その一、その二、その三、その四の続き
週刊誌連載中から漠然と、フランス革命でオスカルは死んでしまうのではないか…という予感はあった。多くの読者も同じ想いだったことをネットで知ったが、アンドレと結ばれた翌日の7月13日、オスカルの目の前で彼が死ぬ展開は驚いた。いかに戦闘状態だったにせよ、夫や恋人がヒロインの目の前で戦死するストーリーは、少なくともそれまで私が見た少女漫画にはなかった。
翌日はあのバスティーユ襲撃。予想通りオスカルも戦死するが、アンドレと同じく銃弾を浴びせられての死、つまり全身ハチの巣状態での落命なのだ。小学生時代の私は、このシーンに大泣きした。余りにも悲し過ぎたし、この作品は悲恋漫画の金字塔となった。
しかし、彼らはフランス革命勃発時に死去した方がよかったと今では思っている。現代人ならフランス革命の経過は知っているし、恐怖政治が吹き荒れ、革命家たちにも粛清が及ぶ。こんな革命の姿を見るのは忍びなかっただろう。バスティーユの英雄も反革命分子と見なされれば、容赦なく処刑される。ベルばらファンのブログ記事「最高の締めくくり方」結びの一文は、全く同感した。
「そんな事態に至る前に、二人とも自分の信念を貫き通し散っていった。見事である。今ではそんなことを感じながら、原作を読んでいる。そして天の国で二人は身分制度から解放され、健康な体を取り戻し、少し遅れてやってきたばあやたちと共に、幸せな日々を過ごしている---そんなふうに考えるこのごろである」
おそらく殆どのファンも同じ想いのはず。しかし、天性の天邪鬼の私はキリスト教的概念でオスカルの死後を空想してみた。革命に身を投じたといえ、オスカルは無神論者ではないし、ジャルジェ家では夜の祈りの時間もあったというから敬虔なカトリック信者だと思う。だがキリスト教の教義からすれば、果たして彼女はそのまま天国に行けたのか、微妙な面があるのだ。まず「男装の麗人」だったこと。聖書には次の文句がある。
「女は男の着物を身に着けてはならない。男は女の着物を着てはならない。このようなことをする者をすべて、あなたの神、主はいとわれる」(申命記22-5)
聖書からの逸脱であり、ジャンヌ・ダルクもこれで裁かれていた。18世紀はジャンヌ・ダルクの時代よりもより世俗的になったが、現代でも聖書の教義は全世界で有効なのだ。
そして婚前交渉。結婚前に性交渉をしても、その後は正式に神前での結婚をすれば結構だが、オスカルは正式な結婚をしていない。これはモロに姦淫に当たる。イスラム教もキリスト教も、処女というだけでほぼ無条件に天国行きを認めても、姦淫した女には実に厳しい。相手あってこそ“姦淫”が成り立つのだが、非童貞は問題にされない。アンドレは天国行きが確実だが、下手するとオスカルは煉獄に送られるかもしれない。オスカルが煉獄で、「汝、姦淫したか」と問われるシーンを空想してしまった。
また、軍隊の隊長だったこともマイナス。「女が教えたり、男の上に立ったりすることを、わたしは許さない。むしろ、静かにしているべきである」(テモテヘの第一の手紙2:12)と言ったのはパウロだが、嫁の来てのないしがないテント職人でも、キリスト教の大聖人。
非効率とやる気の無さで定評のある役所仕事だが、煉獄での審査に比べれば遥かに精力的に仕事をこなしている。審問が長引き、その間、天国でやきもきしながら妻を待っているアンドレ…ああ、宗教はメクドウクサイ。
少女戦士が活躍するのが普通の現代のアニメ・漫画だが、70年代前半までの少女漫画で戦うヒロインはいなかった。しかも女の軍人は珍しい。20代半ばでベルばらを描きあげ、個性的なキャラクターを生み出した池田理代子氏の凄さを改めて感じた。
ただ、ベルばらの愛はいずれも破滅型でもある。読者の大半はこのような恋愛には無縁だし、登場人物に己の思いを託して物語を楽しんでいるのだ。ベルばらを読み直してから暫く、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイの曲「Too Much Love Will Kill You」のリフレーンが、何故か私の頭で鳴り響いている。ズバリ、多すぎる愛は貴方を滅ぼすというのだ。臆病者の私にはどんな愛が幸福なのか、死ぬまで分らないだろう。
◆関連記事:「狂気の愛―ライラとマジュヌーン」
池田先生にとって、おそらくとても愛着があるであろうオスカル。けれどたとえオスカルでも、容赦ない死を与える池田先生。これは「オルフェウスの窓」でも同じですね。まとまらずすみません。
中国人も大好きな様で、金庸の武侠小説(1955-1972)にもたくさん出てきます。男装の麗人ではありませんが、楊家将演義(明代)の穆桂英なども有名です。
貴女の空想した「地獄のオルフェウス」も面白そうですね。原作を離れ、おバカな妄想ゴッコが出来る愉しみもあります。
「オルフェウスの窓」、実は途中までしか見ておりません。ベルばらに比べて暗くシリアスな物語だったため、読むのを止めました。オル窓ファンの友人から聞いたところでは、こちらでも主人公が死ぬそうですね。池田氏が何時から決めていたのかは不明ですが、オスカルには革命時に容赦ない死を与えるつもりだったと思います。喀血はダメ押しの設定だったのでしょう。
そういえば、「リボンの騎士」がありましたね。すっかり忘れていました。実は手塚アニメの中で、この作品は未だに見ていないのです。子供の頃はあの絵柄が何故か苦手で、そのまま見逃してしまいました。ひょっとしてオスカルは、「リボンの騎士」の影響を受けている?
