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トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

春の夢 その③

2017-09-18 21:40:06 | 漫画

その①その②の続き
 実はポーの村では、人間を動物同然に檻に閉じ込め飼っていたのだ。毎年ひとりずつ、若い男や女を騙して連れてきては順番に血を吸い、1年後には殺していた。外で狩るより飼育した方が安全だから。村人の普段の食事はバラのスープのみだが、やはり血を吸わねば生きていけぬ化け物ゆえ、新しい血を必要とするのだ。
 ポーツネル男爵一家が村を出たのも、メリーベルが生贄の若い娘に助けを求められ、妹の頼みを受けたエドガーが娘を逃したため、村にいられなくなったのが真相だった。バンパネラの村にも厳格な掟はあり、それを破る者は処罰されるようだ。

 村人はバラの管理をする以外はほとんど寝ているという。ポーの一族は一般に吸血鬼最大の弱点とされている日光も平気で、日中でも出歩ける能力があるにも拘らず、非活動的なのはやはり人間との衝突を避けているのやら。バラが常に咲き誇り、不老不死の人々が暮らす平和な村(飼育される人間には地獄だが)…といった、牧歌的なイメージのあった村を新作は打ち砕いている。
 自分たちには歴史家がいない、謎だらけと言うファルカ。歴史家になりたいとも言っていた彼だが、不老不死では歴史を書く気力も失せるだろう。子供時代は単純に不老不死の一族に憧れたものだったが、殆ど寝て過ごすようなバンパネラライフなど、いかに“かばねやみ”の私でもゴメンだ。

 私が初めてポーの一族を見たのは中学生時代だった。ひとつ年上の従姉に勧められて見たが、これで萩尾望都氏独特の世界にすっかりハマってしまう。それまではベルばらに夢中だった私だが、別の少女漫画の虜になった。年齢的にちかいこともあり、14歳の少年吸血鬼が主人公の漫画はやはり共感する処があったのかもしれない。
 子供の吸血鬼が登場する物語は海外にもあり、アン・ライスの小説「夜明けのヴァンパイア」(※映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」原作)のヒロインは少女吸血鬼。しかしポーの一族に比べ、この小説は大したことがなかった。この2つの作品は類似性が指摘されることがあるらしいが、発表は日本の作品の方が先である。

 シリーズの旧作もついでに読み返したが、40年前の作品でも全く古びておらず、改めて秀作だと感じた。今読み返すと、子供時代とは違う見方が出てしまう。中学生の頃はあれほど若く美しいシーラが、何故フランク・ポーツネル男爵のようなヒゲのオジサンと結婚したのか分らなかった。男爵が永遠の婦人とほれ込むのは当然だが、あれほど淑やかな美女ならば恋人に不足しないだろうに…と思った。
 しかし、今はフランクを選んだ理由が分かる。若くはないが老いてはおらず、成熟した男の魅力に溢れたフランクを若いシーラが愛したことも。すっかりおばさんになったからこそ、こんな見方になるのだ。

 シリーズ中で私が最も気に入ったのが『ペニー・レイン』。wikiには、「最愛の妹メリーベルを失ったエドガーが、代わりの連れ合いとしてアランをバンパネラ(吸血鬼)化させ、その目覚めを待つ間に過去の思い出とメリーベルを失った悲しみに暮れるという内容で、シリーズ中で最も暗い作品となっている」とある。
 言われてみれば、確かに「最も暗い作品」だった。それでもこの先は、主人公たちが新たな暮らしを始めることが伺えるラストなので、私にはあまり暗さを感じなかった。中学生の頃にこれほど素晴らしい少女漫画が見られて、本当に幸いだった。

 新作ではシューベルトの歌曲「春の夢」が使われているため、作者自身もお気に入りの歌曲なのだろう。歌詞も抒情的でいかにも日本人好みだし、ロマン主義の作品なのだ。
 但し、夢をシビアに語った人物もいる。ロマンの欠片もないが、「アラビアのロレンス」の言葉を紹介したい。
人は様々な夢を見る。闇夜の静寂の中、心の奥底で夢を見るものは、目覚めてその虚しさを思い知る。白昼に夢を見る者は危険な者達である。なぜなら、彼らは目を見開き、夢を実現しようと行動するからだ。

 原文付きで紹介したサイトもあり、これも名言だと思う。ロレンス自身がそうだったし、眼を開いて夢を見るのは狂人でなければ、危険な者達なのだ。彼等こそ実存する「吸血鬼」かもしれない。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
宝塚 (スポンジ頭)
2017-11-18 21:18:05
 こんばんは。

 ポーの一族が宝塚で上演されるそうです。やはり宝塚は美男美女が登場する漫画と親和性があるのでしょうか。同じ吸血鬼漫画でも戦争を題材にしたものは宝塚の舞台劇にはなりませんし。
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/2018/ponoichizoku/index.html
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Re:宝塚 (mugi)
2017-11-19 14:03:56
>こんにちは、スポンジ頭さん。

 ポーの一族が宝塚で上演されることは知っていましたが、リンク先を見ると、やはり、、、

 どうしても14歳の少年役は無理がありますね。そして画像の女性はメリーベル?シーラにしか見えません。
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