
たぶん、高校生以来で読んだ。漱石らしからぬ雰囲気をまとった作品。印象に残っていて、いずれまた読もうと思い続けていた。
解説にも書かれているが、主人公が何をしたいのか、どうありたいのか、掴みがたく、小説としてのカタルシスはない。しかし、ある時期の、言うに言われぬ瞬間を描けば、もとより小説らしくならないだろう。作り物めいてない感触が、この作品を新鮮に感じさせている。
高校生のときに本作を読んで、数年後には、まさに主人公のように私は地の底に下りていった。より多くの日当を得られると思って、警備員になったのだ。
私の知らない様々な人たちがいた。就職氷河期と呼ばれた時期である。リストラされた人、自営業の赤字を補うため睡眠時間を労働に充てる人、何かを目指している人、就職浪人、訳有りの人・・・人格は無視された。工事現場の作業員にすら下僕扱い。しかし、『坑夫』作中にあったのと同様、知識人もいた。何らかの事情でドロップアウトし、それでも生きていくため、彼らは夜の時間を切り売りしていた。
底辺を見てきてから本作を読むと、全く異なる輝きを感じる。主人公の揺れ動く心や涙にも感情移入できた。
とはいえ、ずっと再読しようと思ってきたのが、何故いまのタイミングになったのか。私は今も、否、これまで以上に今、迷っているのかもしれない。
主人公は「性格なんてものはない」というようなことを言っているが、同じ文脈で私は、「成長なんてない」のかもしれないと思い始めている。
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