予科練(←と書こうとして私のスマホは漢字変換できなかった!)の生徒を主人公に語る戦争の青春である。
特攻隊への志願を募るとき「志願者は一歩前へ」と呼ばれ、語り手は硬直し、前へ出そびれる。それが表題の由来である。
酷い時代である。皆、熱病にかかっていたかのようである。だが、日本人の本質は変わるまい。雰囲気に呑まれ、周囲の空気に支配され、雪崩れるように、取り返しのつかないところへ足を踏み入れる。
軍国少年らの群像劇から、そのようなことを考えさせられた。
併録の『マンゴー林の中で』は、特攻用のボート「震洋」の隊長として着任する若い大尉が主人公。
18歳で、特別幹部候補生として終戦を迎えたという著者にとっては、ここで描かれる震洋乗組員の少年らこそ、当時の自分らであったろう。
とはいえ、身に迫るものが文体から感じられないのは、著者の小説家としてのスタンスゆえだろうか。
大衆小説寄りの経済小説を書いて名を挙げた人である。自身への鎮魂賦と解説にはあったが、突き放して、他人事のように書く文面からは、痛みや苦悩、絶望といったものは、さほど感じられない。
私個人は、菊村到の、上手くない戦争小説のほうが、まだ好きである。
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