著者の名は目にしたことがある程度で、作品を手にしたこともないし、『赤蛙』という短編の存在すら知らなかった。便覧の年表では色つきで記されていて、文学史的には重要な作品であるらしい。私はいそいそと古本屋で『赤蛙』を探した。
どう感想を述べて良いやらわからない。可もなく不可もなく。読みやすい私小説風の短編が、さらさら読めてしまうが、大して印象にも残らない。自らを犯しつつある病魔、死の予感。これを小動物を観察する視点に特異な詩情を添えはするが、志賀直哉『城崎にて』をなぞったような風にも読めてしまう。
小動物にさえ自らの内面を反映させる日本人特有の精神性。それをもの静かに表現した作風が評価されたのだろうか。悪くはないが、食欲はあまり湧かないのである。
