『その日のまえに』(重松清 文春文庫)
心を動かされる瞬間は幾度か訪れた。
“その日”を予期せぬままに別れてしまった友人や、祖父母との(後悔を含む)思い出が連想されるからだろう。
必ずやってくる日のことを、知らぬふりで済ませるわけにはいかない。自分の親も、相当な年齢になったのだ。
という当然なことを思い出させてくれる読書にはなったが、文学として鑑賞した場合は、絶賛するわけにはいかないなと感じた。
ドラマやアニメでよく感じる作り物めいた雰囲気、文体。動画作品の原作となることを意識したのか、逆に動画作品の纏う作風が、この手の作品にとってのベースレイヤーとなってしまっているのか。鶏と卵の関係に陥るのだが、違和感に度々見舞われたのは否定できない。
(一例として)アニメオタクの話し方が、アニメのキャラの模倣によって形成されていることに、妙な気持ち悪さを感じるような瞬間と似ている。
純文学的なものを求めているわけではない、一般の読者にすんなり受け入れてもらうためには、こうしたテレビナイズされた文体が必要で、著者は意図的にやっているのかもしれない。

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