同年代が書いた戦争文学として注目し、新刊で入手した。新潮文学新人賞受賞作で、芥川賞候補にも挙がっている。
長らく、戦争文学・戦記を読んできた私は『これは経験者にしか書けない聖域、なのかもしれない』と、無意識に特別視してきた。小説とはいえ、戦争を知らぬ人間が空想で書くことは、少なくとも純文学的な領域ではタブーのように捉えていた。
だから、本作には、期待の大きさと同じくらいの疑念を抱きながら手にした。書けるのか? 書いたとして如何ほどのものか? と、批評眼のような色眼鏡で読み始めてしまった。
端正で歯切れ良い文体は、まさしく純文学のそれだった。日本陸軍のことについても相当の知識を備えて書いており、この点で揚げ足を取られることはなさそうだ。
しかし、違和感は否めなかった。語り手の視点や語り口が現代人なのである。
このちょっとした肌触りの違いは、私が多くの戦中派による作品に触れてきたから感じるものだろう。
もう戦中派はほとんど存命していない。戦争を想像で書いて、文句をつけてくる当事者がいなくなったことは、本作のような小説が生まれ始める新たな土壌を育む要因のひとつかもしれない。
そして、私は私が感じた違和感を思い起こしながらこの感想文を書こうとして、もう一つのことに気づいた。いまや、大岡昇平や菊村到、梅崎春生等の愛読家も絶滅危惧種なのだろう、と。
違和感を持たれる心配も必要なくなり、描き方に裁量の余地が拡がったといえる。
と、ちょっと寂しいような感想が、読後10日くらいしてから沸いてきている。
比較する色眼鏡なしに、新たな文学として読まないといけないのかもしれぬ。
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