トーキング・マイノリティ

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青池保子さんのТV出演

2022-03-20 22:00:21 | 音楽、TV、観劇

 録画していたEテレドキュメンタリー、浦沢直樹の漫勉neo(3月9日放送)を見た。この日は青池保子さんの特集で、学生時代から青池さんのファンだった私には見逃せない番組だった。以下は番組HPからの引用。

「マンガ誕生」の瞬間を同時体験する異色のドキュメント。少女漫画界のレジェンド・青池保子さんが登場!▽「ケルン市警オド」の執筆に密着。息をのむカラーページは必見!

 ふだんは立ち入ることができない漫画家の仕事場にカメラが密着!▽キャリア半世紀を超える少女漫画界のレジェンド・青池保子さんが登場!
▽「ケルン市警オド」主人公の顔に1時間超!?こだわりの作画。▽15歳でデビューした直後の葛藤と「イブの息子たち」「エロイカより愛をこめて」の誕生秘話も!「エーベルバッハ現象」!?▽浦沢さんも見惚れたカラーページの執筆は必見。浮かび上がる繊細な雪景色に思わずため息が…。

 インタビューは青池さんの自宅に近い世田谷の2DKマンションの仕事場で行われ、計5日間の取材となったという。インタビュアーが漫画家ということもあるのか、番組では専ら青池さんの漫画の描き方を中心に映していた。いかにプロにせよ、1コマの主人公の顔を描くのに下書きからペン入れまで1時間以上かけていたのは驚いた。
 下書きの線を気に入るまで何度も修正、そして絵を数回ほど鏡で歪んでいないのか確認し、最後は1分以上の長考をして仕上げる。番組では終始穏やかな表情だったが、漫画を描いている時の青池さんはトップ画像のように真剣で難しい顔つき。青池さんに限らず漫画家はこのような表情で作品を描いているのだろう。

 番組ではアシスタント歴は35年と20年という2人のアシスタントも映っており、コロナがなければもっと人数は多いという。漫画の描き方やテクニックよりも、作品について語るのを期待していた私には少し残念だった。
 ただ、青池さんが自分の作品はスピンオフから発生ことが多いと話していたのは納得。現代連載中の「ケルン市警オド」は「修道士ファルコ」スピンオフ作品だし、大ヒット作「エロイカより愛をこめて」も、「七つの海七つの空」「エル・アルコン-鷹-」の流れで描かれている。作品への愛着があるからこそ、スピンオフ作品を描けるのではないか?

 番組で初めて気付いたが、青池さんのカラー扉絵は色遣いがとても美しかった。単行本の表紙よりずっと色がきれいで、原画はこれほどまで発色がよかったとは。
 扉絵はカラーインクを使って描かれていて、青池さんに言わせるとカラーインクは色がきれいに出るという。16枚ものパレットを使って色塗りをしているのも凄いが、あの見事なカラーページはこのような職人技の賜物だった。これまで私は、漫画家ならさっと漫画を描いているというイメージがあったが、大変な誤解だった。

 インタビューから青池さんは、とにかく漫画を描くことを楽しんでいるのが伝わってくる。技術的なことは分からずとも、自分が好きなことを天職にできた成功者のインタビューは見ていて気分がよい。
 しかし、新聞には「好きなことと仕事は別に」というタイトルで、「私は、自分の好きなことを仕事にしてしまわない方がいいと思います。」と書込んだ者がいた。続けて「中には、「好きなことだからこそ仕事にする」という人もいるでしょう。ですが私は、仕事は仕事の時間、好きなことは好きなことの時間と、分けておいた方がいいと思うのです。」と述べている。

 過去記事でも挙げたが、この意見は11歳の女子小学生だった。仕事体験があるのかも疑問な小学生の意見を載せる新聞編集者にも呆れるが、この投稿に対し、ブログ「ブルガリア研究室」管理人さんから興味深いコメントを頂いた
こういう意見を新聞が取り上げたとしたら、編集者の中には、自分の仕事は面白くないと思っている人がいるのでしょう。実際には、世の中に「自分の仕事」とも思っていない、単に社会的に尊敬されると思ってその職業に就くような人もいて、そういう人はどこかで壁にぶつかるし、しょっちゅう「問題発言」とか、「問題行動」を起こす、おかしな人になると思う。(中略)

 人間の仕事は単に金を稼ぐためではなく人生観とか信念をかける覚悟でやらないといい仕事にはならない・・・・つまり、その仕事を愛し、惚れ込むような、感情的にもどこかで面白い、と思えて初めて長続きすると思う。
 これらの事情は、恐らく大部分の大人には分っているはずで、新聞の編集者がそれに気づかないとすれば、よほど自分自身つまらない仕事として、まじめにやっていないのでしょう。そもそも自分の頭で考えずに、社風に合わせて記事を書いていれば、つまらない仕事と感じて当然。

「たとえば絵をかくのが好きな人が、イラストレーターになったとします。最初は楽しいかもしれません。でも、描きすぎて「もう描きたくない」という状態になっても、仕事がある限り、描き続けないといけません。そうすると、絵を描くのが嫌いになってしまうこともあるのではないでしょうか。」と11歳の少女に言わせる新聞も姑息だが、そんな者はイラストレーターだろうが漫画家だろうが挫折する。
 ブンヤから作家に転職、成功した者は少なくないが、地方紙は凡庸な売文業者の吹き溜まりでもある。仕事を愛し、惚れ込みつつ、ひたすら努力し続ける青池さんだからこそ長続きできたのだ。

◆関連記事:「青池保子さんのインタビュー
『エロイカより愛をこめて』の創りかた

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2 コメント

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Unknown (鳳山)
2022-03-22 08:45:18
青池保子さんは、サラディンの日しか読んだことがありませんが、このような方だったんですね。機会があれば他の有名作品も読んでみたいです。
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鳳山さんへ (mugi)
2022-03-22 22:10:51
 一コマの主人公の顔を描くのに1時間以上かけるとは、さすがプロだと感心させられました。このような方だからこそレジェンドになりえたのです。
 一方、11歳児に「好きなことと仕事は別に」と言わせている新聞編集者は記者としてもボンクラでしょう。地方紙はこの類ばかり。
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