数年前、上司が奨めていた。
一般報道の扱い(見方、分析手法、引用の仕方)について、大変参考になるというのだった。
ちょっと興味を持ったが、天の邪鬼な私は飛びつかなかった。
メジャーなものに対するバイアスが働くのである。『有名キャスターが書いたものだから万人受けする内容だろう。したがって程度もそんなに高くないだろう』と、ひねくれた見方をしていたようだ。奨めてくれた上司に心服していなかったのも、私を素直にさせなかった一因だろう。
その後、私は扱われている題材に惹かれて、池上彰氏と佐藤優氏の対談『希望の資本論』を手に取り、“有名キャスターが書いたものだから”というバイアスを捨てることができた。
以上の経緯があって本書を手にした。職場で書籍を大量に処分することになり、かつて上司が奨めた本書もその中に入っていた。皮肉にも、これをもらってきたのである。
面白かった。インテリジェンス系のハウツー物は数多出版されているが、退屈せずに読み進められるのは珍しい。記者の経験に、『こどもニュース』キャスターとして得た知見が活きている。
新人記者時代の苦労と、デスクになって部下を指導した経験が、それぞれ客観的に、相乗効果を上げながら、しかも興味をたゆませず綴られる。さまざまな年齢層、経験の有無に対応した守備範囲には感心し通しだった。
読書家の端くれを自認している私としては、著者と考えが近いと知り、嬉しい発見もあった。
例えば、書店で「買うべきか、買わざるべきか」となった場合、
『私の結論は、「迷ったら買っておく」です』
また酒を辞めて半年になる私には励みになる一節もあった。
『酒は飲めたほうが人付き合いの点でいいことだと思いますが、ひとつだけ言えることは、酒を飲まない人は読書の時間がつくりやすいということです』
『浮世の義理を欠かないと、なかなか本は読めないし、ましてや本を書くことなどできません』
『読書も、いろんな考えや立場の人たちとの「飲み会」だと考えてみてはいかがでしょうか。酒を飲む金で本を買って読み、いろんな考えに触れる』
というわけで読んで良かったと感じている。とはいえ、上司に奨められたときに、すぐ読めば良かったと後悔はしていない。私なりに失敗を重ねながら実地に学んできた。今なら、かつて書いたものが削られたり、ボツになったのを理解できる。
その上で読んだから、余裕を持って、復習するように楽しめたのだろう。
