
広島に用事があり、空いた時間に、my聖地巡礼を行った。若き日に好きで通った古書店、喫茶店、雑貨屋・・・
本通『アカデミー書店』には最初に足が向いた。軒先に積まれた¥100均一の中で、本書の背表紙が私を待っていた。
一時期、髙橋和巳に熱中したが、最後の著作となる本書は未読だった。今では顧みられることの少ない作家であり、ほとんどが絶版、古書店で見かけるのも著名な作品くらいなのである。
死病に罹患してから綴った(或いは口述筆記)エッセイ集である。
髙橋和巳特有の、重厚な文体は鳴りを潜め、死を意識してか無意識か、淡く枯れた書きようが、何故だか、疲れた今の私には涼やかだった。
本当は、多くの論及の後に編み出したかったはずの言葉たちが、直観的に顕現するのを、安易と捉えるか、エッセイらしい軽妙と見るかは評価が別れるところと思う。
帯には「苦闘の航跡を収録」とあるが・・・虚脱したような文体は既に苦闘を終えた者の遺言にも似て、読む側の心持ちを静めさせる。
帰路の電車で、いっきに通読した。
口述筆記、看護、死後の出版、夫の死とほとんど同時だった作家デビュー・・・妻・髙橋たか子の著作にも触れないわけにはいかないと思った。
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