中国古典の戦うヒロインとしては、水滸伝の一丈青が有名ですよね。戦うヒロインが出ない三国志のほうが珍しいと聞いたことがあります。木蘭はディズニーアニメとなりました。穆桂英のことは初めて知りましたが、かなり勇ましい女将軍のようで。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%86%E6%A1%82%E8%8B%B1
「リボンの騎士」はヒロインのサファイア姫は女の子に戻り、隣国のフランツ王子と結婚して終わります。女の子が女の子として幸せになる良いアニメだと思いますよ。
やはり「リボンの騎士」は、隣国の王子様と結婚してのハッピーエンドでしたか。これは少女漫画の王道でもありますね。何故か私は典型的少女漫画が苦手で、「キャンディ・キャンディ」も未だに見ていません。
手塚治虫がインタビューで話していましたが、泣きながらも主人公が死ぬラストを好むのが日本人とか。「鉄腕アトム」もそうでした。アトムは人類を救うために巨大爆弾を抱え、太陽に飛び込みます。いわば特攻型の最後でした。
https://www.youtube.com/watch?v=h8JTHLBq5ww
https://www.youtube.com/watch?v=TBYXVl8mXME
https://www.youtube.com/watch?v=TBYXVl8mXME
「かつての少女」がどのような感想をお持ちか興味津津です。私のらくろは学ぶところ大でした。
興味深い動画の紹介、有難うございました!小学校時代、里中満智子氏の代表作「アリエスの乙女たち」を見たことがありますが、好みではなかったので、それ以降見ていませんでした。その里中氏が何と持統天皇を主人公とした「天上の虹」を書いていたとは知りませんでした。これは面白そうですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E4%B8%8A%E3%81%AE%E8%99%B9
それにしても、勝谷誠彦氏が少年時代から少女漫画を見ていたとは意外でした。動画にもありましたが、実は私も子供時代に母親から、「漫画を見ると、バカになる」とよく言われていました。そのくせ母は漫画も本も読まない。一方、本好きの父は漫画も好み、父が読む劇画(白戸三平作品、子連れ狼等)を、傍から見ているのが私でした。
里中氏は民主党時代の「事業仕分」や、それに対するマスコミ報道に不快感を表していましたね。今にして思うと、日本の漫画文化を潰すための策謀だったとしか思えません。
これからちょくちょくお邪魔させて頂きたいです。
ベルばら、最近また人気みたいですが、
史実通り、ギロチンで断たれるアントワネットはともかく、オスカル&アンドレの場合は私もベストエンドだと思います。
大人になった今は、あれほどかっこよく見えた彼女が、アントワネットよりも、不幸に見えます。
一応、不倫になりますが、生涯掛けて愛する人もいて、恋人のような熱い愛でないにしろ、
おとなしく優しい夫の間には子供もいた。
女性としての幸、不幸はともかく、一通り女性として通る道はアントワネットは歩いています。
それが許されなかったのがオスカルでした。
読んではないですが、新編では、そういう物をオスカルが自分のすてた物としてもう一人の自分にみせられるとかと言うことを読みました。
最後は革命に殉じた形ですが、あの二人が生き残っていても、アンドレは失明してますし、当時結核は不治の病ですし、それがないとしても、全てをすてて、駆け落ちしたとしても、あの二人では庶民の生活は到底できないと思います。
ハングリー精神が足りないですもの。
初めまして、コメントを有難うございました。
エリザベス一世とメアリ・スチュアートの記事をサーチされていたのですか。果たしてどちらの方が女性として幸せだったのでしょうね?前者は世界史に名を残す優れた女王ですが、後者は一通り女性として通る道を歩いている。処刑は不運でも、あの穏やかなデスマスクが全てを物語っているような。
>>大人になった今は、あれほどかっこよく見えた彼女が、アントワネットよりも、不幸に見えます。
全く同感です。私も新編を未だに見ておりませんが、多くのベルばらファンのブロガーが感想を書いており、大体ストーリーは知っています。実は『アニばら鑑賞雑感』という記事もアップしており、オスカルの男装をこう書きました。
「原作ファンだった小学生の頃、軍服姿のオスカルは単純に格好よく、美麗としか思っていなかった。しかし、今では哀しき男装とも感じている。軍服姿を無理強いさせられていたのが実態なのだ…」
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/8930f519beb705279f7d72f59711ca7b