よい子の読書感想文 

読書感想文552

『わが夢と真実』(江戸川乱歩 東京創元社)

 自ら主体的に神保町へ足を向ければ良いものを、帰宅途上の地下街に時折催される古本市に、受動的に寄ってしまい、こういう予定外な買い物をすること屡々だ。
 想定していなかった書籍との出会いがあって良い反面、催事の終盤には均一価格に下がってタイムセールみたいなことをやるので、つい貧乏性が出て買ってしまうのである。なんとも流されやすい性格だ。
 と、これもそういう経緯で入手したもの。江戸川乱歩といえば私が活字だけの本を手にするきっかけを与えてくれた作家だ。小学校低学年のころ、従兄の真似をして読み始めたポプラ社のシリーズが、私の読書の原点となった。
 私の中では中学3年時、第2次ブームが訪れ、春陽文庫の短編集を読み漁った。以来、たまに春陽文庫のものは手にしてきているが、思えば評伝や本人のエッセイなどは読んだことがなかった。生誕100年に幾つか出た映画まで目を通していたのに、江戸川乱歩自身を知ろうとしなかったのは不思議だ。
 という気づきがあって、先に書いた反省よりも興味が上回って、私は本書を手にしていた。
 ひとこと結論をいえば、題名が内容に負けていた。しかしこれは出版社が勝手に提案したものかもしれぬ。実際は様々な媒体に発表したエッセイ・雑文類をまとめ、幾つかを書き下ろして編んだもので、一貫したテーマがあるわけでもなく、なかには娯楽雑誌に請われて付き合いで仕方なく適当に書き殴ったような雑文もあり、ちょっと閉口した。
 探偵小説の大家にして、戦後は少年らの憧れる作家だった江戸川乱歩。だからこそ許容されたものだろう。
 面白かったのは、初期の短編に登場する一風変わった作中人物を、乱歩の言動が彷彿とさせるところだ。ああ、あれは乱歩の実感も多分に含まれていたのだなと、さまざまな符合があって、興味深かった。
 と、玉石混交ではあり、閉口するときもあったが、通勤電車での居眠り率は低かったし、読み終えて、無性に春陽文庫のシリーズを手にしたくなった。
 第3次ブームとまではいかぬにしろ、あの世界観に浸りたい気持ちが強まっている。
 乱歩に回帰しようとするのは、経験上、メンタル的に弱っているときの兆候でもあるのだが。

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