③の続き「人種」による本性と職務の適否を判断するという決定論は、当事者である奴隷のみならず社会全体の構成に極めて大きな意味を持った。つまり、特定の職務に無条件で特定の「人種」出身の奴隷が当てはめられる、という状況が正当化された。例えばマムルーク朝のマムルークの大多数はキプチャク系チュルク人やチェルケス人が占めていたが、これら「人種」は一般の家内奴隷や宦官としては殆ど史料に現われ . . . 本文を読む
その①、その②の続き 女性奴隷から生まれた子供たちは、自由人女性から生まれた子供らとさしたる区別もなく、普通に父に育てられたとされるイスラーム社会だが、やはり差別は明らかに存在していた。アラブ社会は現代でも男系血統を重視しており、ましてアラブ帝国とも言われるウマイヤ朝時代においては、父がたとえ高貴な家柄のアラブ人であったとしても、母が異民族出身で特に奴隷であった場合、その子供の血筋は賤しいものとさ . . . 本文を読む
その①の続き 逆境に置かれた奴隷は逃亡し、捕えられて罰せられ、またしばしば仕事をサボタージュする。主人は奴隷を怠け者と見なすが、これはアメリカの集団奴隷農場で見られた奴隷の姿と何ら変わることはない。一方、アメリカの農場においても、主人の側近として用いられた家内奴隷たちは主人から愛され、諸事を任される重要な立場にいた。 そういった家内奴隷が、農場の労働奴隷から「主人の回し者」「裏切者」と差別されるこ . . . 本文を読む
奴隷が様々の分野で活躍したと云われるイスラム世界。その実態を解説した『イスラーム史のなかの奴隷』(清水和裕 著、山川出版社)を先日読了した。山川の世界史リブレットゆえに全編91頁ながら、コンパクトにまとめられている。以下は裏表紙の紹介文。
―前近代のイスラーム世界は、奴隷と自由人がともに生きる社会だった。そこでは、つらい肉体労働や性的搾取に苦しむ奴隷もいれば、宮廷で権力を握り、豪華な衣服を身に . . . 本文を読む