五年ぶり三度目の読書である。
上手い小説ではない。著者の感情が反映され過ぎて、その主張を読むような錯覚を覚えることもあった。
しかし名作だ。天皇という共同幻想を、大胆な、かつ計算高い構成で重奏的に描く。右と左が、戦前と戦後が、あの頃と現在が、あちらとこちらが、少々荒削りながらも巧みにリンクしていく。まるで歴史の走馬灯を見るように。
非日常のフィルターを通してようやく捉えられそうになることがら。著者にしか書けないことはたくさんあったろう。もっと生きて欲しかったと思う。
400ページの大著ながら、2日間通った病院の待合室で読めてしまった。集中力を途切らせないのである。
